日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.不束(ふつつか)
「ふつつか」とは、「行き届かないさま。たしなみがないさま」です。
漢字の「不束」は当て字で、ふつつかは「太束(ふとつか)」が転じた言葉です。
古くは、「太く丈夫なさま」を意味し、非難の意味を含む言葉ではありませんでした。
平安時代に入り、優美繊細の美意識が浸透したため、太いものを指す「ふつつか」は、情緒に欠け野暮ったい意味を含むようになりました。
さらに中世以降には、風情のなさや風流ではないさまが、意味の中核をなすようになりました。
現代のように、不調法者を「ふつつか者」と言うようになったのは、近世以降です。
2.筆(ふで)
「筆」とは、「竹軸などの柄の先に動物の毛を束ね、墨や絵の具を含ませて文字や絵をかくのに用いる筆記具。また、筆記具の総称」です。
筆は奈良時代以前から使われる筆記具で、古くは「文手(ふみて・ふみで)」と言いました。
「文手」の「文」は手紙などを意味し、「手」は書くことを意味します。
「ふみで」や「ふみて」が「ふむで」となり、「ふで」となりました。
平安中期の辞書『倭名類聚鈔』には「布美天」とあり、平安末期の辞書『類聚名義抄』には「フテ」「フムデ」「フミデ」とあります。
3.不思議(ふしぎ)
「不思議」とは、「どう考えても理解できないこと。また、そのさま」です。
不思議は、仏教用語「不可思議(ふかしぎ)」の略です。
不可思議は、仏や菩薩の神通力や行為のように、言葉に表すことも思いはかることもできない境地を意味し、「思議すべからず」と訓読されます。
転じて、人間の判断力では及ばないことを意味するようになり、さらに転じて、常識では理解できないことを表すようになりました。
また、不思議の語源となる「不可思議」は、常識では理解できないことの意味から、常識では考えられないほど非常に多い数という意味で、「10の64乗(10の80乗とも)」という数の単位にもなっています。
数の単位については「数字の単位は摩訶不思議。数字の不思議なマジック・数字の大字」も紹介!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
4.布団(ふとん)
「布団」とは、「布地の袋の中に、綿・鳥の羽毛などを入れた寝具」です。
布団は、禅僧が座禅のときに用いる「蒲の葉」で編んだ円い敷物でした。
円い蒲という意味で「蒲団」と書き、唐音で「ふとん」と読みました。
室町時代末頃になり、綿や布でくるんだ座布団のような敷物が作られ、「蒲のふとん」と同じ用途で使われていました。
江戸時代以降、綿作りが広がるとともに、大型の綿入れの「蒲団」が作られ、寝具として用いられるようになりました。
やがて、寝具の「ふとん」と敷物の「ふとん」は区別され、寝具は「蒲団」、敷物は「座蒲団」となりました。
「蒲」の意味が薄れたことで「布」の字が当てられて、「布団」や「座布団」の表記になりました。
5.河豚(ふぐ)
「ふぐ」とは、「フグ目フグ科の魚の総称」です。卵巣や肝臓などにテトロドトキシンという猛毒をもつものが多く、外敵に会うと大きく腹を膨らませ威嚇させるものもいます。
ふぐは、平安時代には「布久(ふく)」や「布久閉(ふくべ)」と呼ばれていました。
江戸時代中頃から、関東で「ふぐ」と呼ぶようになり全国へ広がりましたが、現在も下関や中国地方の一部では「ふく」と呼ばれています。
ふぐは海底で砂を吹き出てくるゴカイ類を食べる性質があるため、「ふく」の語源には「吹く」からとする説。
「袋(ふくろ)」「脹ら脛(ふくらはぎ)」「ふくよか」「膨れる(ふくれる)」など、膨らむものを意味するものの多くに「ふく」が使われており、ふぐ(ふく)も膨らむのでこの語幹からとする説があります。
「瓢箪(ひょうたん)」は「瓠瓢(ふくべ)」と呼ばれており、形が似ているため、フグを「ふくべ」と呼び、転じて「ふく」になったとする説もありますが、「瓠瓢」は膨らむものと同じ由来になるので、「ふくべ」のみ特別に取り上げて語源とする必要はありません。
フグの漢字「河豚」の由来は、中国では揚子江や黄河など、海よりも河に生息するフグが親しまれていたことから「河」が使われ、膨れた姿が豚に似ていることと、釣り上げた時の音が豚の鳴き声に似ていることから、「豚」が使われるようになったといわれます。
フグの漢字には、「河豚」の他に「鰒」「鮐」「魨」「鯸」「鯺」「吹吐魚」もあります。
「河豚」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・河豚釣らんv李陵七里の 浪の雪(松尾芭蕉)
・手を切りて いよいよ憎し 鰒(ふぐ)のつら(宝井其角)
・もののふの 河豚にくはるる 悲しさよ(正岡子規)
・はこふぐの 負ひて生きたる 箱のさま(加藤楸邨)
6.ふしだら
「ふしだら」とは、「しまりがなく、だらしないこと」です。
ふしだらは、サンスクリット語「sutra」を音写した「修多羅」が語源です。
古代インドでは、教法を「多羅葉(たらよう)」という葉に書き、鉛筆のような物で経文を刻書し、散逸しないように穴を開け、紐を通して保存していました。
この紐や糸を「修多羅」といい、正確で歪みなく秩序よく束ねることも意味していました。
「修多羅」が音転訛して「しだら」となり、「不」をつけて「ふしだら」になったといわれます。
手拍子を打つことを意味する「しだら」を語源とする説もありますが、関連性がないため有力な説とは考えられていません。
7.冬(ふゆ)
「冬」とは、「四季のひとつで、秋と春の間の季節。現行の太陽暦では12月から2月まで。旧暦では10月から12月まで。二十四節気では立冬から立春の前日まで。天文学上では冬至から春分の前日まで」のことです。
冬の語源には、「冷(ひゆ)」が転じたとする説。
寒さが威力を「振う(ふるう)・振ゆ(ふゆ)」が転じたとする説。
寒さに「震う(ふるう)」が転じたとする説。
「殖ゆ(ふゆ)」が転じたとする説があります。
8.ぶっちぎり
「ぶっちぎり」とは、「競走・競技などで大差をつけること」「他と比べて圧倒的な存在であること、実力や結果が抜きんでていること」です。
スポーツなどの場面で、特定の人が他者を引き離しているような状況でよく使われます。ゴルフコンペで、他に大差をつけて優勝した場合にも「ぶっちぎりの優勝」と言いますね。
漢字で書くと「打っ千切り」となります。