日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.レトロ/retro
今は「昭和レトロブーム」だそうです。
「レトロ」とは、「懐古的であること。古いものを好むこと。懐古趣味。また、そのさま」です。
レトロは、英語「retro」からの外来語で、「retrospective(レトロスペクティブ)」の略です。
「retrospective」は「回顧的な」「追憶にふける」など過去を懐かしむさまを意味し、「retro-」が「後方へ」「遡る」、「spect」は「見る」に由来します。
2.レム睡眠(れむすいみん)
「レム睡眠」とは、「睡眠中の型の一つ。身体は眠った状態だが、脳波は覚醒時と同様の波形をしている状態」です。
レム睡眠の「レム」は、「急速眼球運動」を意味する「rapid eye movement」を略した「REM」です。
この睡眠状態になると、眠っているのに起きている時のような素早い眼球運動をすることから、「レム睡眠(rapid eye movement sleep)」と名付けられました。
レム睡眠の時は、夢を見ていることが多く、その内容も覚えていることが多いことから、「夢見睡眠(ゆめみすいみん)」とも呼ばれます。
3.連翹(れんぎょう)
「レンギョウ」とは、「中国原産のモクセイ科の落葉低木」です。早春、葉より先に黄色の花を開きます。観賞用。イタチグサ。
レンギョウは、漢名「連翹」の音読みです。
ただし、レンギョウの中国名は「黄寿丹」で、「連翹」は「トモエソウ」か「オトギリソウ」を指す名前です。
伝来時にこの種を誤って「連翹」としたことから、日本では「レンギョウ」と呼ばれるようになりました。
「連翹」の「連」は、枝に実が並んで付いていることを表します。
「翹」は、キジが尾羽を広げて高く飛び立つさまを表した漢字で、ここでは茎が高く直立していることを表しています。
「連翹」は春の季語で、次のような俳句があります。
・連翹や 黄母衣の衆の 屋敷町(炭太祇)
・連翹に 一閑張の 机かな(正岡子規)
・連翹に 山風吹けり 薪積む(飯田蛇笏)
・行過ぎて 尚連翹の 花明り(中村汀女)
4.檸檬/lemon(れもん)
「レモン」とは、「インド原産のミカン科の常緑低木。また、その果実」です。果実は長卵形で両端がとがり、黄色に熟します。酸味が強く、クエン酸・ビタミンCを含みます。
レモンは、英語「lemon」からの外来語です。
元は、ヒンドゥー語「limbu」で、それがアラビア語に入って「laimun」「limun」と呼ぶようになり、ラテン語で「limo」となりました。
更に、フランス語やスペイン語に入って「limon」となり、英語に移って「lemon」となりました。
これらは全て「レモン」を表す言葉で、何故こう呼ばれるようになったか不明です。
なお、フランス語の「limon」は、14世紀から「citron(シトロン)」が「レモン」を表すようになったため、現在は使われていません。
レモンの漢字は中国語「檸檬(ネイモウ)」からの借用で、英語「lemon」の音訳です。
また、紅茶にレモンの薄い輪切りを浮かべる「レモンティー」は和製英語です。
イギリスではこのような飲み方自体されませんが、もし英訳するならば「tea with lemon」となります。
「檸檬」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・檸檬買ひ 帰る稲妻 しきりなる(館岡沙緻)
・檸檬青し 海光秋の 風に澄み(西島麦南)
・仏像の 残像檸檬 供えたく(和田悟朗)
・初旅の 鞄一個の レモン秘む(井上雪)
5.煉瓦/レンガ(れんが)
「レンガ」とは、「粘土に砂・石灰などを混ぜ、型に入れて窯で焼いたもの」です。建築・道路舗装などに用います。ふつうは酸化鉄を含む粘土を用いた赤煉瓦を指します。英語では「brick」といいます。
レンガは西洋建築に多く見られることや、カタカナ表記されることが多いため、漢字の「煉瓦」は当て字と思われることもありますが、中国では紀元前5000年頃からレンガが建築用にされており、元は中国語です。
煉瓦の「煉」は「火」に「東」ではなく、本来「火」に「柬」と表記します。
「柬」は「束(たば)」+「ハ印(わける)」の会意文字で、良い物と悪い物を選り分ける意味があり、「火」に「柬」で金属を溶かして精錬するといった意味があります。
煉瓦の「瓦」は屋根の「瓦」のことですが、ここでは土を焼いて作った板を表します。
「煉」は漢音・呉音ともに「レン」と読み、「瓦」を「ガ(グヮ)」と読むのは漢音です。
古くは、「煉瓦石(れんがせき)」とも言い、「煉化石」と表記されることもありました。
6.レストラン/restaurant
「レストラン」とは、「西洋料理店。洋食屋」のことです。食堂よりも高級な店という印象を与える場合にも用います。
レストランは、フランス語「restaurant」からの外来語です。
フランス語の「restaurant」は、ラテン語で「良好な状態にする」を意味する「instauro」、「再度」「良い状態にする」「回復する」意味の「restauro」に由来します。
これらの語系から、14世紀にフランス語で「回復させる」を意味する「restaurer」という語が生まれました。
英語で「回復」を意味する「restore(レストアー)」も、同じ語系です。
「回復させる」という意味から、「元気にさせる飲食物」「滋養となる飲食物」を意味するようになり、「回復させる所」を意味する「restaurant」という語が生まれました。
英語では、1790年代に「resutauranteur(レストラントゥール)」という語が入り、「食堂の主人」といった意味で用いられ、1800年代には「食堂」の意味で用いられました。
1820年代後半に「restaurant」の語が入ったため、「resutauranteur」は消えていきました。
現代のレストランの起源は、1766年、裕福な商人の息子が、パリの旅行者を喜ばせるために考案したのが始まりといわれます。
当時のパリには、限られた時間内に大テーブルを囲んで大勢で食べる不潔な簡易食堂しかなく、現代のパリのレストランにほど遠いものでした。
そこで彼は、個々のテーブルで楽しみながら食事ができ、メニューから好きな料理を選べ、旅人の疲れを癒せる場所にすることを考えました。
そのレストランは、旅行者のみならず会食のために訪れる人も増えて、そのような形式の食堂がパリには増えていきました。
日本では安政4年(1857年)頃に長崎でレストランが開業され、文久2年(1862年)に横浜でも開業されました。
7.レタス/lettuce
「レタス」とは、「キク科アキノノゲシ属の一年生または二年生の葉菜」です。チシャの英語名。日本では一般に、キャベツのように結球するタマヂシャを指します。
レタスは、「乳液」を意味するラテン語「lac」「lact-」から出た語です。
レタスを切ると白い乳状の液が出るため、ラテン語で「lactuca」と呼ばれました。
それがフランス語に入って「laitue」、複数形で「laitues」となり、14世紀に英語で「lettuce」となりました。
キク科アキノノゲシ属の属名「Lactuca(ラクトゥカ)」も「乳液」の意味からで、分類学者のリンネによって命名された名です。
レタスを切ると出る白い乳状の液は、「ラクチュコピクリン」「レタスオピウム」「レタス阿片」「ラクトカリウム」などと呼ばれるポリフェノールの一種で、かつては鎮静剤として用いられました。
古代ギリシャ・ローマでは、レタスが安眠をもたらす野菜として紀元前から食べられていたといわれますが、玉レタスが広まったのは16世紀頃からなので、当時のレタスは結球しないタイプのものと考えられています。
「レタス」は春の季語です。