日本語の面白い語源・由来(し-⑫)鹿威し・仕付・鹿の角を蜂が刺す・蛇口・生姜・杓文字・小説・紫蘇

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鹿威し

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鹿威し(ししおどし)

ししおどし」とは、竹筒に水を引き入れ、溜まった水の重みで筒が反転して水が流れ、元に戻るときに石を打って音を出すようにした装置です。添水(そうず)。

ししおどしは、元々、田畑を荒らすシカやイノシシ、鳥などを脅すための装置全般を言い、「かかし」や「鳴子」なども「ししおどし」の一種です。

その中でも特に、竹筒に水を引き入れて音を出す「添水」を指したことから、「ししおどし」といえば「添水」を表すようになりました。

上記のとおり、ししおどしは鳥獣を音で脅すためのものであったが、音が風流なことから日本庭園などに設けられるようになりました。

ししおどしを漢字で「獅子脅し(獅子威し)」と書かれることもあるが、ライオンが田畑に来ることなど想定していないため、明らかに間違いです。

「けもの」を意味する「しし」の漢字には「獣」「猪」「鹿」がありますが、「しかおどし」の別名もあるため、普通は「鹿威し」と書きます。

2.仕付/躾(しつけ)

躾

しつけ」とは、礼儀作法を教えて身につけさせること。また、その礼儀作法のことです。犬や猫などペットへの教育。

しつけは、仏教語で「習慣性」を意味する「じっけ(習気)」が一般に広まる過程で「しつけ」に変化し、「作りつける」意味の動詞「しつける(しつく)」の連用形が名詞化した「しつけ」と混同され成立した語です。

裁縫では、縫い目を正しく整えるためにあらかじめ荒く縫うことを「しつけ(仕付け)」といいます。

また、田畑に作物を植えることを「しつけ(仕付け)」ということからなどともいわれますが、混同された要因の一部にすぎません。

その他、しつけの語源には、「押し付ける」や「し続ける」の変化という説もありますが、これらは論外です。

漢字の「躾」は、しつけの対象を礼儀作法に限定する武家礼式の用語として生まれた国字です。

この字が生まれた頃から、「仕付け」が別語と意識されるようになりました。

「躾」には、身(体)を美しく飾る意味があり、「身」に「花」という漢字も作られました。

3.鹿の角を蜂が刺す(しかのつのをはちがさす)

鹿の角を蜂が刺す

鹿の角を蜂が刺す」とは、手ごたえのないことのたとえです。鹿(しし)の角を蜂が刺す。

鹿の角に蜂が刺しても、鹿は痛くも痒くも全く感じないことから、いっこうに手ごたえのないことのたとえとして、「鹿の角を蜂が刺す」と言うようになりました。

同様の句に「牛の角を蜂が刺す」がありますが、どちらが先に生まれたか定かではありません。

4.蛇口(じゃぐち)

ライオンの蛇口

蛇口」とは、水道管の先に取り付け、水量の調節や流れの開閉をするための金属製の口です。

蛇口は、その形がヘビに似ていることから付いた名前ではありません。

日本で初めて水道が開設されたのは明治20年の横浜で、道路の脇に設置された共用栓から水が供給されていました。

当時の共用栓はイギリスからの輸入品が多く、ヨーロッパで水の神とされているライオンが水道の口に取り付けられていた。

日本で共用栓が作られるようになると、日本や中国の水の守護神である龍のデザインとなり、一時は「龍頭・竜頭(りゅうず)」と呼ばれていましたが、龍の元となった生き物がヘビであることから、「蛇体鉄柱式共用栓」と呼ばれるようになりました。

やがて、専用栓が付くようになった際、「蛇体鉄柱式共用栓」の名から「蛇口」と名付けられました。

そう言えば、神社の手水舎(ちょうずしゃ/ちょうずや)にも龍の蛇口(下の画像)がありますね。

神社の手水舎・龍の蛇口

5.生姜(しょうが)

生姜

生姜」とは、ショウガ科の多年草です。根茎は辛みと芳香があり、食用・香辛料とします。ハジカミ。クレノハジカミ。ジンジャー。生薑。けちんぼう。

中国では、生姜を「薑」と書き、生のものを「生薑」、干したものは「乾薑」といいます。

このうち、生の生姜を表す「生薑」を音読みした「シャウキャウ(シャウカウ)」が転じ、日本では「ショウガ」と呼ばれるようになりました。

「キャウ(カウ)」が「ガ」の音になったのは、ミョウガの影響と考えられます。

中国と同じく、日本でも元々は生のものを「しょうが」と呼んでいましたが、やがて干したものも「しょうが」と呼ぶようになりました。

漢字では「生姜」と書きますが、「姜」は「薑」と同音であることから代用したもので、本来は「生薑」が正しい漢字です。

「しょうが」と呼ばれる以前は、「ハジカミ」や「クレノハジカミ」と呼ばれていました。
「ハジカミ」は元々「山椒」を表す名で、それに中国渡来を表す「呉の」を冠して「クレノハジカミ」と呼ばれていました。

