日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.引き出物(ひきでもの)
「引き出物」とは、「結婚披露宴などの祝宴の後に、主人から招待客に贈られる贈り物」です。引き物。
引き出物は、平安時代頃、馬を庭に引き出して贈ったことに由来します。
馬の代わりに「馬代(うましろ)」として金品を贈るようになり、引き出物は酒宴の膳に添える物品や、招待客への土産物をさすようになりました。
2.ビール
「ビール」とは、「麦芽、ホツプ及び水を原料として発酵させた醸造酒」です。麦酒(ばくしゅ)。
ビールが日本に入ったのは、享保9年(1724年)のことです。
オランダ人が持ち込んだもので、オランダ語でビールを表す「bier」が語源です。
「bier」は、ラテン語で「飲む」を意味する「bibere」に由来します。
ビールの英語「beer」の発音「ビア」や「ビヤー」は、日本でも明治時代に使われていましたが、現代では「ビアガーデン」「ビアホール」などの複合語以外では、あまり用いられなくなり、単語では「ビール」と呼ぶことが多くなっています。
初めて商品としてビールが輸入されたのは、明治元年(1868年)、イギリス製の『バースビール』です。
日本初の国産ビールは、明治3年(1870年)、アメリカ人のウィリアム・コープランドが横浜の天沼で作った『天沼ビール』『天沼ビヤザケ』と呼ばれるものです。
明治5年(1872年)、大阪の渋谷庄三郎が『渋谷ビール』を設立し、日本人として初めて国産ビールの醸造・販売を行いました。
「ビール」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・青芝に ビールの泡の あふれたる(久保田万太郎)
・一杯の ビール何度も 乾杯す(林右華)
・一日が 了る麦酒の 泡見つめ(高澤良一)
・ビール酌み 陶工たちの 芸談義(大島民郎)
3.ビスケット/biscuit
「ビスケット」とは、「小麦粉に牛乳・卵・砂糖・バターなどを加えて一定の形に焼いた菓子」です。
ビスケットの語源は、「二度焼いたパン」を意味するラテン語「Biscoctum Panem(ビスコクトウム・パネム)」で、フランス語「ビスキュイ」の語源にもなっています。
ポルトガル語を通して日本に入った語で、16世紀の日本ではビスケットを「びすかうと」と呼び、明治には当て字で「重焼麺包」と書かれました。
昭和55年、全国ビスケット協会によって、2月28日は「ビスケットの日」とされています。
全国ビスケット協会によれば、語源の「二度焼く」との語呂合わせで28日としたことと、水戸藩士の蘭医柴田方庵の『方庵日録』に、作り方をオランダ人から学び、それを手紙にして水戸藩へ送った日が、安政2年(1855年)2月28日と記されているからだそうです。
4.尾籠(びろう)
「尾籠」とは、「猥褻であったり不潔であったりして、人前で口にするのが失礼なこと。また、そのさま」です。
びろうは、「馬鹿げていること」「愚かなさま」を意味する和語「をこ(痴)」に「尾籠」の漢字を当て、それを音読みした和製漢語です。
「をこ」の当て字として「尾籠」が用いられるようになったのは鎌倉時代以降で、文書で多く「尾籠」と書かれるうちに音読されるようにりましした。
室町時代には、「無礼」「無作法」の意味で用いられるようになり、意味が拡大されて「汚い」の意味が含まれるようになりました。
5.光一/ピカイチ(ぴかいち)
「ピカイチ」とは、「多くの中で一番優れていること」です。「新人の中ではピカイチだ」などと使われます。
ピカイチは、花札用語で手役のひとつに由来します。
その手役とは、初めに配られた七枚の札のうち二十点の札が一枚だけあり、残りの六枚が全てカス札の場合、同情点を四十点ずつもらえる役のことです。
二十点札を「光り物(ピカ)」と言うことから、この役は「光一(ピカイチ)」と呼ばれ、転じて「抜きん出る」の意味となりました。
6.皮肉(ひにく)
「皮肉」とは、「欠点や弱点を意地悪く遠まわしに非難すること・さま。期待はずれの結果になること・さま」です。
皮肉は、中国禅宗 達磨大師の「皮肉骨髄(ひにくこつずい)」が語源で、元仏教語です。
皮肉骨髄とは、「我が皮を得たり」「我が肉を得たり」「我が骨を得たり」「我が髄を得たり」と、大師が弟子たちの修行を評価した言葉です。
骨や髄は「要点」や「心の底」のたとえで「本質の理解」を意味し、皮や肉は表面にあることから「本質を理解していない」という非難の言葉でした。
そこから、皮肉だけが批評の言葉として残り、欠点などを非難する意味で使われるようになりました。
「皮肉な運命」や「皮肉な結果に終わる」のように、思い通りにならない意味は、非難の意味から派生したものです。
1838年〜1839年の人情本・梅之春には「芸者や幇間に難儀(ヒニク)をさせるお客なら」とあり、難儀の意味で皮肉が使われています。
非難される側にとって皮肉は都合の悪いことであるため、不都合や難儀の意味が生じ、思い通りにならない、期待とは違った結果になる意味も持つようになったと考えられます。
7.ビビる
「ビビる」とは、「怖がって尻込みする。怖気づく。萎縮する」ことです。
ビビるの語源には、大地の震動音や物の振動音を表す「ビビ」から、そのような音に反応して尻込みする状態を表す「ビビる」が生まれたとする説。
「びくびくする」の略で、「ビビる」になったという説があります。
「ビビ」という音から「ビビる」の語が生じるとすれば、普通は、その音に反応して怖気づくことではなく、「大地がビビった」のように音を発している側のことを表します。
そのため、ビビるの語源は「びくびくする」の略の方が有力です。
8.PR(ぴーあーる)
「PR」とは、「企業や官公庁・各種団体が、事業内容や商品、施策などについて、人々に理解してもらうために広く知らせること」です。売り込み。自己宣伝。
PRは、英語「public relations」の頭文字「P」と「R」を繋げた語です。
「public」は「公衆」、「relations」は「関係」を意味します。
PRは19世紀から20世紀にかけ、労働者との対立経験などからアメリカの資本家の間で生まれた考えで、企業が社会との関係を築くために広く知らせることから、「public relations」が「広報」を意味するようになりました。
日本では戦後、ラジオの民間放送局設立がきっかけとなり、「PR」の語は広まりました。
「PR」には「自己宣伝」の意味があるため、「自己PR」という言葉は「頭痛が痛い」と同じく、本来は重言となります。
しかし、自己PRは「自己紹介」の「紹介」を強めた「売り込み」の意味で「PR」が用いられていることや、主に企業から一般に知らせるための広報が「PR」であったため、「個人からの」という意味の強調として捉え、重言については特に問題とされていません。