日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.名前(なまえ)
「名前」とは、「人や物などを区別して表すために付けた呼び方」です。
名前の「名」は、「名前」の意味で古くから使われています。
「名」は人や物などを区別する呼び方であり、声に出して使うものという見方から、「音(ね)」と同じ語源と考えられますが不明です。
名前の「前」は、「名」に敬称として付けられたと考えられます。
「名前」の語は近世頃から使用例が見られ、明治以降広く使われるようになりました。
2.蔑ろ(ないがしろ)
「蔑ろ」とは、「軽んずること。無視すること」です。
蔑ろは「無きが代(なきがしろ)」がイ音便化された語です。
「代」は「身代金」などにも使われ、「代わりとなるもの」を意味します。
その「代(代わりとなるもの)」が無いということは、「代用の必要すら無いに等しい」という意味です。
人を無いようなものとして扱うところから、軽視したり無視をすることを「ないがしろ」と言うようになりました。
3.ならず者(ならずもの)
「ならず者」とは、「素行の悪い者。ごろつき。生計が思うようにならない者」のことです。
ならず者の「ならず」は、「成る(なる)」に打消しの助動詞「ず」が付いた語で、漢字では「成らず者」と書きます。
「どうにもならず」の意味から「手に負えない」という意味が生まれ、素行の悪い者を「ならず者」と呼ぶようになりました。
1994年にクリントン大統領が、自らにとって好ましくない国家を「ならず者国家(rogue states)」と発言して以降、この言葉は議会やメディアで多く用いられるようになりました。
漢字の「破落戸」は、中国で使われていた言葉です。
日本では、これに「ならずもの」や「ごろつき」の読みを付けたため、「ならずもの」の漢字表記にも「破落戸」が含まれるようになりました。
4.謎々/謎謎(なぞなぞ)
「なぞなぞ」とは、「言葉の裏に予想外の意味を持つ質問をし、その意味を当てる遊び。遠回しにそれとなくわからせるように言うこと」です。
平安中期の『枕草子』には、左右に分かれて謎を出す「なぞなぞあはせ」という遊戯があったことが残されています。
中世以降には、単に「なぞ」とも言うようになり、室町時代には「なぞだて」など謎を集めた本も多くあります。
なぞなぞの語源となる「謎」は、正体などが不明なものをさす代名詞「何(なに)」に、助詞の「ぞ」がついた「なにぞ」という連語です。
「なにぞ」を音便化した「なんぞ」という語形も早くから生まれており、「ん」を表記しない例も見られます。
前に「日本初のなぞなぞ本編纂者となぞなぞ遊び考案者は天皇だった!?」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。
5.成金/成り金(なりきん)
「成金」とは、「短期間で金持ちになること。またその人のこと」です。
成金は、もともと将棋用語です。敵陣に入った駒が、成って金将と同等の動きをするようになったもののこと。特に、「歩(ふ)」をさす言葉です。
急に金持ちになった意味で「成金」が使われ始めたのは、江戸末期頃からです。
日露戦争直後、株で大儲けした鈴木久五郎や、第一次世界大戦で大儲けした造船・海運業者らを「成金」と呼ぶようになり、短期間で金持ちになる意味での使われ方が広まっていきました。
6.七草粥/七種粥(ななくさがゆ)
「七草粥」とは、「正月7日に無病息災を祈って、春の七草(セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ)を入れて炊いた粥」のことです。正月に疲れた胃袋を整えるために食べるものです。
七草粥の風習は中国伝来のもので、平安中期頃に始まったとされます。
中国では「六日年越・七日正月」といわれ、七日がひとつの節目とされていました。
この七日は人を占う日「人日」といい、7種の菜を暖かい汁物にして食し邪気を避ける習慣がありました。
日本では十五日の「小豆粥(あずきがゆ)」の影響により、室町時代以降、汁物から粥へと変わりました。
小豆粥には、米、粟、麦、稗、黍、小豆、胡麻などが入れられました。
七草粥を「七種粥」と表記するのも、小豆粥の影響と考えられています。
「七草粥」「七草」は新年の季語で、次のような俳句があります。
・とけそめし 七草粥の 薺(なずな)かな(星野立子)
・天暗く 七種粥の 煮ゆるなり(前田普羅)
・七草や 明けぬに聟の 枕もと(宝井其角)
・七草や 兄弟の子の 起きそろひ(炭太祇)
7.夏(なつ)
「夏」とは、「四季のひとつで、春と秋の間の季節」です。現行の太陽暦では6月から8月まで。旧暦では4月から6月まで。四節気では立夏から立秋の前日まで。天文学上では夏至から秋分の前日までをいいます。
夏の語源には、朝鮮語の「nierym(夏)」、満州語の「niyengniyeri(春)」など、アルタイ諸島で「若い」「新鮮な」の原義の語と同源などの外来語説。
「暑(あつ)」が転じたとする説。
「生(なる)」が転じたとする説。
「熱(ねつ)」が転じたなど諸説ありますが未詳です。
8.茄子(なす)
「ナス」とは、「インド原産のナス科の一年草(熱帯では多年草)」です。古くから栽培され、高さは約80センチメートル。葉は卵形。夏から秋にかけ、淡紫色の花を開きます。果実は倒卵形・球形・長形などで、果皮の色は普通暗紫色。西日本では「なすび」といいます。
ナスの語源は諸説ありますが、元々は「なすび」と呼び、室町時代の女官に「おなす」と呼ばれるようになり、いつしか「ナス」という呼名が一般化したところまでは共通です。
諸説ある語源の中で、夏にとれる野菜「夏の実(なつのみ)」から、「なすび」になったとする説が最も有力とされています。
他には、「中酸実(なかすみ)」の「か」が省略され転じたとする説。
「生実(なすみ)」が転じたとする説。
「夏味(なつみ)」が転じたとする説などがあります。
「茄子」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・これやこの 江戸紫の 若なすび(西山宗因)
・水桶に うなづきあふや 瓜茄子(与謝蕪村)
・うれしさよ 鬼灯(ほおづき)ほどに 初茄子 (岩田涼菟)
・茄子もいで きてぎしぎし洗ふ(尾崎放哉)
9.奈落の底(ならくのそこ)
「奈落の底」とは、「地獄の底。抜け出すことのできない状態や立場」のことです。
奈落の底の「奈落」は、サンスクリット語「naraka(ナラカ)」の音写「奈落迦」が転訛した語で、「那落」「捺落」とも表記されます。
本来は仏教語で、地獄や地獄に落ちることを意味し、転じて、物事のどん底や底知れない深い場所の意味で使われるようになりました。
「奈落の底」は、どん底を強調する意味で「底」が付けられたものです。
また、劇場の舞台や花道の床下のことも「奈落」と言います。
これは、回り舞台やせりなどの仕掛けが置かれていた場所が真っ暗なため、奈落にたとえたものであり、舞台の床下が奈落の底の語源ではありません。