「綺麗な薔薇(ばら)には棘(とげ)がある」ということわざがあります。英語の「Every rose has its thorn.」ということわざが由来です。
「外見の美しいもの、魅力のあるものは危険をはらんでいることが多い」「良いことずくめのものはない」という教訓です。
ただ黒川博行の小説「後妻業」を髣髴とさせるような事件の犯人の筧千佐子を見ると、「綺麗な薔薇」だけに注意していれば大丈夫とはいかないようです。「羊の皮をかぶった狼」もいるということです。
閑話休題、今回は「身近な美しい花で毒を持ったもの」をご紹介したいと思います。
キノコの場合は、キノコ狩りなどでも「毒キノコ」に注意する人は多いと思いますが、花については一般によく知られている例もありますが、意外と知られていないものがあります。
1.ヒガンバナ(彼岸花)
全草有毒で、特に鱗茎にアルカロイド(リコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンなど)を多く含む有毒植物です。ひどい場合には、中枢神経の麻痺を起こして死に至ることもあります。
私は子供の頃に田んぼの畦道(あぜみち)に咲いていたヒガンバナを摘んで家に持ち帰ったところ、母から「その花は縁起の悪い花で毒があるからすぐに捨てなさい」と注意された記憶があります。子孫の身を守るために貴重な「昔からの人の言い伝え」です。
この花には「葬式花(そうしきばな)」「墓花(はかばな)」「死人花(しびとばな)」「地獄花」など不吉な別名が多くあります。秋の彼岸頃に突然花茎を伸ばして鮮やかで妖しい紅色の花が咲くので、このような名前が付けられたのだと思いますが、確かに謎の多い植物です。
2.キョウチクトウ(夾竹桃)
花、葉、枝、根、果実すべての部分と、周辺の土壌にも毒性があります。
私が通っていた小学校の東側の生け垣に植わっていました。キョウチクトウには毒があることは両親から聞いていました。
3.スズラン(鈴蘭)
有毒物質は全草にありますが、特に花や根に多く含まれています。摂取した場合、嘔吐、頭痛、めまい、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの症状を起こし、重症の場合は死に至ります。
スズランを活けた水を飲んでも中毒を起こすことがあり、誤飲して死亡した例もあります。
4.スイセン(水仙)
全草が有毒ですが、鱗茎に特に毒成分が多くなっています。スイセンの致死量は10gです。
中毒は初期に強い嘔吐があり、摂取物の大半が吐き出されるため、症状が重篤に至ることは稀ですが、鱗茎を浅葱(あさつき)と間違えて食べて死亡した例があります。
このスイセンの香りを嗅ぐと気持ちが落ち着くので、私もよく鼻を近づけて香りを吸い込みますが、決して食べないようにして下さい。
5.ジギタリス
猛毒があり、観賞用に栽培する場合は取扱いに注意が必要です。胃腸障害、嘔吐、下痢、不整脈、頭痛、めまい、重症になると心臓機能が停止して死亡することがあります。
6.エンゼルトランペット
全草に毒がありますが、根には少なく種子に多く含まれています。和名はキダチチョウセンアサガオ(木立朝鮮朝顔)です。ゴマ粒大の種子10粒で子供が死亡した例があります。
7.トリカブト(鳥兜)
葉や茎に毒があります。嘔吐、下痢、手足や指の麻痺、重症の場合は死亡することもあります。食用のニリンソウ、モミジガサ、ゲンノショウコなどの若芽や若葉がトリカブトと似ているため、間違うことがあるようです。
1986年に「トリカブト保険金殺人事件」というのがありました。夫が妻をトリカブト毒(アコニチン)を使って殺害し、保険金をだまし取ろうとした事件です。これは司法解剖した医師が被害者の血液を保存していて、その分析を行った結果殺人事件が発覚したものです。
私はこの事件で初めて、トリカブトが猛毒の植物であることを知りました。
8.イヌサフラン(コルチカム)
球根や葉には有毒成分であるコルヒチンが存在します。食用の「行者ニンニク」と誤認しやすく、食中毒死亡例もあります。
9.アセビ(馬酔木)
葉、樹皮、花には強い有毒成分があります。誤食すると、腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れ、重症化すると神経麻痺、呼吸困難などの後に死に至ることもあります。
10.シャクナゲ(石楠花)
葉にロードトキシンことグラヤノトキシンなどの痙攣毒を含んでいます。中毒症状は、悪心、痙攣、嘔吐、手足の麻痺、呼吸困難などを起こし、最悪の場合は昏睡状態に陥り、死に至ります。
11.フクジュソウ(福寿草)
全草に毒があります。症状は嘔吐、下痢、呼吸困難、心臓麻痺などです。「福寿草」の名前から、新年の縁起物として知られる植物ですが、同じキンポウゲ科のトリカブトと並んで注意が必要です。
12.クリスマスローズ
全草に毒があります。症状は皮膚炎、水疱、不整脈などです。冬のガーデニングで人気の植物ですが、手入れの際に触ったりするとかゆみが出ることもあります。ヨーロッパでは狩猟の際に矢じりに塗る毒として使われていました。
クリスマスローズはトリカブトやフクジュソウと同じキンポウゲ科の植物です。
13.シクラメン
茎と根に毒があります。症状は嘔吐、下痢、痙攣、皮膚炎、胃腸炎などです。冬の観賞植物として庭や室内でごく一般的に栽培されています。小椋佳さんが作詞・作曲した「シクラメンのかほり」を布施明さんが歌って大ヒットしましたが、その影響でさらに人気が出た花です。
室内の鉢植えを小さいお子さんが目を離したすきにいじってしまわないように気を付ける必要があります。
以上のように美しい花には毒を持っているものが多いですが、料理屋で出されるお造りについている「食用菊」は食べられます。ただし美味しいかどうかはそれぞれの人の好みによります。
菊花は、中国では古代から「延命長寿の花」として、菊茶・菊花酒、漢方薬として飲まれて来ました。
余談ですが、松尾芭蕉(1644年~1694年)には、1691年9月9日の重陽の節句に「草の戸や日暮れてくれし菊の酒」という「菊花酒」を詠んだ句があります。