日本語の面白い語源・由来(そ-②)象牙の塔・造詣が深い・走狗・卒塔婆・雑煮・そんじょ其処ら

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象牙の塔・東大安田講堂

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.象牙の塔(ぞうげのとう)

京都大学

象牙の塔」とは、芸術を至上のものとする人々が俗世間から離れ、芸術を楽しむ静寂・孤高の境地。学者などの現実離れした研究生活や態度、研究室などの閉鎖社会のことです。

象牙の塔は、フランス語「tour d’ivoire」の訳語です。

19世紀のフランスの批評家サント=ブーブが、芸術至上主義者だった詩人のビニーの態度を批評した言葉です。

日本では厨川白村が紹介し、現実と掛け離れた世界を皮肉った言葉として「象牙の塔」は用いられるようになりました。

2.造詣が深い(ぞうけいがふかい)

造詣が深い・学者

造詣が深い」とは、学問・芸術・技術などの分野についての深い知識や理解が優れているさまのことです。造詣を「ぞうし」と読むのは間違いです。

造詣の「造」は、「ある所まで届く」「いたる」の意味を表します。「詣」も「高い所まで行き着く」「いたる」の意味があります。

この二字を組み合わせた「造詣」は、「ある所に達する」の意味から、学問や技芸が高い水準に達していることを表すようになりました。

「造詣」のみで深く達しいていることを表しますが、その分野についての知識や理解の意味と解釈されたものか、「深い」を伴って「造詣が深い」と使われるようになりました。

3.走狗(そうく)

走狗

」とは、他人の手先となって使われる者のことです。

「狗」は「犬」のことで、走狗は狩猟で鳥やを追い立てるのに使う猟犬が原義です。

猟犬は善悪など考えず飼い主の指示に従い、鳥や獣を追うことから、他人の手先となって使われる者を「走狗」と呼ぶようになりました。

4.卒塔婆(そとば)

卒塔婆

卒塔婆」とは、供養のために墓などに立てる細長い板のことです。梵字や経文・戒名などが記されます。板塔婆。塔婆。そとうば。

卒塔婆は、「頭部」「高く顕れる」を意味するサンスクリット語「Stūpa」の音写です。

古代インドでは、小高く盛り上げた墓や塚を指しましたが、釈迦の死後は記念物的な性格を帯びるようになり、塔が建てられるようになりました。

日本で卒塔婆は、五輪塔の形を表す五つの刻みを入れた墓の脇に立てる木板を指し、インドのような建築物の卒塔婆は「塔」や「仏塔」と呼びます。

5.雑煮(ぞうに)

雑煮

雑煮」とは、餅を入れた汁物です。主に正月の祝い膳に用います。地方によって、あしらう具や汁の調味、餅の形などさまざまです。

武家社会では、雑煮を「烹雑(ほうぞう)」と呼んでいました。

「烹雑」の「烹」は「煮る」の意味で、餅や野菜、海産物など雑多なものを入れて煮ることからこの名があります。

「烹雑」は「煮雑(にまぜ)」とも呼ばれ、これを反転したのが「雑煮」です。

元々、雑煮は正月料理に限定されるものではありませんでしたが、室町時代の武家社会において祝い膳として出されるようになり、正月料理となりました。

これは、大晦日の夜にその土地でとれた海や山のさちを神に供え、そのおさがりを食べたことの名残です。

ただし、江戸時代にも正月以外に食べられていた記述があり、室町期以降も正月料理に限定されていたというわけではないようです。

「雑煮」は新年の季語で、次のような俳句があります。

・脇差を 横に廻して 雑煮かな(森川許六)

・雑煮ぞと 引きおこされし 旅寝かな(八十村路通

・三椀の 雑煮かゆるや 長者ぶり(与謝蕪村

・長病の 今年も参る 雑煮かな(正岡子規

6.そんじょ其処ら(そんじょそこら)

「そんじょそこら」とは、「そのへん」「そのあたり」を意味する「そこら」を強めていう語です。「そんじょそこらの物とは違う」などと使います。

そんじょそこらの「そんじょ」は、「それ」「その」「そこ」「いつ」「だれ」などの語の上に付き、具体的な名をあげずに不特定の人・場所・事柄・時などを示す「そんじょう」が変化した語です。

「そんじょう」は、指示語「その」に、程度や範囲を示す「定(じょう)」が付いた「その定(じょう)」が音変化した語と考えられます。