日本語の面白い語源・由来(し-⑬)柳葉魚・霜焼け・蕁麻疹・痔・出世魚・シャリ・舎利・信太寿司・上納

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柳葉魚

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.柳葉魚(ししゃも)

シシャモ

シシャモ」とは、全長約15センチのキュウリウオ目キュウリウオ科の魚です。体は細長くワカサギに似ています。北海道南東部の太平洋沿岸の一部に分布。産卵前の雌のシシャモは、子持ちシシャモとして珍重されます。

シシャモは、アイヌ語「susuham(ススハム・シュシュハム)」が変化した語です。
「susu(スス・シュシュ)」は「柳(川柳)」、「ham」は「葉」で、「柳の葉」を意味します。

シシャモを漢字で「柳葉魚」と書くのも、「susuham」の意味から当てたものです。

「柳の葉」が「シシャモ」を表すのは、散っていく柳の葉を哀れんだカムイ(神)が魚にしたとか、飢えに苦しんでいた人々をカムイが哀れんで、柳の葉を魚にしたというアイヌの伝説に由来します。

シシャモは漁獲高が激減し貴重な魚となっているため、「シシャモ」として出回っているものの多くは、「カラフトシシャモ(カペリン・キャペリン)」で、色・姿・味が全く異なります。

「柳葉魚」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・飄々と 紙よりかろき 柳葉魚喰ふ(勝又木風雨)

・柳葉魚焼く 学徒の唄に 故郷あり (桂樟蹊子)

・町中が 磯の匂ひの 柳葉魚干し(伊藤宇太子)

・ふるさとの 酒熱うせよ 柳葉魚焼く(塩路隆子)

2.霜焼け(しもやけ)

霜焼けは、童謡「たき火」の歌詞にも「霜焼けお手々がもうかゆい」と出てきますね。団塊世代の私も、子供の頃はよく霜焼けになりました。

しかし今の子供たちは、あまり外で遊ばないことに加え、暖房完備の部屋でぬくぬくと育っているせいか、霜焼けも少ないようです。

しもやけ」とは、寒さによる血行障害で、その部分が赤く腫れて痛がゆくなったり、熱く感じます。手や足のほか、耳たぶ、鼻先など末端部に起こります。軽い凍傷。凍瘡。霜腫れ。

しもやけは、霜に触れた時のように、皮膚が焼けた感じになるところからです。
しもやけは寒さのために起こるものなので、霜は「霜の降りるような寒い時」の意味も含まれていると考えられます。

平安時代には、霜が降りる寒い時に「朽ちる」という意味から、「しもやけ」や「あかぎれ」は「しもくち(霜くち)」と呼ばれました。

中世末期には、「腫れる」ところから、「しもばれ(霜腫れ)」と言いました。
「しもやけ」の語が見られるようになるのは、1600年代後半です。

江戸時代には、同様の意味から「ゆきやけ(雪焼け)」の語が見られ、現在も日本海側では「しもやけ」の方言として用いられます。

「霜焼け」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・霜やけの 手より熬豆(いりまめ) こぼしけり(正岡子規

・叱るべき 児の霜焼を ふと庇ふ(富永小谷)

・少し耳 かゆし霜焼 とも思わず(高浜年尾)

・霜焼や 叱つてばかり ゐる子にて(中村汀女

3.蕁麻疹(じんましん)

蕁麻疹

蕁麻疹」とは、急に皮膚がかゆくなって赤い発疹を生じる疾患です。数分から数時間で跡を残さず消失します。うるしなどの植物、サバ、牛乳、卵などの食物、寒冷刺激などによって起こります。

蕁麻疹の語源は、イラクサの中国名「蕁麻」からです。

イラクサ(蕁麻)は、葉や茎など全体にトゲがあり、皮膚の痛みや腫れの原因となる「蟻酸(ぎさん)」が含まれています。

蕁麻疹は、イラクサのトゲに触れたかのような発疹を生ずることから、「蕁麻の発疹」で「蕁麻疹」と呼ばれるようになりました。

4.痔(じ)

