兵法と言えば、「孫子の兵法」が有名ですが、「三十六計逃げるに如かず」ということわざもあります。
この「三十六計」とは何か?今回はこれについてわかりやすくご紹介したいと思います。
1.兵法三十六計とは
「兵法三十六計」とは、中国の魏晋南北朝時代の兵法書(戦争などにおける兵の用い方を説いた書物)です。
兵法における戦術を6系統・36種類に分類した内容です。
著者は中国南北朝時代の南朝宋の将軍檀道済(たんどうせい)(?~436年)です。彼は宋の建国者である劉裕に仕え、宋第2代皇帝・少帝の後見となりましたが、後にその武名を恐れた宋第3代皇帝・文帝によって殺害されました。
豊臣秀吉に戦術の才能の高さを恐れられ、切腹させられる危機もあった軍師の黒田官兵衛にも似た人物だったようです。
この書物は、1941年に邠県(現在の陝西省咸陽市彬州市)で再発見され、時流に乗って大量に出版されました。
さまざまな時代の故事・教訓が散りばめられているため、中国では、兵法書として世界的に有名な「孫子」よりも民間において流通し、日常生活でも幅広く用いられているそうです。
習近平主席率いる「共産党一党独裁国家」中国の動向を見ると、「深慮遠謀」のこの戦術として駆使しているようです。しかしこの手法は行き過ぎると、人間的にも全く信用されなくなり、他国の信頼を失いかねません。
菅首相の愛読書はマキャベリの本だそうですが、むしろ信念を持って「愚直」に行くべきで、あまりパフォーマンスに走ったり「権謀術数」を使いすぎると、かえって国民の支持を失うように私は思います。
2.兵法三十六計の具体的内容
この「兵法三十六計」は優れた戦術書」だとは思いますが、「疑心暗鬼」になりすぎたり、「策士策に溺れる」(または、策士策に倒れる)こともありますので注意が肝要です。
こういう「悪知恵」を働かせる人間や国家があるという意味で、人生における教訓にもなり、他国を冷静に見る目を養うのに役立ちます。また四字熟語の勉強にもなりますので、じっくりご覧ください。
(1)勝戦計
こちらが戦いの主導権を握っている場合の定石です。
①瞞天過海(まんてんかかい)
「天を瞞(あざむ)きて海を過(わた)る」と訓読します。
敵に繰り返し行動を見せつけて見慣れさせておき、油断を誘って攻撃することです。
最近の中国による尖閣諸島周辺での海警艦船の頻繁な航行は、まさにこれだと思います。
②囲魏救趙(いぎきゅうちょう)
「魏を囲んで趙を救う」と訓読します。
敵を一箇所に集中させず、奔走させ疲れさせてから撃破することです。
③借刀殺人(しゃくとうさつじん)
「刀を借りて人を殺す」と訓読します。
同盟者や第三者が敵を攻撃するよう仕向けることです。
④以逸待労(いいつたいろう)
「逸を以(もっ)て労を待つ」と訓読します。
直ちに戦闘するのではなく、敵を撹乱して主導権を握り、敵の疲弊を誘うことです。
⑤趁火打劫(ちんかだこう)
「火に趁(つけこ)んで打(おしこみ)を劫(はたら)く」と訓読します。
敵の被害や混乱に乗じて行動し、利益を得ることです。
⑥声東撃西(せいとうげきせい)
「東に声して西を撃(う)つ」と訓読します。
陽動によって敵の動きを翻弄し、防備を崩してから攻めることです。
(2)敵戦計
余裕を持って戦える、優勢の場合の作戦
①無中生有(むちゅうしょうゆう)
「無中に有(ゆう)を生ず」と訓読します。
偽装工作をわざと露見させ、相手が油断した所を攻撃することです。
②暗渡陳倉(あんとちんそう)
「暗(ひそ)かに陳倉に渡る」と訓読します。「陳倉」は地名です。
偽装工作によって攻撃を隠蔽し、敵を奇襲することです。
③隔岸観火(かくがんかんか)
「岸を隔てて火を観(み)る」と訓読します。
敵の秩序に乱れが生じているなら、あえて攻めずに放置して敵の自滅を待つことです。
④笑裏蔵刀(しょうりぞうとう)
「笑裏に刀を蔵(かく)す」と訓読します。
敵を攻撃する前に友好的に接しておき、油断を誘うことです。
⑤李代桃僵(りだいとうきょう)
「李(すもも)が桃に代わって僵(たお)れる」と訓読します。
不要な部分を切り捨て、全体の被害を抑えつつ勝利することです。
⑥順手牽羊(じゅんしゅけんよう)
「手に順(したが)いて羊を牽(ひ)く」と訓読します。
敵の統制の隙を突き、悟られないように細かく損害を与えることです。
(3)攻戦計
相手が一筋縄でいかない場合の作戦
①打草驚蛇(だそうきょうだ)
「草を打って蛇を驚かす」と訓読します。
状況が分からない場合は偵察を出し、反応を探ることです。
