日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.雪洞(ぼんぼり)
「ぼんぼり」とは、「ろうそく立てに長柄をつけた、紙や絹で覆いのある灯具。柄をつけ下座に台座をつけた行灯」のことです。
江戸時代、ぼんぼりは主に「ぼんやりとしてはっきりしないさま」「物がうすく透いてぼんやり見えるさま」などの意味で使われていました。
そのため、「ぼんぼりと灯りが見える灯具」の意味でついた名前と考えられます。
ぼんぼりを漢字では「雪洞」と書きますが、「せっとう」とも読みます。
「雪洞(せっとう)」とは、「風炉(ふろ)」と呼ばれる茶の湯を沸かす道具を覆うもののことで、木や竹の枠に白紙を張り、一部に小さな窓をあけたものです。
雪洞の語源は、雪の洞穴に見立てたことによります。
この雪洞(せっとう)の形をヒントに作られたものが「ぼんぼり」なので、漢字で「雪洞」と書くようになりました。
また、「ぼんぼり」のことも「せっとう」と呼ぶことがあります。
2.ボーナス/bonus
「ボーナス」とは、「夏や年末に与えられる正規給与以外の特別手当。賞与。株式の特別配当金。ある条件と一致したときに特別に与えられるもの」のことです。
ボーナスは、英語「bonus」からの外来語です。
「bonus」の語源は、「良い」を意味するラテン語「bonus(ボヌス)」です。
ラテン語「bonus」は、ローマ神話の成功と収穫の神「Bonus Eventus(ボヌス・エヴェントス)」に由来するといわれます。
日本のボーナスの起源は、封建時代に商人や職人の間で盆暮に支給されていた「お仕着せ」の習慣です。
サラリーマンなどに支払われるボーナスは、明治9年(1876年)、三菱が支給した賞与制度が日本初とされます。
3.ホルモン
(1)ホルモン/Hormon
「ホルモン」とは、「動物体内の組織や器官の活動を調節する生理的物質の総称」です。
ホルモンは、ドイツ語で「Hormon」、英語では「hormone」です。
ともに、「刺激する」「呼び覚ます」を意味するギリシャ語「ホルマオ」に由来します。
この物質が「ホルモン」と呼ばれるようになったのは、20世紀初頭、イギリスの生理学者べーリスとスターリンが命名したことによります。
(2)ホルモン
もう一つの「ホルモン」は、「食用にする牛や豚の内臓で焼肉や鍋料理にするもの」です。
牛豚の内臓の「ホルモン」の語源には、関西弁で「捨てる物」を意味する「ほおるもん(放る物)」に由来する説。
生理的物質の「ホルモン(Hormon)」にあやかり、栄養豊富な内臓を食べ、活力を与えるイメージで名づけられたとする説があります。
かつては、関西弁の「ほおるもん」の説が有力とされていました。
しかし、戦前には、牛や豚の内臓以外に、スッポンなどのスタミナ料理も「ホルモン料理」と呼ばれていたことが分かってきました。
そのため、現代では生理的物質の「ホルモン」に由来する説が有力と考えられています。
4.ポン引き/ぽん引き(ぽんびき)
「ポン引き」とは、「街頭で売春を斡旋する者。土地に不慣れな人を騙して、金品をかすめ取ること。また、その人」のことです。
ポン引きの語源には、ぼんやりした者を引っ張って騙すことから、「ぼん引き」が変化したものとする説と、盆の上でやる博打の「盆引き」が変化したとする説があります。
江戸時代の歌舞伎の台詞に「ぽん引きといふ者があって、親切らしく連れて行き、身ぐるみ剥いだその上に、女郎に売って金をとる」とあるため、ポン引きの語源は、ぼんやり者を引っ張る「ぼん引き」が有力とされます。
5.ポンコツ/ぽんこつ
「ポンコツ」とは、「老朽化したり、破損した物。中古品や廃棄物」のことです。
ポンコツの語源には、「拳骨(げんこつ)」を聞き間違えたとする説と、「ポン」と「コツ」という擬音語(擬声語)説があります。
古く、ポンコツは拳骨で殴ることを意味した言葉であるため、拳骨の説が有力と思えます。
しかし、拳骨で殴る意味の「ポンコツ」は、拳骨で殴った時の音からと考えられるため、どちらの説であったとしても、大元の語源は「ポン」と「コツ」という擬音語となります。
この語が世間一般に広まったのは、昭和34年の阿川弘之の新聞小説『ポンコツ』にある「ぽん、こつん。ぽん、こつん。ポンコツ屋は、タガネとハンマーで、日がな一日古自動車を叩きこわしている」という一節よります。
これらのことを総合すると、「ポン」と「コツ」という擬音から、拳骨で殴る意味の「ポンコツ」が生じた。拳骨で殴る意味から、ポンコツは自動車をハンマーで解体する意味にも使われ、老朽化した自動車を「ポンコツ車」と呼ぶようになった。さらに、廃棄物や中古品のことも「ポンコツ」というようになった、とするのが自然です。
現代では、廃棄物や老朽化した物よりも、ダメ人間を「ポンコツ」と呼ぶことのほうが多いようです。
6.ホラ吹き(ほらふき)
「ホラ吹き」とは、「物事を大袈裟に言う人」のことです。
ホラ吹きの「ホラ」は漢字で「法螺」と書き、法螺貝に細工をした吹奏楽器のことです。
法螺貝は、山伏が山中での連絡や獣除けに用いたり、軍陣が進退の合図に使用されたもので、見た目以上に大きな音が出ます。
そこから、予想外に大儲けをすることを「ホラ」と言うようになりました。
さらに、大袈裟なことを言うことを「法螺を吹く」、そのような人を「ホラ吹き」と呼ぶようになりました。
また、法螺貝は重要な法具として法会に用いられていた楽器なので、仏の説法の盛んな様子も、法螺吹きにたとえられています。
7.仏(ほとけ)
「仏」とは、「仏教上の完全な悟りを開いた聖者。仏や菩薩、及びそれに準ずる優れた聖者や高僧仏陀。釈迦。死者。死体」のことです。死者の霊なども仏と呼ばれます。
仏の語源は、下記以外にも諸説ありますが、①の説が有力とされます。
①目覚めた者を意味するサンスクリット語「buddha」が、「浮屠(ふと)」と音写され「ほと」に転じた。
「ほと」に、その道の人を意味する「家(け)」、もしくは「もののけ」などの霊妙なものを示す接尾語「気(け)」が付き、「ほとけ」になったとする説。
②仏教伝来時(欽明天皇の時代)に、熱病である「ほとほりけ」という疫病が流行していたため、仏教を謗って(そしって)命名したとする説。
③仏教は、煩悩(ぼんのう)を解脱(げだつ)するため、「解け(ほどけ)」の教えを崇めたことから、転じて「ほとけ」になったとする説。
ほとけが「仏陀(ぶっだ)」の意味として使われたのは、天平勝宝5年(753)年、薬師寺にある仏足石歌碑(ぶっそくせきかひ)に刻まれた「保止気(ほとけ)」が最初とみられます。
「死者」の意味で「ほとけ」が用いられたのは、天暦5年(951年)の『後撰和歌集』に例がみられます。