前に「認知症の高齢者は自由に預金を引き出せない」という記事を書きましたが、最近よく耳にする「デジタル遺産」や「デジタル資産」についても、事前に家族にその内容を伝えておくなどの注意が必要です。
1.デジタル資産・デジタル遺産とは
「デジタル資産」とは、「ネット上の銀行口座の預金や、ネット証券の口座の株式、FX口座、仮想通貨」などのことです。このデジタル資産は、紙や通帳のような実体(実物)がなく、全てデジタルで完結するため、「自分から言わなければ、自分以外の誰も知らない」状態となります。
デジタル資産の持ち主が元気なうちは、それでも問題はないのですが、何も言わずに突然亡くなったりした場合に、相続人が大変困ることになるわけです。亡くならなくても、認知症になった場合も同様の問題が起こります。
この「デジタル資産の遺産」、つまり「インターネットの中にある自分だけの財産の遺産」が「デジタル遺産」です。「デジタル遺品」と呼ばれることもあります。
「デジタル資産」は、上に挙げた銀行口座、証券、仮想通貨のような「直接マネーに関連するもの」だけでなく、「スマホ内の写真」や「ツイッター(Twitter)」や「フェイスブック(Facebook)」、「インスタグラム(Instagram)」あるいは「有料サイトの会員」などのインターネット上の財産もあります。
2013年にネットセキュリティー大手のマカフィーが発表した調査によれば、「クラウドサービス」に保管してある写真やアプリから金融記録など、人々が所有するデジタル資産は、一人平均で3万5千ドル相当以上の価値があるそうです。
2.デジタル資産の管理のポイント
(1)デジタル資産の「リスト(目録)」を作り、追加や変更・削除をこまめに行うこと
「リスト」の内容は、「利用サービス名」「電話番号(極力フリーダイヤル)」「アカウントのID」「アカウントのパスワード」などです。
「リスト」の保存方法は、「USBメモリ」がお勧めです。ただ、「USBメモリ」に保存するだけでなく、最新版のリストを紙に印刷しておくことです。これは遺族が一目でわかるようにするためです。なお、パソコンのハードディスクやマイドキュメントに保存しておくのは情報流出の危険がありますので、避けてください。
紙のリストの保管場所は、銀行の貸金庫がベストですが、自宅の金庫など鍵のかかる所がベターです。
(2)重要なものの「保管場所」を家族に知らせておくこと
「預金通帳」、「キャッシュカード」や「印鑑」のほか、「トークン型のワンタイムパスワード」、「デジタル資産のリスト」(USBメモリと紙のリスト)の保管場所ももきちんと家族に伝えておくことです。できれば配偶者や息子など複数の家族に伝えておくのが望ましいと思います。
(3)「追悼アカウント管理人指名」機能のあるサイトはその機能活用も検討のこと
一部のインターネットプロバイダーやサイトでは、自分でアカウントを管理できなくなった時にどうするかを設定することができるそうです。
フェイスブックは2015年に、「追悼アカウント管理人指名」機能を付けました。家族や友人を管理人にすると、自分の死後にその人がアカウントの維持管理、場合によっては削除ができます。ただし、故人になりすましてログインしたり、故人の私的メッセージを見ることはできないそうです。
グーグルは「アカウント無効化管理ツール」を用意しています。一定期間アカウントの利用がなければ、指定した連絡先(最大10人)にメールで通知し、アカウントのデータを公開するよう設定できるそうです。あるいはアカウント自体を自動削除することも可能です。
(4)「デジタル世代の引き継ぎノート」というエンディングノートも活用すること
「日本デジタル終活協会」では、「デジタル世代の引き継ぎノート」というエンディングノート」を希望者に販売しているそうです。これを購入して「デジタル資産リスト」を作成してもよいと思います。これを購入しなくても書店に行けば何種類もの紙ベースの「エンディングノート」を売っていますので、立ち読みで必要な項目を確認した上で、自分でエクセルファイルの「エンディングノート」を作ってもよいと思います。
ちなみに2012年の経済産業省の調査によれば、「30代以上の日本人の約64%がエンディングノートを知っていますが、実際に書いているのはその2%に過ぎない」とのことです。
(5)「利用頻度の少ないデジタル資産」のサービス・取引を減らすこと
遺族に極力迷惑を掛けないために、デジタル資産にかかるサービス・取引の見直しを、元気なうちに行い、利用頻度の少ないサービス・取引は解約するなど「断捨離」すべきです。
3.デジタル遺産の整理のポイント
(1)部屋の中にある預金通帳などのアイテムや実店舗のある銀行や証券会社の口座だけでなく、「パソコン」や「スマホ」、「タブレット」の中身も確認のこと
(2)「有料サイトの会員」になっていなかったか確認のこと
退会せず放置しておいて、死後数か月経ってから、遺族が故人の郵便物を整理して初めて発見されることが多いようです。放置すればするほど月額利用料がかさむことになります。
(3)「ネット証券」や「FX口座」がなかったか確認のこと
株式の「現物取引」だけであれば、元金を超える損失を被ることはありません。しかし、配当金を銀行口座に振り込まず証券会社の口座にプールしている場合は、遺族としては、せっかくの株式資産があっても永遠に放置されてしまうというリスクもあります。
FX口座については、さらに大変です。FXのレバレッジ取引では、証拠金という元金の25倍まで掛け金を引き上げることができます。その結果、損失が出れば相続財産だけでは不足して借金までしなければならない事態にもなりかねません。
4.インターネットを利用している高齢者の家族をお持ちの方へのアドバイス
10百万円を超える預金が保護されない「ペイオフ」が始まったことと超低金利の影響で、10百万円を超える預貯金を保有する人は、メガバンクなどの実店舗のある銀行以外に、インターネット銀行に預金している人も多いと思います。
ジャパンネット銀行などの「インターネット専業銀行」と取引している場合は、メガバンクなどの「インターネットバンキング」とは異なり、「実店舗」も「通帳」もなく、「郵送での通知」もないので、パソコンやスマホのインターネット画面でしかその内容を知ることができません。
パソコンやスマホでインターネットを利用している高齢者の家族をお持ちの方は、高齢者が元気なうちに上に挙げたような準備をしているか確認し、もしまだなら早めに準備を進めるように促してください。
「インターネット銀行」ほど利用者は多くないと思いますが、「ネット証券」や「FX口座」、「仮想通貨」、「有料サイトの会員」についても同様に確認し、リストへの登載洩れのないようにして下さい。
ちなみに、2015年の総務省の「通信利用動向調査」によれば、「60代の日本人のパソコン保有率は53.2%、ネット利用率は76.6%に達している」とのことです。
今後ますます「デジタル遺産」は増えて行くものと予想されます。したがって、ほとんどの相続において「デジタル遺産」が存在すると考えて間違いはないと思います。
5.「電子マネー」や「マイル」、「お買い物ポイント」は相続できるのか
ICOCA、PiTaPa、SuicaやPayPay、LINEPayなどの「電子マネー」やANAマイレージやJALマイレージなどの「マイル」は、相続可能です。
しかし、「Tポイント」や「nanacoポイント」のような「お買い物ポイント」は、ほとんど相続できないようです。ただし、「Tポイント」や「nanacoポイント」などは、ANAマイレージやJALマイレージなどに交換可能な場合もあるようです。相続の可否やマイルへの交換の詳しい手続きは、それぞれのポイント提供会社にご確認ください。