日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.麻婆豆腐(まーぼーどうふ)
「麻婆豆腐」とは、「豚のひき肉と豆腐を、唐辛子味噌(豆板醤)や甘味噌(甜麺醤)などで炒め煮した中国四川料理のひとつ」です。
麻婆豆腐を正式には「陳麻婆豆腐」といい、清の時代、四川省成都の陳富文の妻が、貧しくて材料もない中、あり合わせのもので来客向けに作ったのが最初とされます。
その妻の顔にはあばたがあり、「麻婆(「麻」はあばた、「婆」は妻の意味)」と呼ばれていたため、「陳麻婆豆腐」と呼ばれるようになりました。
昭和27年(1952年)、中華の鉄人陳建一の父である陳健民が来日し、この料理を紹介したことから日本でも広く普及しました。
麻婆豆腐を元に作られた料理には、「麻婆茄子」「麻婆飯」「麻婆春雨」などがあります。
2.ままかり
「ままかり」とは、「岡山県など瀬戸内海岸で、ニシン科の魚「サッパ」の異名。また、これに塩をふり、酢に漬け込んだもの」です。
ままかりの「まま」は、「まんま」と同じで「飯」を意味し、漢字では「飯借り」と書きます。
この魚の酢漬けがあまりにも美味しいため、飯がなくなってしまい、隣の家から飯(まま)を借り(かり)てでも食べたくなるところから、「ままかり」となりました。
ままかりの酢漬けは、豊漁と不漁の差が大きい魚であるため、豊漁で食べきれなかったものを酢漬けにして保存したのが始まりといわれます。
3.俎板/俎/まな板(まないた)
「まな板」とは、「食材を包丁で切るときに下に置く板や台」です。
まな板の「まな」は魚の「真魚」のことで、元々は魚を切る時に使う板を指しました。
古くは、魚も野菜も食材は「な」と呼ばれていたため、それを区別するために接頭語「真」が付けられたのが「真魚」です。
まな板の漢字「俎板」や「俎」は、中国語からの拝借で、魚や肉を積み重ねて料理する台のことです。
古代中国では、供物を積み重ねて載せる台を「俎」と書きました。
4.マニフェスト/manifesto
「マニフェスト」とは、「政策。政権公約。宣言。宣言書」です。
マニフェストは、英語「manifesto」からの外来語です。
「manifesto」は、ラテン語で「手」を意味する「manus(mani)」と、「打つ」を意味する「fendere(fest)」が合わさった語です。
「手で打つ」の意味から、「手で感じられるほど明らかな」という意味に派生し、「はっきり示す」という意味で用いられました。英語で「明らかな」という意味の「manifest」も、同じ語源です。
政治的な宣言の意味で「マニフェスト」が使われるようになったのは、1848年、マルクス・エンゲルスが『共産党宣言』の中で「manifest(ドイツ語)」を用いたことに由来します。
ただし、世界に流通した「マニフェスト」は、「イタリア共産党の宣言」を指すイタリア語の「manifesto」からで、日本でも英語経由で「manifesto」を用います。
やがて、イギリスの選挙で政党から公表される政策綱領を「マニフェスト」と呼び、「政策の数値目標」「実施期限」「財源」「方法」など、具体的な公約を表すようになりました。
日本ではイギリスの総選挙を参考に北川正恭氏が提唱し、平成15年(2003年)に行われた統一地方選挙で候補者の多くがマニフェストを提示し、衆議院選挙でも各政党が「政権公約」として提示するようになりました。
5.眉唾(まゆつば)
「眉唾」とは、「騙されないよう用心すること。眉唾物の略で、真偽の確かでないもの。信用できないもの」です。
眉唾は、眉に唾をつければ狐や狸に化かされないという、俗信から生まれた言葉です。
江戸時代には、騙されないよう用心することを「眉に唾をつける」や「眉に唾を塗る」などと言っていました。
明治時代に入り、疑わしいものや信用できないものなど、騙されないよう用心する対象にも用い、「眉唾物」や「眉唾」という表現をするようになりました。
6.マラソン/marathon
「マラソン」とは、「陸上競技のひとつで、42.195キロメートル走る長距離走。長い距離を走ったり、長い時間を費やして行う物事のたとえ」です。
マラソンは、ギリシャの地名「マラトン(Marathon)」を英語読みしたものです。
紀元前490年、ギリシャ軍の兵士が戦場のマラトンからアテネまでの約40kmを走り、勝利を報告した後、絶命したという故事に由来します。
マラソンで走る距離は、第1回オリンピック大会ではマラトン古戦場からアテネの競技場までの36.750km(複数の説あり)、第2回から7回までは40km前後とまちまちでした。
42.195kmをマラソンの正式距離と決定したのは1921年。正式採用は1924年の第8回パリ大会からで、1908年の第4回ロンドン大会の距離を採用したものです。
ロンドンオリンピック大会の距離が正式採用された由来は、イタリア選手のドランドがゴール直前で倒れ、役員の補助でゴールしたため失格となりましたが、多くの人々に感動を与えたことを称えたもので、このアクシデントは「ドランドの悲劇」と呼ばれます。
また、ロンドンオリンピック大会のマラソンの距離は、当初、ウインザー宮殿からシェファードブッシュ競技場までの26マイルの予定でしたが、イギリスの王女アレキサンドラの要望で、スタート地点を宮殿の庭に、ゴール地点を競技場のロイヤルボックス前に設定されたため、385ヤード長い、26マイル385ヤード(42.195km)に伸ばされたという逸話があります。
マラソンの距離の端数を2.195kmや0.195kmとされることも多いですが、当初予定されていた26マイルは41.842944kmなので、メートル法ではどちらにしろ端数が出ます。
2.195kmや0.195kmではなく、正しい端数は385ヤードです。
7.マンション/mansion
「マンション」とは、「中高層の集合住宅」です。ふつう、分譲形式のものをいいますが、賃貸形式にもいいます。
マンションは英語「mansion」からの外来語で、本来は「大邸宅」を意味します。
英語の「mansion」は、「とどまる場所」を意味するラテン語「manere」に由来します。
日本でいう「マンション」は、英語では「apartment house(アパートメントハウス)」、アメリカ英語では「condominium(コンドミニアム)」に相当します。
日本では「マンション」の語が使われる以前から「アパート」の語が使われていましたが、「賃貸の集合住宅」の意味が強くありました。
そのため、不動産会社が「マンション」の語を用いて分譲販売したことで、1960年代後半頃から急速に普及し、一般にもこの語で定着しました。
また、「万ション」と洒落て、一億円以上の高級マンションを「億ション(おくション)」という俗語も生まれました。