日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.葦簀/葭簀(よしず)
「よしず」とは、「日よけや人目を遮るのに用いる葦で作った簀」です。よしすだれ。
よしずの「よし」は、イネ科「アシ」の別名「ヨシ」のことです。
高槻の早春の風物詩である「鵜殿のヨシ原焼」は有名ですね。
よしずの「ず」は、割り竹や葦を糸で編んだものを表す語で、「すのこ」「すだれ」の「す」と同源ですが、よしずは「よしすだれ」とも呼ばれるように、ヨシで作ったすだれの意味です。
ただし、「よしすだれ」が略され「よしす」、「よしず」へと変化したのではなく、「すだれ」が単に「す(簀)」と呼ばれていたことから、ヨシの簀で「よしず」となったのです。
「葦簀」は夏の季語です。
2.涎(よだれ)
「よだれ」とは、「無意識に口の外に流れ出る唾液(だえき)」です。
よだれは、古くは「よだり」「よたり」と言い、平安時代以降「よだれ」に転じました。
よだり(よたり)の「たり」は、「垂れる」「垂らす」意味の動詞「垂る」の名詞形です。
よだれの「よ」は、「緩む」「弱い」の意味など流れ出る箇所の状態を表しているとする説や、「よよ」と泣く時に垂れるものの意味など諸説あります。
『名義抄』では「鼻水」を表す「洟」や、「涙」を表す「涕」を「よたり」と読ませていることから、古くは、唾液だけではなく、鼻水や涙など垂れ流れ出るものを「よだれ」と呼んでいたようです。
3.嫁(よめ)
「嫁」とは、「息子の妻。妻。新婚の女性。婿の対。他家にとついだ娘」のことです。また、「君が嫁」の略で、ネズミの別名です。
嫁の語源は、息子の妻として迎えることから「呼女(よびめ)」の意味とする説。
姑(しゅうとめ)に対し、嫁は弱い立場にあるため「弱女(よはめ)」の意味とする説。
「良女(よきめ)」「吉女(よめ)」の意味とする説。
夜の殿に仕える若い女の意味で、「夜女(よめ)」など諸説あります。
上記の中では、「良女」「吉女」が有力とされますが根拠らしいものはなく、嫁いびりや男尊女卑の問題を避けるために有力な説にしたとの見方もあり、語源は未詳です。
4.用心棒(ようじんぼう)
「用心棒」とは、「護衛のために身辺につけておく従者」のことです。ボディーガード。
用心棒は用心のために備えておく棒、盗賊などから身を守るために身近に用意しておく棒のことで、武器的な役割をする棒をいいました。
転じて、博徒などが警戒のために雇う武芸者を「用心棒」と呼ぶようになり、ボディーガードの意味となりました。
引き戸が開かないよう内側から押さえるつっかい棒も、「用心棒」や「心張り棒(しんばりぼう)」と言いましたが、こちらは侵入者を防ぐためのもので、ボディーガードを意味する用心棒の「棒」とは異なります。
5.横綱(よこづな)
「横綱」とは、「相撲で力士の最高位。横綱力士の略称」です。
横綱は、白麻で編んだ太いしめ縄のことで、その横綱を吉田司家(よしだつかさけ)から締めることを許された大関力士を言いました。
つまり、横綱は綱そのもの、または大関の中で品格・力量・技の最も優れた者を指したもので、本来は力士の階級ではありませんでした。
番付に初めて「横綱」と明記されたのは明治23年(1890年)の西ノ海です。
横綱が最高位として明文化されたのは明治42年(1909年)で、現在は相撲協会が免許する地位となっています。
横綱の起源は古く、正確な由来は未詳ですが、一説には摂津吉住大社の相撲会(すもうえ)に出た「ハジカミ」という近江国(滋賀県)の力士があまりにも強かったため、ハジカミの腰にしめ縄を巻き、それに触れば相手の勝ちとしたのが始まりといわれます。
結局、ハジカミのしめ縄には誰一人として触れなかったということです。
6.夜這い(よばい)
「夜這い」とは、「夜、男が女の寝床に忍んで行くこと」です。
よばいは動詞「呼ばふ」の連用形「呼ばひ」が名詞化した語で、「夜這い」と書くのは当て字です。
上代から見られる語で、本来、男性が女性のもとに通い、求婚の呼びかけをすることを「よばい」と言いました。
「よばい」には「夜」のイメージがあったようで、早い時代から「夜這い」の字が当てられています。
「夜這い」が定着して以降、求婚の呼びかけの意味は忘れられ、男が女の寝床に忍び込む意味として用いられるようになりました。
7.夜なべ(よなべ)
「夜なべ」とは、「夜に仕事をすること」です。夜業。
夜なべの語源には、以下のとおり諸説あります。
①夜に鍋物を食べながら仕事をすることから「夜鍋」。
②昼に夜を並べて仕事をする意味で「夜並べ」。
③昼の仕事を夜に延ばす意味で「夜延べ」。
④夜遅くまで仕事をすることから、夜を延ばす意味で「夜延べ」。
意味と語構成から④の説が有力とされます。
漢字で「夜鍋」とも書くため①の説も多く見られますが、「夜鍋」の表記は「夜なべ」の音から当てたものと思われます。
「夜なべ」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・婢(はしため)の をりしは昔 母夜なべ(大橋敦子)
・さむしろに 機織蟲(はたおりむし)の 夜なべ哉(菊渓)
・足算の 帳尻合わず 夜なべ妻(中井智子)
・首筋に 集る疲れ 夜なべ終ふ(森口時夫)