日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.文字(もじ)
「文字」とは、「点や線などを組み合わせによって言語を表現するために使われる記号」です。字。文章。読み書きや学問。言葉。文言。
もじの語源は、「文字」の字音からです。「もんじ」の撥音「ん」の無表記によって「もじ」となりました。
『書言字考節用集』には、「文字 モンジ、モジ」とあります。
2.モテる(もてる)
「モテる」とは、「異性などから好意を持たれ、ちやほやされる。人気がある」ことです。
モテるは、「持つ」の可能動詞「持てる(持つことができる)」が語源です。
江戸時代の吉原遊郭で使い始められた言葉で、遊女が好意を持つことができる客の意味からと思われます。
広く一般に使われるようになってからは、一人の人からではなく、多くの人に人気があることを「モテる」と言うようになっています。
3.物語(ものがたり)
「物語」とは、「ある事柄について話すこと。また、その内容。話。談話。作者が人物・事件などについて語る形式で記述した散文の文学作品」のことです。
動詞の「物語る」が中世以降に見られる語であるのに対し、「かたる」の名詞形「かたり」が奈良時代以前には成立していたことから、物語は「物語る」の名詞形ではなく、「かたる」の名詞形「かたり」に「もの」を付けて、ある種の語りを区別するために生まれた表現と考えられます。
『古事記』には「ことのかたりごと」という断りの箇所があることから、「ものがたり」と「ことのかたりごと」は異なるジャンルであったといわれます。
「こと(事)」は出来事や事件など、対象がある特定の事柄について用いられるのに対し、「もの(物)」は対象を漠然的にいう際に用いられるため、「物語」は特定の狭い範囲の事柄を対象とした話ではなかったと考えられます。
また、「もの」は「鬼」や「霊」など不思議な霊力を持つものをいう言葉であったことから、もとは現実からかけ離れた世界を語るという意味で「物語」の語が生まれたとも考えられます。
4.門前払い(もんぜんばらい)
「門前払い」とは、「来訪者を面会せずに追い返すこと」です。
門前払いの「門前」は、奉行所の門前のことです。
江戸時代の追放刑の中で、奉行所の門前から追い払うという最も軽い刑を「門前払い」といいました。
門を閉ざして追い払うところから、来訪者に会わず帰らせる意味が生じました。
5.物真似(ものまね)
「ものまね」とは、「人や動物などの声音・態度・動作などをまねること。また、それをする芸」です。
「ものまね」という言葉は、『源氏物語』の手習に「ものまねび(物学び)」の語で見えるのが古い例です。
ものまねという事柄に関しては、鳥や獣の鳴き声を真似するなど、文明が形成される以前からあったと考えられますが、人物に扮してそれらしく演じる意味で、この語が多く見られるのは、世阿弥の能楽論です。
ただし、翁や鬼の面をつける世阿弥では、模写的な演技そのものという訳ではありません。
模写的な演技のものまねは、面をつけない狂言で行われ、近世には歌舞伎や浄瑠璃に取り入れられるようになりました。
その後、歌舞伎役者の声色のものまねが流行り、幇間(太鼓持ち)の芸にも取り入れられ、近世後期から動物や人間のものまねをする芸人が現れるようになりました。
6.目論見(もくろみ)
「目論見」とは、「計画すること。企て。考え。また、その内容」です。目論み。
目論見は近世から見られる語で、動詞「もくろむ(目論む)」の連用形の名詞化です。
もくろむは、囲碁で対局中に目を計算することをいい、そこから、物事を企てることや計画する意味となりました。
「もく」は碁盤の目をさす「目」の字音ですが、「ろむ」の形になった理由は分かっていません。
漢語「目論(もくろん)」の字音からとする説もありますが、目論は「目は様々なものを見ることができるが、自分のまつ毛は見えない。同様に、人の欠点はよく見えるが、自分の欠点は見えないものだ」という教訓を表す語で、意味的には結びつきません。
7.紋切り型(もんきりがた)
「紋切り型」とは、「型にはまったやり方。決まりきった形式」のことです。ステレオタイプ。
紋切り型は、文字通り、紋を切り抜くための型を指した語です。
近世頃から、「決まりきったやり方」を言うようになりました。
古くは「型通り」の意味しかなく、悪い意味に限られた言葉ではありませんでしたが、時代が下がるにつれ、融通が利かないといったニュアンスを含んで用いられる事が多くなりました。