日本語の面白い語源・由来(ほ-⑥)鬼灯・蛍・椪柑・牡丹餅・ボイン・亡命・包丁・ポチ袋・ポン酢

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ほおずき

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鬼灯/ホオズキ/酸漿(ほおずき)

ほおずき市・浅草

ホオズキ」とは、「夏に黄白色の花が咲くナス科の多年草」です。その後、萼(がく)が大きくなって橙赤色に熟します。根は漢方で鎮咳薬や利尿薬とされます。

ホオズキの歴史的仮名遣いは「ほほづき」で、語源は以下の通り諸説あります。

①実が人の頬の紅色に似ていることから、「顔つき」や「目つき」などと同じ用法で「頬つき」からとする説。
②ホオズキの果実から種子だけを取り除き、皮だけにしたものを口に入れて膨らまし、鳴らす遊びがあることから、「ほほつき(頬突き)」に由来する説。
③「ホホ」というカメムシ類の虫が、この植物に集まってくることから、ホホがつく意味。
④実が火のように赤いことから、「ほほつき(火火着)」からとする説。
⑤ホオズキの方言は、全国的に「ふづき」が多いことから、旧暦7月の「ふづき・ふみづき(文月)」に由来する説。

上記の説の中で、人の顔に見立てたとする①の説が有力です。
その理由として、ホオズキの別名には「ぬかづき(ぬかずき)」があり、この「ぬか」は「額(ひたい)」のことで、「ひたひつき(額付)」と言えば「顔つき」を意味していたためです。

②の説は、「頬突き」という意味が不明です。
ホオズキは虫がつくことよりも、色や膨らみが特徴的なので、③の説も考え難いものです。
⑤の説にある「ふづき」の名は、東京浅草の浅草寺境内で、四万六千日の縁日(7月9・10日)にホオズキを売る「ほおずき市」が開かれることに由来し、前後が逆転してしまうため考えられません。

ホオズキの漢字には、「鬼灯」と「酸漿」があります。
「鬼灯」は、実が赤く怪しげな提灯の印象から、「鬼」に「灯」としたもの。
「酸漿(さんしょう)」は、漢方などで用いる漢字です。

ホオズキの英名には、「ground cherry」のほか、「提灯」を意味する「Chinese lantern」もあり、「鬼灯」の漢字に通じる命名です。

2.蛍(ほたる)

摂津峡ホタル2

ホタル」とは、「ホタル科の甲虫の総称」です。世界に約二千種が分布。日本ではゲンジボタル・ヘイケボタル・ヒメボタルなど約四十種が知られます。腹部に発光器をもち、発光することで有名ですが、ほとんど発光しないホタルも多く存在します。

ホタルの語源には、「ほたり・れ(火垂)」の転、「ほてり・れ(火照)」の転、「ひたる(火足)」の転、「ほたる(火立る)」の意味、「ほしたる(星垂)」の意味など諸説あります。

これらの説は、ホタルの特徴である「光」を基本に考えられており、「ほ」を「火」の母音交替形とする点でも一致していることから、ホタルの「ホ」については「火」と考えて間違いないでしょう(「星」の「ほ」も「火」が語源と考えられています)。

ホタルの「タル」については、「火垂」や「火照」の説が有力とされていますが、どれも決定的ではないため未詳です。

余談ですが、野坂昭如に『火垂るの墓』(ほたるのはか)という短編小説があります。これは、野坂自身の戦争体験を題材とした作品です。

兵庫県神戸市と西宮市近郊を舞台に、戦火の下、親を亡くし、引き取り先の叔母と険悪な仲にあった14歳の兄と4歳の妹が、終戦前後の混乱の中を兄妹で独立して生き抜こうとしますが、結果誰にも相手にされなくなり栄養失調で無残な死に至る姿を描いた物語です。兄妹の愛情と戦後社会との狭間で、蛍のように儚く消えた2つの命の悲しみと鎮魂を表現しています。

『火垂るの墓』を原作とした同名タイトルの映画(アニメーション、実写)、漫画、テレビドラマ、合唱組曲などの翻案作品も作られています。特にアニメーション映画は、戦災孤児が直面する厳しい現実を一切の妥協なしに描いたことから、戦争の酷さを後世に伝える作品として高く評価されました。


火垂るの墓 (徳間アニメ絵本) [ 野坂昭如 ]

3.椪柑/ポンカン/ポンかん(ぽんかん)

ポンカン

ポンカン」とは、「インド原産のミカン科の柑橘類の一種」です。果実はやや大きく、多汁で香り・甘味が強いミカンです。日本では主に九州南部で作られます。「凸柑」とも書きます。

ポンカンの「ポン」は、原産国インドの西部にある地名「Poona(プーナ)」に由来します。
「Poona」を音写したものが「椪柑」の「椪」で、中国音で「ピエン」のように発音されます。これを日本では、「ポン」と発音しました。

ポンカンの「カン」は、オレンジなどの柑橘類を表す「柑」。
この二つが合わさり、「ポンカン」となりました。

4.牡丹餅(ぼたもち)

