日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ジャンケン(じゃんけん)
「じゃんけん」とは、二人以上が手で「グー(石)」「チョキ(はさみ)」「パー(紙)」の形を作り、出した形で勝負を決める遊びです。
テレビアニメの「サザエさん」の番組の最後にも、サザエさんがジャンケンをしますね。
じゃんけんは、近世に中国から入った拳遊び(けんあそび)の一種で、当時は酒席で行われることが多かったようです。
拳遊びには「本拳」「虫拳」「狐拳」「石拳」など数種類あり、日本では「石拳」が残り、じゃんけんとなりました。
語源は「石拳(じゃくけん)」が訛ったとする説や、「両拳・鋏拳(りゃんけん)」が訛ったとするなど諸説ありますが、中国語が訛ったものであることには違いありません。
昔は「石拳(いしけん)」や「石紙(いしかみ)」とも言われ、九州の「しゃりけん・りゃんけん」、関西の「いんじゃん・じゃいけん」など、現在でも地方によって様々な呼称があります。
私の故郷の高槻市では、掛け声は「最初はグー、じゃんけんホイ」ではなく、「いんじゃん、ホイ」とか「いんじゃんでホイ」でした。
2.塩(しお)
「塩」と言えば、私は「塩爺」こと塩川正十郎という政治家を思い出します。大阪出身のユーモアもある飄々とした政治家で、私は好感が持てました。
「塩」とは、しょっぱい味の白い結晶、塩化ナトリウムを主成分とする調味料です。
塩は『倭名類聚鈔』にも出てくるほど古い語のため、正確な語源は明らかになっていません。
しかし、塩は主に海水から作られるため、海水を意味する「潮(しほ・うしほ)」が妥当です。
また、塩が「うしほ」と呼ばれた例もあることから、古くは塩と潮が混同されていた可能性もあります。
3.素人(しろうと)
昔、「素人名人会」という関西の人気番組がありました。司会は初期の頃は西条凡児で、その後西川きよしが長く務めました。「スターへの登竜門」とも言える番組でした。
ダウンタウン、 桂三枝(現在の6代桂文枝)、オール阪神・巨人、笑福亭鶴光、Mr.マリック、、桂べかこ(現在の桂南光)、海原千里・万里(千里はのちの上沼恵美子)、宮川花子、やすえ・やすよ(やすえはのちの未知やすえ。名人賞を獲得)、COWCOW、山口智充、友近も「素人名人会」出場経験者です。
歌手では、川中美幸、夏川りみ、神野美伽、坂本冬美らがいます。変わったところでははるな愛(1982年に10歳で名人賞を獲得)、大沢あかねもいます。
「素人」とは、ある物事に経験の少ない人や、職業・専門としていない人、未熟な人のことです。
素人は、平安時代には「白人(しろひと)」と言い、白塗りをしただけで芸のない遊芸人を指す言葉でした。
室町時代には「しらうと」となり、江戸時代に「しろうと」と音変化したといわれます。
漢字が「白人」から「素人」に転じた由来は未詳ですが、「素」には「ありのまま」という意味の他に、平凡さを軽蔑する意味も含まれているため、「素」の字が使われ「素人」になったと考えられます。
4.しょっちゅう
「しょっちゅう」とは、いつでも、常に、始終という意味です。
しょっちゅうは、「初中後(しょちゅうご)」が下略化され、さらに促音化された語です。
「初中後」とは中世の芸道論の言葉で、初心者から達人の域に達するまでを三段階に分けて示すものでしたが、近世には「初めから終わりまでずっと」の意味に転じました。
その頃から、下略化された「初中」も使われるようになり、近代以降に「しょっちゅう」が一般に使われるようになりました。
しょっちゅうを漢字で書くとすれば「初中」となります。
しかし、促音化された「しょっちゅう」が漢字で書かれることはなく、ひらがな表記のみです。
5.しょぼい
「しょぼい」とは、元気がなく、さえない。ぱっとしない。みすぼらしい。貧相だという意味です。
しょぼいは、「しょぼしょぼ」が形容詞化されたものです。
しょぼしょぼは、現代でも無気力でしょぼくれたさまを表す言葉として使われますが、江戸時代には小雨が降り続くさまを意味しました。
小雨が降り続く状態は弱々しく陰気であるため、無気力などの意味に転じたということです。
しかし、同じ意味で「しょんぼり」という語も、江戸時代から使われているため、元々「しょぼ」という語に、少し寂しげなさまを表す語だったとも考えられます。
「しょぼん」は、これらの語から派生したと考えられ、古い使用例は見られません。
6.しこたま
「しこたま」とは、人や物、仕事などが大量にあることです。
しこたまの語源は未詳ですが、「どっさりためる」を意味する上方語「しこためる」が、江戸語で母音交代して「しこたま」になったと考えられます。
また、もともと九州の方言で、「しこ」と「たま」が合成された言葉とする説もあります。
「しこ」は「これしかない」などと使われる「しか」のことで、相撲の「四股」が当て字として使われていたこともあり、そのイメージから重さなどの量の意味が強まりました。
「たま」は「しこたま」と同様の意味で使われる「たんまり」が略されたものか、「貯める」の意味と思われます。
7.しっぺ返し(しっぺがえし)
「しっぺ返し」とは、ある事をされた時、即座に仕返しをすることです。
しっぺ返しは、元々は「竹篦返し(しっぺいがえし)」と言います。
「竹篦返し」の「竹篦」とは、座禅の際、戒めのために打つ道具で、割った竹に漆を塗った細長い板状のもののことです。竹篦は、鎌倉時代に禅宗の伝来ととも伝わりました。
大寺院の場合、高徳の僧が交代で竹篦を打つ役を務め、打たれた者も打ち返す立場になることから、やられたことを即座にやり返すことを「しっぺい返し」と言うようになり、「しっぺい」の「い」が消え「しっぺ返し」となりました。
やられたことと同じことを仕返すことを言いましたが、現代では同じことに限らず、即座に仕返しすることを言います。
また、人差し指と中指を揃え、手首のあたりを打つことも「しっぺ」と言います。
これは指を「竹篦」に見立てたもので、1603年刊の『日葡辞書』にも解説があり、このような行為が古くから存在したことがうかがえます。