②借屍還魂(しゃくしかんこん)
「屍(しかばね)を借りて魂を還(かえ)す」と訓読します。
死んだ者や他人の大義名分を持ち出して、自らの目的を達することです。
③調虎離山(ちょうこりざん)
「調(はか)って虎を山から離す」と訓読します。
敵を本拠地から誘い出し、味方に有利な地形で戦うことです。
④欲擒姑縦(よくきんこしょう)
「擒(とら)えようと欲(ほっ)すれば姑(しばら)く縦(はな)て」と訓読します。
敵をわざと逃がして、気を緩ませたところを捕えることです。
⑤抛磚引玉(ほうせんいんぎょく)
「磚(かわら)を抛(な)げて玉を引く」と訓読します。磚はレンガで、玉は宝石です。
自分にとっては必要のないものを囮(おとり)にし、敵をおびき寄せることです。
⑥擒賊擒王(きんぞくきんおう)
「賊を擒(とら)えるには王を擒(とら)えよ」と訓読します。
敵の主力や、中心人物を捕えることで、敵を弱体化することです。
(4)混戦計
相手がかなり手ごわい場合の作戦
①釜底抽薪(ふていちゅうしん)
「釜底の薪を抽(ぬ)く」と訓読します。
敵軍の兵站(へいたん)や大義名分を壊して、敵の活動を抑制し、あわよくば自壊させることです。
兵站とは、戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食糧などの前送・補給に当たり、また後方連絡線の確保に当たる活動機能のことです。
②混水摸魚(こんすいぼぎょ)
「水を混ぜて魚を摸(と)る」と訓読します。
敵の内部を混乱させ、敵の行動を誤らせたり、自分の望む行動を取らせることです。
③金蝉脱殻(きんせんだっかく)
「金蝉、殻を脱す」と訓読します。
あたかも現在地に留まっているように見せかけ、主力を撤退させることです。
④関門捉賊(かんもんそくぞく)
「門を関(と)ざして賊を捉(とら)う」と訓読します。
敵の退路を閉ざしてから包囲殲滅することです。
⑤遠交近攻(えんこうきんこう)
「遠きに交わり近きを攻む」と訓読します。
遠くの相手と同盟を組み、近くの相手を攻めることです。
⑥仮道伐虢(かどうばつかく)
「道を仮(か)りて虢(かく)を伐(う)つ」と訓読します。
攻略対象を買収等により分断して、各個撃破することです。
これは晋に滅ぼされた虞(ぐ)と虢の故事に由来する言葉です。
(5)併戦計
同盟国間で優位に立つために用いる策謀
①偸梁換柱(とうりょうかんちゅう)
「梁(はり)を偸(ぬす)み柱に換(か)う」と訓読します。
敵の布陣の強力な部分の相手を他者に押し付け、自軍の相対的立場を優位にすることです。
②指桑罵槐(しそうばかい)
「桑を指して槐(えんじゅ)を罵(ののし)る」と訓読します。
本来の相手ではない別の相手を批判し、間接的に人心を牽制しコントロールすることです。
③仮痴不癲(かちふてん)
「痴を仮(か)りて癲(くる)わず」と訓読します。
愚か者のふりをして相手を油断させ、時期の到来を待つことです。
④上屋抽梯(じょうおくちゅうてい)
「屋(おく)に上げて梯(はしご)を抽(はず)す」と訓読します。
敵を巧みに唆(そそのか)して逃げられない状況に追い込むことです。
⑤樹上開花(じゅじょうかいか)
「樹上に花を開(さか)す」と訓読します。
小兵力を大兵力に見せかけて敵を欺くことです。
⑥反客為主(はんかくいしゅ)
「反(かえ)って客が主(あるじ)と為(な)る」と訓読します。
一旦敵の配下に従属しておき、内から乗っ取りをかけることです。
(6)敗戦計
自国が極めて劣勢の場合に用いる奇策
①美人計(びじんけい)
土地や金銀財宝ではなく、あえて美女を献上して敵の力を挫(くじ)くことです。
②空城計(くうじょうけい)
自分の陣地に敵を招き入れることで敵の警戒心や疑心暗鬼を誘い、攻城戦や包囲戦を避けることです。
③反間計(はんかんけい)
スパイを利用して敵内部を混乱させ、自らの望む行動を取らせることです。
④苦肉計
人間というものは自分を傷つけることはない、と思い込む心理を利用して敵を騙すことです。
日本では「苦肉の策」と一般に言います。
⑤連環計(れんかんけい)
敵と正面からぶつかることなく、複数の計略を連続して用いたり足の引っ張り合いをさせて勝利を得ることです。
⑥走為上(そういじょう)
「走(に)ぐるを上(じょう)と為(な)す」と訓読します。
日本の「三十六計逃げるに如かず」ということわざの語源です。
勝ち目がないならば、戦わずに全力で逃走して損害を避けることです。