ヒサヤ大黒堂

」とは、肛門およびその付近に生じる病気の総称です。痔瘻(じろう)・痔核(じかく)・脱肛・切れ痔(肛門裂傷・肛門裂創)など。痔疾。

痔は呉音で「ヂ(ジ)」、漢音で「チ」と読み、漢字音に由来します。

漢字の「痔」が病垂れに「寺」と書くため、お坊さんが座禅で痔になりやすいなど「寺」に関連付けた俗説も多くありますが、寺とは全く関係ありません。

「寺」は「峙(そばだつ)」を表し、「じっととどまる」「動かない」といった意味があります。

つまり、肛門付近にとどまる(峙)病なので、「痔」という漢字になりました。

「ぢ」は歴史的仮名遣いで、現代では普通「じ」を用いますが、痔治療薬販売で有名な『ヒサヤ大黒堂』が「ぢ」と表記することから、痔に関しては、今でも「ぢ」と表記されることが多いようです。

5.出世魚(しゅっせうお)

出世魚

出世魚」とは、成長するにしたがい名前の変わる魚のことです。ボラ・スズキ・ブリ・コハダなど。

江戸時代まで、人は元服や出世に伴ない名前を変えたことから、魚の名前が変わることを出世に見立てて「出世魚」と呼ぶようになりました。

出世魚が名前を変えて呼ばれるのは、大きさや外見・食味の変化のためです。

出世魚の名前は地方によって異称も多く、ブリの場合であれば、関東で「ワカシ」「イナダ」「ワラサ」「ブリ」と変わるのに対し、関西では「ツバス」「ハマチ」「メジロ」「ブリ」といいます。

6.シャリ/舎利(しゃり)

シャリ

シャリ」とは、白い米粒、白飯のことです。銀シャリ。

すし屋などで米や白飯を「シャリ」と呼ぶのは、色や形が火葬したあとに残る粒状の骨「舎利」と似ていることからです。

しかし、サンスクリット語で「米」を意味する「sari」を語源とする説があり、色や形の説は間違いとされることもあります。

中国の唐代から見られる例では、サンスクリット語で「米」を意味する「sari」が「遺骨」の「舎利(sarira)」と混同され、「米粒」を「舎利」と呼ぶようになっていますが、「遺骨」と「骨」の形、発音が似ていることからの混同で、「sari」だけで生じたものではありません。

日本では、空海の『秘蔵記』にある「天竺呼米粒為舎利。仏舎利亦似米粒。是故曰舎利。」が有名ですが、これも中国で遺骨の「舎利」と米粒の「シャリ」が結び付けられていたことに基づくもので、サンスクリット語の「米」が語源というわけではありません。

また、日本で米粒を「シャリ」と呼ぶようになったのは、近世以降です。

中国で混同された語の影響自体も無く、日本は日本で、形や色から「仏舎利」にたとえられた別物と考えるのが妥当です。

7.舎利(しゃり)

舎利・遺骨

舎利」とは、遺骨、特に仏や聖者の遺骨のことです。仏舎利(ぶっしゃり)。さり。

舎利は、「遺骨」「死骸」「身体」を意味するサンスクリット語「sarira」の音写です。

塔に舎利(実際には舎利を象徴するもの)を納めて供養し、信仰の対象とされました

8.信太寿司(しのだずし)

信太寿司

信太寿司」とは、いなり寿司の別名です。特に、近畿地方の年配者が用いる呼称。

信太寿司の「信太(しのだ)」は、信太の森の伝説(「葛の葉」や「信太妻」とも)に掛けたものです。

この伝説は、信太の森(現在の大阪府和泉市信太山にある森で、葛の葉稲荷神社となっているところ)に住む女狐が、安倍保名と結婚して子供(のちの安倍晴明)をもうけるが、正体が狐とばれて姿を消したという話です。

いなり寿司が狐の好物といわれる油揚げを使うことから、この伝説に結び付けて「信太寿司」と言うようになりました。

信太は「信田」とも表記されるため、信太寿司も「信田寿司」と表記されることもあります。

9.上納(じょうのう)

「上納」とは、政府などに金品を納めること、または年貢米・年貢のことです。

「お上(かみ)に納める」ことからです。

政府に限らず、華道や茶道の家元への上納金制度や、総本山への戒名料の上納金システムというのもあります。