1、「握れば拳開けば掌」ということわざ
皆さんはこのことわざをお聞きになったことがあるでしょうか?
これは「心の持ちようで、同じものでもさまざまに変化すること」を教えています。他人を殴る拳(こぶし)も、他人を撫でる(又は他人と握手する)掌(てのひら、たなごころ)も、いずれも人間の手であることに変わりはありません。
憎しみや怒りは「拳」、愛おしさや親しみは「掌」ということですね。
2.「拳」と「掌」
(1)拳
これは「会意兼形声文字」です。
「獣の爪の象形(「放射状に広がる」という意味)」と「両手で捧げる象形」(「巻き込む」という意味)と「5本の指がある手の象形」から、「指を巻き込み、こぶしを握る」「こぶし」という意味のこの漢字ができました。
(2)掌
これは「形声文字」です。(「手」+「尚」)
「5本の指がある手の象形」と、「神の気配の象形と家屋の象形と口の象形」(屋内で祈るさまから「こいねがう」の意味ですが、ここでは「当」に通じ「あたる」の意味)から、「物を持つ時に手の当たる部分」ということで「てのひら」という意味のこの漢字ができました。
3.「怒」と「恕」
「怒」と「恕」も、よく似た形の漢字ですが、意味は「怒る」と「恕(ゆる)す」と正反対です。
(1)怒
これは「会意兼形声文字」です。
「手・両手をしなやかに重ねひざまずく女性の象形」(「力を尽くして働く女奴隷」の意味)と「心臓」の象形から、「感情に力を込めること」を意味し、そこから「おこる」「いかる」という意味のこの漢字ができました。
(2)恕
これは「会意兼形声文字」です。(「如」+「心」)
「両手をしなやかに重ねひざまずく女性の象形」(「素直でおとなしく人の言うことをよく聞く女性」の意味)と「口の象形」(「神に祈る」の意味)(神に祈って素直な女性の意味)と「心臓の象形」(「心」の意味)から、「思いやりの心」を意味するこの漢字ができました。
(3)「いかる」と「ゆるす」という意味を表す漢字のいろいろ
①「いかる」は普通、「怒」という漢字を用いますが他にも次のような漢字があります。
・憤:「怒りを抱く」「憤る」という意味です。
「憤怒(ふんぬ)」「憤慨(ふんがい)」「憤激(ふんげき)」「憤懣(ふんまん)」「憤忿(ふんえん)」「憤恚(ふんい)」「憤愠(ふんおん)」「悲憤(ひふん)」「鬱憤(うっぷん)」
・慷:「社会的な不正や不義に対する怒り、嘆く」という意味です。
「慷慨(こうがい)」
・忿:「ぷんぷん怒る」「憤る」という意味です。
「忿懣(ふんまん)」「忿怒(ふんぬ)」「忿激(ふんげき)」「忿恚(ふんい)」
・恚:「怒る」「恨む」という意味です。
「恚怒(いど)」「恚憤(いふん)」
・愠:「怒る」「憤る」「ムッとする」という意味です。
「愠怒(うんど、おんど)」
・嗔:「怒る」という意味です。
「嗔恚(しんい)」
・愾:「憤る」「恨み怒る」という意味です。
「憤愾(ふんがい)」「敵愾(てきがい)」
・瞋:「怒る」「怒って目をカッと開く」という意味です。
「瞋恚(しんい)」
②「ゆるす」は普通、「許」という漢字を用いますが他にも次のような漢字があります。
・恕:「思いやりの心」「他人の気持ちを推し量って同情すること」です。
「寛恕(かんじょ)」「忠恕(ちゅうじょ)」
・赦:「罪や過去を許す」という意味です。
「赦免(しゃめん)」「恩赦(おんしゃ)」
・宥:「大目に見る」「見逃す」という意味です。
「宥恕(ゆうじょ)」「宥赦(ゆうしゃ)」
・釈:「許して自由にする」という意味です。
「釈放(しゃくほう)」
・允:「承知して許す」という意味です。
「允可(いんか)」「允許(いんきょ)」
私もそれぞれの漢字の微妙なニュアンスの違いまではよくわかりません。ただこのように見てくると、「漢字」というのは奥が深いものだと改めて感じますね。