日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.人形(にんぎょう)
「人形」とは、「木・紙・土・セルロイドなどで人の形を模して作ったもの」です。比喩的に、自分の意志では行動できない主体性のない人のことも言います。
にんぎょうは、「ひとがた(ひとかた)」に当てた漢字「人形」を音読した語です。
「人形」は「偶人」「人像」などと並んで奈良時代の文献にも見られる語ですが、「ニンギョウ(ニンギャウ)」の読みが見られるのは奈良時代末期頃からです。
古くは、宗教的な意味をもつものが多く、人形は神・聖霊の形代・憑代として、祭礼などの宗教行事に用いられました。
これは日本に限らず、エジプトやギリシャなどでも、多くは呪術・宗教的な意味をもって作られています。
やがて、観賞用・玩具・人形劇・土産物・芸術品など、さまざまな用途で作られるようになりました。
2.肉薄/肉迫(にくはく)
「肉薄」とは、「身をもって敵陣などに迫ること。競技や競争で敵のすぐ近くのところまで迫ること。議論などで相手に鋭く詰め寄ること」です。肉迫。
肉薄の「肉」は「肉体」、「薄」は「迫る」の意味で、「肉迫」とも書きます。
本来は、体と体が触れ合うほど大勢が密集して、敵に攻め寄ることを意味しました。
そこから転じて、相手に鋭く詰め寄ることを意味するようになりました。
肉薄を「にくうす」と読む場合は、文字通り、肉が薄いさまや厚みの少ないさまを意味し、上記の語源とも関係ありません。
3.二番煎じ(にばんせんじ)
「二番煎じ」とは、「前にあったものを模倣し、新鮮味に欠けること」です。焼き直し。
煎じとは、お茶や薬を煮詰めて成分を取り出すことです。
二番煎じは、一度煎じたものを再び煎じることや、その煎じたもののことで、一度目に煎じたものよりも、二度目に煎じたものは成分が弱く、味が薄くなります。
そこから二番煎じは、前にあったことを繰り返しただけで、新味のないもののたとえとなりました。
ただの模倣でつまらないことを表す言葉なので、新鮮さがあったり、一番目のものより価値が高い場合に「二番煎じ」を用いるのは間違いです。
4.偽/贋(にせ)
「偽」とは、「本物に似せて作ったり、見せかけること(また、そのもの)」です。
にせは、「似せる」「真似る」などを意味する動詞「にす(似す)」の連用形が名詞化した語です。
似せることが必ずしも悪い意味とは限らないように、本来「にせ」という語に悪い意味は含まれていませんでした。
鎌倉時代から流行した「似絵(にせえ)」は、写実的に描いた肖像画で、悪い意味は全く含まれていません。
しかし、「似せる=本物ではない」というところから、にせには「ごまかす」や「偽造する」などのニュアンスが含まれるようになり、現代では多くが悪い意味で使われています。
漢字「偽」の「為」の原字は、手と象の形を表した文字で、人間が象を手なずけるさまを表しており、作為によって本来の性質や姿をなおす意味が含まれています。
その「為」に「人」が付いた「偽」は、人間の作為によって姿を変える、うわべをつくろう意味があります。
「贋」の漢字は、「雁」と「貝」からなる字ですが、「雁」は格好良く飛ぶ鳥を表し、「貝」はお金を表します。
形よく整えた財物を表していたところから、形だけ整えて似せた偽物の意味となりました。
5.人参(にんじん)
「にんじん」とは、「地中海沿岸地方原産のセリ科の越年草」です。根は黄橙色・紅赤色で、円錐形で太く、地中に伸びます。葉は羽状に細裂。野菜として栽培されます。また、朝鮮人参の別名。
にんじんは、人の形に似ていることからの名で、その根に頭や足・手があり、人のような形をしたものが最上とされました。
ただし、ここでいう「にんじん」の名は、奈良時代に渡来し、薬用として栽培されていたウコギ科の「朝鮮人参(オタネニンジン)」のことです。
現在「にんじん」と呼ばれているものは、地中海沿岸地方から中国を経て、16世紀に日本に渡来しました。
根が朝鮮人参、葉がセリに似ていることから、当初は「セリニンジン」と呼ばれました。
その他、朝鮮人参とセリ科のにんじんを区別するために、「菜人参(なにんじん)」「人参菜(にんじんな)」。また、畑に植えることから「畑人参(はたにんじん)」などとも呼ばれました。
やがて、これが主流となり、セリ科のにんじんを指して「にんじん」と呼ぶようになりました。
「人参」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・朝鮮の 妹や摘むらん 葉人参(宝井其角)
・人参の 村は地中も 夕焼けし(大串章)
・人参を 抜き大山を 仰ぎけり(庄司圭吾)
・人参をc摂らねば 生活習慣病(高澤良一)
6.錦蛇/ニシキヘビ(にしきへび)
「ニシキヘビ」とは、「ニシキヘビ科もしくはボア科のヘビ」です。全長2メートルから最大10メートル。多くの種は黄褐色に赤褐色または黒褐色の斑紋を持ちます。パイソン。
ニシキヘビは、体の斑紋が錦のように美しく光ることからの名です。
「ニシキヘビ」の名は、『古事記』に「錦色の小さき蛇」とあるのが最も古く、当初、大形のヘビを指すものではありませんでした。
「体が美しく光るヘビ」というところから、「おろち」や「ヤマカガシ」など大蛇を指すように変化し、「ニシキヘビ」は「大形のヘビ」という印象が特に強くなりました。
今日、東南アジアからアフリカに生息する大形のヘビに「ニシキヘビ」の名が当てられているのは、色や美しさよりも、「おろち」や「やまかがし」などの大きさを継いだものです。
7.二輪草(にりんそう)
「ニリンソウ」とは、「林縁などに群生するキンポウゲ科の多年草」です。早春、白い花をつけます。
ニリンソウは、一本の茎に二輪の花を咲かせることから、この名があります。
ただし、普通は二輪ですが、稀に一輪だけのものや三輪のもあります。
「二輪草」は春の季語で、次のような俳句があります。
・一輪草 二輪草とも 吹かれをり(小林あつ子)
・寺裏の 藪に記憶の 二輪草(穴澤光江)
・二輪草 崩るる崖に 縋(すが)りをり(木村コウ)
・早々と 一輪開く 二輪草(石川元子)
8.人間(にんげん)
「人間」とは、「ひと。人類。人柄。人物」のことです。
人間は、仏教語でサンスクリット語「mamusya」の漢訳です。
仏教語としての「人間」は、「世の中」「世間」「人の世」を意味した言葉で、「人間」に「人」そのもの意味が加わったのは江戸時代以降です。
「人間」を「にんげん」と読むのは呉音です。漢音では「じんかん」と読みます。
一般に「人」を表す場合は「にんげん」、「世の中」の意味で用いる場合は「じんかん」と読み分けられることが多いですが、この読み分けに特別な理由は無く、「世の中」の意味で「にんげん」と読んでも間違いではありません。