日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.南京豆(なんきんまめ)
「南京豆」とは、南アメリカ原産のマメ科の一年草です。落花生。
南京豆は、江戸時代初期に中国を経て渡来したため、この名があります。
南京豆の「南京」は、「南京米」や「南京袋」など、他の語の上に付いて中国経由または中国から渡来したものを表します。
なお、関西では「かぼちゃ」の別名として「ナンキン」と言います。
「南京豆」「落花生」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・名曲終り 南京豆の 皮嵩む(原子公平)
・壬生念仏 妻子南京 豆かじり(岸風三楼)
・落花生 畑の月も 故郷なる(行方克巳)
・落花生の 殻が山盛り 桃青忌(中田剛)
2.ナイス/nice
「ナイス」とは、「素敵な。素晴らしい。見事な」ことです。感動詞としても用います。
ナイスは英語「nice」からの外来語ですが、その語源は「無知な」「愚かな」という意味のラテン語「nescius」です。
これが英語の「nice」になったのは16世紀頃で、この頃はまだ「愚かな」の意味しかなく、「良い」といった意味に変化したのは19世紀頃といわれます。
長い年月を経て変化したため、はっきりとした経緯は定かではありませんが、「愚かな」から「気難しい」という意味に転じ、さらに「気難しい」から派生して、肯定的にも受け取れる「繊細な」になり、「素晴らしい」の意味になったようです。
日本で使われる「ナイス」は「good(グッド)」とほぼ同じように扱われますが、英語では「気難しい」「几帳面」といった意味を含む「良い」であったり、不正ではあるが好都合な場合に用いることもあります。
3.長丁場(ながちょうば)
「長丁場」とは、「ひとつの事柄が長く続くこと。長い時間のかかる物事のこと」です。
長丁場の「丁場」は、「町場」「帳場」とも書き、宿場と宿場との間の距離を意味しました。
元々は、宿場間の距離が長いことを「長丁場」と言っていましたが、長い距離を行くには時間がかかることから、仕事などで長時間かかることも「長丁場」と言うようになりました。
4.長月(ながつき)
「長月」とは、「旧暦9月の異称」です。
長月の語源は諸説あり、新暦の10月上旬から11月の上旬にあたり、夜がだんだん長くなる月で「夜長月(よながつき)」の略とする説。
雨が多く降る時季であるため、「長雨月(ながめつき)」からとする説。
「稲刈月(いなかりづき)」「稲熟月(いなあがりつき)」「穂長月(ほながづき)」の約や、稲を刈り収める時期のため、「長」は稲が毎年実ることを祝う意味からといった説。
「名残月(なこりのつき)」が転じたとする説などがあります。
この中でも「夜長月」の略とする説は、中古より広く信じられている説で最も有力とされています。
5.内緒(ないしょ)
「内緒」とは、「表向きにせず、内々にすること」です。秘密。内密。
内緒は、仏教語「内証(ないしょう)」が転じた言葉です。
内証とは、自らの心のうちで真理を悟ることを意味するサンスクリット語の漢訳で、「自内証」ともいいます。
その意味が転じ、外から知ることが出来ない秘密の事柄をさすようになり、内輪の事情や暮らし向きなどの意味にも使われるようになりました。
「内緒」と書くのは、「ないしょう」から「ないしょ」に転じてからの当て字で、「内緒」以外には「内所」とも書かれました。
6.なあなあ
「なあなあ」とは、「妥協して安易に済ませること」です。馴れ合い。
なあなあは、親しい間柄で呼びかけたり、念を押したりする際に用いる感動詞「なあ」を重ねた語です。
なあなあが「馴れ合い」や「妥協」の意味で用いられるようになったのは、歌舞伎の掛け合いで、一方が「なあ」と呼びかけ、もう一方も「なあ」と言うだけで他に語ることなく、顔の表情や仕草で気持ちを表現する見せ場に由来します。
7.鍋(なべ)
「鍋」とは、「食物を煮炊きするのに用いる器や鍋料理のこと」です。鍋物。
鍋は「な」を煮る「へ」の意味で、濁音化され「なべ」となった語です。
「な」は菜の花や肴(さかな)の「な」で、野菜や魚介類などおかずの総称。
「へ」は飲食物を入れるの容器・瓶(かめ)を意味する「瓮(へ)」です。
「寄鍋(よせなべ)」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・寄鍋や たそがれ頃の 雪もよひ(杉田久女)
8.納豆(なっとう)
「納豆」とは、「煮た大豆を納豆菌で繁殖させた粘質の糸を引く食品」です。
納豆の語源は、僧侶が寺院で出納事務を行う「納所(なっしょ)」で作られ、豆を桶や壺に納めて貯蔵したことに由来する説が有力とされています。
「なっ」は呉音「なふ」が転じた「なっ」で、「とう」は漢音「とう」からの和製漢語です。
納豆の語源には、豆腐と間違えたという説もあります。
それは、大豆を腐らせて作られた食品を「豆腐」と呼び、四角い容器に納めて作られた食品を「納豆」と呼んでいました。それが、中国から日本へ伝わった時、日本人が呼び間違えたというものです。
しかし、これは豆腐の「腐(腐る)」と、納豆の「納(納める)」の漢字から想像で作られた俗説です。また、納豆は発酵食品であり、腐った食品ではありません。
中国では納豆が「鼓(し)」と呼ばれ、日本には奈良時代に寺院に伝わり、『和名抄(倭名類聚鈔)』には「鼓(くき)」と記されています。
この「鼓」は「糸引き納豆」とは異なり、現代では「寺納豆」や「浜納豆」などと呼ばれる塩辛く乾燥したものでした。
糸引きの起源も諸説あり、弥生時代に作られた説、聖徳太子、光巌法皇、源義家などが作った、もしくは広めたとする説など様々です。
「納豆」の語が出てくる最初の文献は1051年の『新猿楽記』で、「塩辛納豆」と表記されていることから、この当時すでに「糸引き」が存在し、区別されたと考えられています。
1981年、関西での消費拡大のため、関西納豆工業協同組合が7月10日の語呂合わせで「納豆の日」を作り、1992年には全国納豆工業協同組合連合会があらためて制定したことで、7月10日は全国的に「納豆の日」となりました。
「納豆」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・落葉を くだくや納豆 打つ寒夜(椎本才麿)
・納豆に あたたかき飯を 運びけり(村上鬼城)
・有明や 納豆腹を 都まで(小林一茶)
・納豆の 奏でる糸に 葱うんざり(尾上有紀子)