日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.焼き餅(やきもち)
「やきもち」とは、「嫉妬。ねたみ」のことです。「やきもちを焼く」「やきもち焼き」などと使われます。
やきもちは、嫉妬することを「妬く(やく)」と言うことから、「焼く」に掛けて、洒落で「餅」が添えられた語です。
「妬く」と「気持ち」から「妬く気持ち」となり、「焼きもち」になったともいわれます。
嫉妬した時の膨れっ面と、焼いた餅の膨れる姿が似ていることから、「焼き餅」になったとする説もありますが、こちらは後から付け加えられた説と考えられています。
2.やさぐれる
「やさぐれる」とは、「すねる。投げやりになる」ことです。
やさぐれるは、不良の間で使われていた隠語「やさぐれ」が転じた言葉です。
「やさぐれ」の「やさ」は、「鞘(さや)」の反転で、刀の刀身部分を入れる筒の意味から「家」を表します。「やさぐれ」の「ぐれ」は、外れることです。
つまり、家出や家出人を「やさぐれ」と言いました。
この「やさぐれ」が動詞化され「やさぐれる」となり、家出することを言いました。
それが「グレる」との混同や、ふらふらと宿無し状態でいるイメージから、やさぐれるは「すねる」「投げやりになる」の意味で使われるようになりました。
やさぐれるの意味が変化したことにより、「やさぐれ」も「無気力でいい加減」「投げやりな状態」を表す言葉として使われるようになっています。
3.やんちゃ
「やんちゃ」とは、「子供がいたずらやわがままで大人の言うことをきかないこと。また、そのさま。俗に、素行がよくないこと」です。
やんちゃの語源には、二つの説があります。
ひとつは、子供が言うことを聞かない時に発する「嫌じゃ(いやじゃ)」が訛って、「やんちゃ」になったとする説。
もうひとつは、「脂(やに)」は粘って扱いにくいことから、子どもが腕白で扱いにくいことをたとえた言葉に「脂茶(やにちゃ)」があり、それが訛って「やんちゃ」になったとする説です。
音変化の点では、後者の「脂茶」の説が有力です。
4.野暮(やぼ)
「野暮」とは、「洗練されていないこと。垢抜けていないこと。世情に疎く、人情など微妙な心の動きを理解できないこと。またそのような人のこと」です。形容詞化され「野暮ったい人」などと使われます。
野暮は、遊郭などの事情に疎いことを意味していましたが、その意味が転じ、洗練されていないことを広く意味するようになりました。
野暮の語源には、田舎者を意味する「野夫」が転じたとする説と、雅楽の楽器「笙(しょう)」にある「也(や)」と「毛(もう)」という二本の管は音が出ないため、役立たずの意味で「やもう」「やも」「やぼ」と変化し、「野暮」になったとする説があります。
この二説が有力とされますが、正確な語源は未詳です。
また、東京都国立市にある谷保天満宮の名から、「野暮」や「野暮天」という言葉ができたとする説もあります。
しかし、狂歌師の大田蜀山人が「野暮」と「谷保」を掛け、「神ならば出雲の国へゆくべきに目白で開帳やぼのてんじん」と詠んだことから、そのような説が生まれたもので、それ以前から「野暮」という言葉は存在していたため、「野暮」の語源と「谷保天満宮」は無関係です。
5.野次馬(やじうま)
「野次馬」とは、「物見高く集まる人。自分とは無関係なことを面白半分に騒ぎたてる人」のことです。
野次馬の「野次」は当て字で、老いた馬を意味する「親父馬(おやじうま)」の「お」が省略された言葉といわれます。
老いた馬は仕事に使えず、暴れ馬も仕事に使えないため、「やじ馬」は暴れ馬も指すようになりました。
さらに、何も役に立たないという意味が転じ、自分とは関係ないところで無責任に騒ぐ人をさすようになり、物見高く集まる人もさすようになりました。
「やんちゃ馬」が転じて、「やじ馬」になったとする説もあります。
しかし、「やんちゃ」と「やじ」には大きな隔たりがあり、そのような音変化をするか疑問で、「親父」を「やじ」という例は以前から存在するため、「親父馬」の説が有力です。
6.藪から棒(やぶからぼう)
「藪から棒」とは、「何の前触れもなく唐突に物事をすること」です。
藪から棒は、「藪から棒を突き出す」の略です。
草木が群がる藪は中が見えず、何がいるか分かりません。
その藪から棒を突き出されると、非常に驚くため、意表をついた行動をすることのたとえとして、「藪から棒」と言うようになりました。
江戸中期の浄瑠璃『鑓の権三重帷子』に、「藪から棒と申さうか 寝耳に水と申さうか」の例が見られます。
7.ヤクザ
「ヤクザ」とは、「素行の悪い人。また、役に立たない人。道楽者。暴力団員など、正業に就かず、法に背くなどして暮らす者の総称」です。暴力団。
ヤクザの語源は、めくりカルタの一種である「三枚」という、カブ賭博に由来する説が定説となっています。
「三枚」は、手札3枚の合計が、10又は20になると無得点になります。
「8」「9」「3」の組み合わせは20で無得点になるため、無得点の組み合わせを「ヤクザ(八九三)」と言いました。
それが転じて、ヤクザは役に立たないものや価値のないものを意味するようになり、遊び人や博徒など、まともでない者、暴力団員などを「ヤクザ」と呼ぶようになりました。
8.ヤンキー
「ヤンキー」とは、「不良っぽい若者。アメリカ人」のことです。
南北戦争当時、アメリカ南部で北軍の兵士や北部諸州人を軽蔑した呼び方が「Yankee」でした。
のちに「ヤンキー」は、アメリカ人全体を指す言葉となりました。
日本で不良っぽい若者を「ヤンキー」と呼ぶようになったのは、大阪難波の「アメリカ村」と呼ばれる地域からです。
1970年代から80年代にかけ、アメリカ村で買った派手なアロハシャツや太いズボンを履いて、繁華街をウロウロする若者を「ヤンキー」と呼ぶようになりました。
やがて、不良少年全般を「ヤンキー」と呼ぶようになり、西日本を中心に全国に広まりました。
単にアメリカ風ファッションから、「ヤンキー」と呼ぶようになったのではなく、彼等が語尾に「~やんけ」を連発していたことから、「やんけ」とアメリカ人を指す「ヤンキー」が合わさったとも考えられています。
全国にこの語が広まったのは、1983年、嘉門達夫の『ヤンキーの兄ちゃんのうた』のヒットによると言われます。
しかし、それ以前から若者の間では、全国的に使われていた言葉です。
「ヤンキー」の語が幅広い層に認知された要因のひとつとして、『ヤンキーの兄ちゃんのうた』のヒットがあったとする方が正しいようです。
9.蜻蜓(やんま)
「蜻蜓」とは、「大形のトンボの総称」です。
蜻蛉(とんぼ)古名「ヱムバ」や「エバ」が転じた説、「山蜻蛉(ヤマヱンバ)」の義とする説などがあります。
「ヱムバ(恵無波)」の語源は、羽の美しい意で「笑羽(ヱバ)」からとする説、四枚ある羽が重なっていることから「八重羽(ヤヱバ)」が転じた説など、他にも諸説あります。
なお、オニヤンマ(鬼蜻蜓、馬大頭)(上の画像)は、日本最大のトンボとして知られており、頭部から腹の先端までは9~11 cmほどに達します。