それが、単に「ハジカミ」といっても「生姜」を表すようになり、山椒からその名を奪いました。

ケチな人を指して「生姜」と言います。これは、食用に用いられる根茎の形が、人が手を握った時の形に似ていることからといわれます。

「新生姜」は夏の季語、「生姜湯」「生姜酒」「生姜味噌」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・団欒や 庭より抜きし 新生姜(渡辺方子)

・生姜湯に 顔しかめけり 風邪の神(高浜虚子

・老残の 咽喉にひりりと 生姜酒(宮下翠舟)

・霜朝の 嵐やつつむ 生姜味噌(服部嵐雪)

6.杓文字(しゃもじ)

しゃもじ

しゃもじ」とは、飯や汁をすくうのに用いる道具です。特に、飯を炊飯器やおひつから食器に盛る道具。皿形の部分に柄がついています。

しゃもじは、「しゃくし(杓子)」の「しゃ」に「文字」をつけた女房詞の一種の文字言葉が一般化した語です。

しゃもじと同様に「文字」をつけた文字言葉には、「鯉」をいう「こ文字」、「髪」をいう「か文字」などがあります。

飯を盛るものを区別して「めじゃくし(飯杓子)」や「いいがい(飯匙)」と言いましたが、「しゃもじ」は飯だけでなく、汁をすくうものも含めた呼称でした。

時代と共に「めじゃくし」や「いいがい」の語は廃れ、飯を盛るものを「しゃもじ」、汁をすくうものを「お玉杓子(おたま)」と呼ぶようになっていきました。

7.小説(しょうせつ

小説神髄

小説」とは、文学の一形式で、作者の想像や虚構のもと、社会や人間の姿を描いた散文形式の物語です。ノベル。

小説は中国の『漢書 芸文志』から出た言葉で、元は、市中の出来事や話題を王に知らせるために記述した文章『稗史(はいし)』のジャンル名です。

民間の言い伝え、伝説・説話など、「取るに足りないもの」「価値のないもの」の意味から「小説」の語が生じました。

長編でも短編でも「小説」と言うのは、「小」が「話の長さ」を表していないためです。

英語「novel」の訳語に「小説」を当てたのは、坪内逍遥が『小説神髄』に用いたことからと言われますが、それ以前から訳語として用いられており、中国でも坪内逍遥が使う以前から「novel」の訳語に用いられています。

ただし、逍遥以前に訳語として「小説」が用いられたのは、「novel」だけでなく「story」や「fiction」「romance」など関連する複数の語でした。

坪内逍遥が「novel」に当てたと言われるようになったのは、これら複数の語に当てられていた「小説」を「novel」に限定し、他の文学形態と明確に区別させたことからです。

8.紫蘇(しそ)

紫蘇

シソ」とは、中国原産のシソ科の一年草です。全草に強い香りがあります。

シソは、漢名「紫蘇」の字音に由来します。

中国で「紫蘇」の名が付いた由来には、食中毒で死にかけていた若者にシソの葉を煎じて飲ませたところ、たちまち元気になったことから、「紫の蘇る」の意味で「紫蘇」といった話があります。

しかし、シソの漢名には「紫蘇」と「蘇」があり、「蘇」のみで「シソ」を表す方が古いため、「紫の蘇る草」ではなく、単に「蘇る草」の意味からと思われます。

「蘇」に「紫」が冠されて「紫蘇」になったのは、赤じその葉は両面が赤紫色であることと、一音語は不安定なためです。

「白蘇(ハクソ)」という漢名もありますが、これはシソ科の「エゴマ(荏胡麻)」のことです。

シソは中国原産ですが、日本でも古くから薬用として栽培されており、「ノラエ(野荏)」や「ヌカエ(糠荏)」と呼ばれていました。

『和名抄』にも「蘇」の訓に「ノラエ」と「ヌカエ」が挙げられています。

「紫蘇」は夏の季語、「紫蘇の実」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・紫蘇の葉や 裏ふく風の 朝夕べ (飯田蛇笏)

・紫蘇の葉に いろなき露の ながれけり(久保田万太郎)

・口中に 紫蘇の実一つ 夜の厨(くり)(中嶋秀子)

・紫蘇の実を 鋏の鈴の 鳴りて摘む(高濱虚子)