日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.手玉に取る(てだまにとる)
「手玉に取る」とは、人を自分の思い通りに動かすこと、翻弄することです。
手玉に取るの「手玉」は、小さな布袋に小豆などを入れたもので、女の子が遊びに使った「お手玉」のことです。
曲芸師が手玉を自由自在に扱ったところから、手玉を投げてもてあそぶように、人を自分の思うままに操ることを「手玉に取る」と言うようになりました。
2.テロップ/telop(てろっぷ)
「テロップ」とは、テレビカメラを通さず、テレビ画面に字幕・絵・写真などを直接写し出すための送信装置、また、その字幕や絵のことです。
テロップは、英語「telop」からの外来語です。
「telop」は、「television opaque projector(テレビジョン・オペーク・プロジェクター)」の略です。
「opaque(オペーク)」は、「不透明な」「光沢のない」「くすんだ」の意味。
「projector(プロジェクター)」は、「投影機」「映写機」を意味する語です。
元々、テロップはアメリカの放送局で開発された装置を指し、商標名となっていました。
やがて、その装置によって写し出される字幕も「テロップ」と言うようになり、現在ではその意味で用いられることの方が多くなりました。
3.照る照る坊主/てるてる坊主(てるてるぼうず)
「てるてる坊主」とは、晴れることを祈って、軒先などにつるす紙や布で作った人形です。
てるてる坊主は、中国から入った風習といわれます。
中国では、白い紙で頭を作り、赤い紙の服を着せ、ほうきを持たせた女の子の人形(「雲掃人形」や「掃晴娘」と呼ばれる)を、雨が続く時に軒下につるして晴れを祈る風習がありました。
ほうきを持っているのは、雨雲を掃き、晴れの気を寄せるためということです。
この風習が江戸時代に伝わり(一説には平安時代とも)、当初は「照る照る法師(てるてるぼうし)」と呼ばれていたものが、「照る照る坊主(てるてるぼうず)」になりました。
現在でも地域によって「てるてる法師」や「てれてれ坊主」、「日和坊主(ひよりぼうず)」などと呼ばれます。
女の子から男の子の姿に変化した理由は定かではありませんが、日照りを願う僧侶や修験者が男であったことからや、人形が頭を丸めた坊主のようであるところからと考えられています。
江戸後期の『嬉遊笑覧』には、晴れになったら瞳を書き入れ、神酒を供えて川に流すと記されています。
4.出前(でまえ)
私が子供の頃は、「出前」と言えば、蕎麦屋や寿司屋が多かったように思いますが、今では「ウーバーイーツ」や「出前館」のような出前をよく見かけるようになりました。
「出前」とは、料理を注文した人の家などに届けること、また、その料理や届ける人のことです。
出前というサービスは江戸時代初期にまで遡りますが、明治頃まで「出前」の語は、遊女の年季勤めが終わり遊里を出る前を指す言葉として用いられた例しかなく、語源としては繋がりません。
「前」は「一人前」「分け前」など「それに相当する分量」「分」を表す接尾語「前」で、出向いて注文された分を届ける意味からとする説と、相手に対し敬意をもって言う時の「お前(御前)」の「前」で、出向いてお前のところに届ける意味からとする説があります。
出前の起源が、「慳貪(けんどん)」と呼ばれた盛り切り一杯のうどんやそばを届けるサービスであったことから、「前」は「分量」を表す「前」と考えるのが妥当です。
また、「出前」の語が使われ始めた頃は、既に「お前」の語から敬意の意味が薄れており、「お前のところに出向く」の意味からとは考え難いものです。
ただし、「前」を「お前」の「前」と特定せず、「注文者の前」という意味であれば、完全に否定することはできません。
余談ですが、かつての蕎麦屋の曲芸師的な出前については、「戦前の蕎麦屋の出前と歩荷(ぼっか)は曲芸師のような驚異的な職人芸」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
5.手当/手当て(てあて)
「手当て」とは、「前もって準備しておくこと。事態に応じて処置すること。準備。病気やけがの処置をすること。労働の報酬。また、基本給の他に支払われる賃金。心づけ。チップ」のことです。
手当ての「手」は、「手が足りない」という際の「人手」のことです。
「当て」は「充当」の意味で、何か事をなすときに人手を当てることから、手当ては「準備」や「処置」の意味で用いられるようになりました。
手当ての語源には、病気やけがをした際、患部に手を当てて治療したことからといった俗説が通説となっています。
しかし、この語に「処置」の意味があるから、病気やけがの治療の意味でも用いられるようになったのであり、手を当てる治療法を語源とするのは間違いです。
報酬やチップなど金品の意味で「手当」が用いられるのも、労働などの対価として処置するという意味からで、この意味では江戸後期から使われています。
6.出刃包丁(でばぼうちょう)
「出刃包丁」とは、刃幅が広く、峰が厚くて重い、先のとがった和包丁です。魚をおろしたりするのに用います。出刃。
出刃包丁は、元禄時代に大坂(大阪)の堺で作られたものです。
出刃包丁の語源は、開発した堺の鍛冶職人が出っ歯であったため、「出っ歯の包丁」の意味で「出歯包丁」と呼ばれ、刃物なので「歯」に「刃」が当てられて「出刃包丁」になったとする説が通説となっています。
その他、普通の包丁に比べ分が厚く鋭いことから、「刃が出ている」という意味で「出刃包丁」になったとする説もあります。
ただし、これらの語源が証明できる文献はなく、出刃包丁の正確な語源はわかっていません。
7.店屋物(てんやもの)
「店屋物」とは、飲食店で作った料理、特に飲食店から取り寄せる食べ物のことです。仕出し。てんやもん。
店屋物の「店屋」は、本来、宿駅に併設された物を売る店のことで、飲食店に限定されるものではありませんでした。
近世に入り、居酒屋や一膳飯屋などの飲食店を「店屋」と呼ぶようになり、そこで作られた物を「店屋物」と言うようになりました。
やがて、「店屋物を取る」など「出前」と同様の意味で用いられるようになり、「店屋物」は特に飲食店から取り寄せる食べ物の呼称となりました。
「店屋」が「みせや」ではなく「てんや」となった理由は定かではありませんが、室町時代の国語辞書『下学集』でも「てんや」と読ませています。
なお、近世には「女郎」の意味でも、「店屋物」が用いられています。
8.テッチャン
「テッチャン」とは、牛の大腸のことです。
テッチャンは、韓国語で「大腸」を意味する「テチャン」に由来します。
「テ」が「大きい」を、「チャン」が「腸」を表します。「小腸」の場合は、「コプチャン」といいます。
「豚のテッチャン」として売られるものは、普通、豚の胃袋で、テッチャンがホルモンの一部であることから派生したものです。