ぼた餅

ぼたもち」とは、「粳ともち米を混ぜて炊き、軽くついて小さく丸め、餡・きな粉・すりごまなどをまぶしたもの」です。おはぎ。萩の餅。

ぼたもちは、赤い小豆餡をまぶしたところが、牡丹のに似ていることから名付けられました。

牡丹は春に咲く花なので、春のお彼岸に食べるものを「ぼたもち」、秋のお彼岸に食べるものを「おはぎ」と呼び分けられていましたが、現代では「おはぎ」が一般的な名称とされます。

現代でも「ぼたもち」と「おはぎ」を呼び分けることはありますが、季節ではなく、製法や材料などで呼び分けられることが多く、地域やお店によってその定義は異なります。

5.ボイン

大橋巨泉・朝丘雪路

ボイン」とは、「女性の大きな乳房をいう俗語」です。

ボインは、1960年代後半、日本テレビの深夜番組『11PM』の中で、司会の大橋巨泉が朝丘雪路をからかって言った言葉が広まったものです。

11PM

巨泉氏によれば、朝丘雪路の胸が大きく「ボインとした感じだったから」ということなので、重くて弾力のある物が当たった時などに使う擬態語の「ぼいん」からでしょう。

その他の語源には、英語のスラングで女性を見て急激に気持ちが高ぶるさまを表す「boing(通常は二度繰り返して「boingboing」と用いる)」や、「膨乳」が訛って「ボイン」になったとする説もあります。

しかし、大橋巨泉氏の発言以前に大きな胸を「ボイン」と言った例はないことから、巨泉氏による命名であることは確かで、「ボインとした感じ」という言い回しからと思われます。

6.亡命(ぼうめい)

亡命

亡命」とは、「政治・宗教・思想などの理由による迫害を避けるため、自国から外国へ逃れること」です。

亡命の「亡」の字は囲いで隠すさまを示した会意文字で、「あったものが姿を消す」「見えなくなる」といった意味を含みます。亡命の「命」には「戸籍」「名籍」などの意味があります。

この二つを合わせた「亡命」は「戸籍をなくす」というところから、本来は「戸籍を抜けて姿を隠すこと」を意味し、戸籍を抜けて姿をくらますことから、他国へ逃亡する意味となりました。

さらに、外国へ逃亡することは本国が安泰でないことが背景にあるため、戸籍を抜けて外国へ逃亡することの要因も含めて「亡命」というようになりました。

7.包丁(ほうちょう)

包丁

包丁」とは、「料理に使う刃物の総称」です。

包丁は同音漢字の書き換えで、元来は「庖丁」と書きます。
荘子・養生主篇』の中に、文恵君のために庖丁が上手に牛を骨と肉に分けた話があり、伝説的な料理の名人として「庖丁」が登場します。

このことから、包丁の語源は料理人の名前とされることが多いですが、原義を知らずに出された説で、名前という根拠はありません。

漢語で「包(庖)」は肉を包んでおく場所で「台所」を意味し、「丁」はその仕事に従事する人や使用人を意味する語で、職名か一般名称と解釈するのが妥当です。

上記の話から、「庖丁」は料理人一般を指すようになり、日本でも平安時代以前には料理人を言い、料理をすることや料理の腕前も指すようになりました。

やがて、庖丁(料理人)が使う刃物を「庖丁刀」と言うようになり、室町時代頃から「刀」が略され、料理に使う刃物の総称となっていきました。

また、「畳包丁」「紙切り包丁」「裁縫用の裁ち包丁」など、包丁は「薄刃の刃物」の意味でも用いられるようになりました。

8.ポチ袋(ぽちぶくろ)

ポチ袋

ポチ袋」とは、「祝儀やお年玉などを入れる、小さなのし袋」です。

ポチ袋の「ポチ」は、関西の方言で芸妓や茶屋女などに与える祝儀のことでした。
祝儀を「ポチ」と呼び始めた由来は定かではありませんが、非常に少ないことを「これっぽっち」というように、「ポチ」には「小さな点」や「ほんの僅か」という意味があります。

祝儀を渡す相手が芸妓や茶屋女などであったことから、少額の祝儀と考えられ、「ほんの僅かな金額」という意味で「ポチ」と呼ばれたのでしょう。

漢字で「点袋」と書いて「ポチ袋」と読まれることからも、「わずか」の意味からと考えられます。

その他、ポチ袋の「ポチ」の語源には、フランス語の「プチ」や、小物を入れる小さな袋の「ポーチ」からとする説もあるが、時代的に考えて不自然です。

9.ポン酢(ぽんず)

ポン酢

ポン酢」とは、「橙やすだちの絞り汁。また、ポン酢醤油の略」です。

ポン酢の「ポン」に意味があるわけではなく、「ポンカン」の「ポン」とも語源は異なります。

ポン酢の語源は、オランダ語で柑橘類の果汁を意味する「pons(ポンス)」からで、「ポンス」が変化し「ス」に「酢」が当てられ「ポン酢」となりました。

ポン酢の語源となるオランダ語の「ポンス」は、ヒンディー語で5つを意味する「panc」に由来します。

近世より、「ポンス」は5種類のものを混ぜ合わせたという意味から、ブランデーやラム酒にレモン汁や砂糖などを加えて作った飲み物を意味するようになりました。

この飲み物がレモン汁に関係することから、ポン酢は柑橘類の果汁を意味するようになりました。