「鏡の国のアリス」は「不思議の国のアリス」の続編で、ルイス・キャロルの有名な児童小説ですが、その中に「赤の女王」というキャラクターが出て来ます。
この「赤の女王」に由来する「赤の女王仮説」というのがあるのをご存知でしょうか?
1.「赤の女王」とは
この「鏡の国のアリス」という物語は、登場人物たちがチェスのルールに従いながら盤面のように広がる異世界を進んで行く構成となっています。そして「赤の女王」や「白の女王」など、容姿がチェスの駒をモチーフにした者が登場します。
一般にチェスは「白と黒」に分かれますが、この物語では「白と赤」に分かれます。
「赤の女王」は、アリスに対して尊大な態度で接しながらも、異世界でのチェスゲームへの参加を助言しました。またアリスに鏡の国の性質を最初に説明したキャラクターでもあります。
「赤の女王」はアリスに「ここでは、同じ場所にとどまるためには、力の限り走らねばならぬ。どこかほかの所に行きたければ、少なくともその二倍の速さで走らねばならぬ」と教えます。
2.「赤の女王仮説」とは
「赤の女王仮説」とは、アメリカの進化生物学者リー・ヴァン・ヴェーレン(1935年~2010年)が1973年に提唱した「生物の種は絶えず進化していなければ絶滅する」という仮説です。
この名前は「鏡の国のアリス」で「赤の女王」がアリスに話した「同じ場所にとどまるためには、力の限り走らねばならぬ」という言葉にちなんで名付けたものです。
「ある生物種を取り巻く環境は、他種の生物の進化的変化などの影響で絶えず悪化しているので、常に持続的な進化を継続していなければ絶滅に至る」、つまり「現状を維持するためには、周囲の生物が進化して生じる環境変化に対応して進化し続けなければならない」ということです。
具体的には、「食う者(捕食者)は、もし食われる者(被食者)がより素早く逃げる能力を獲得すれば、今まで通りに餌を取るためには、より速く走れるように進化し続けなければならない」ということです。
「無性生殖」よりもコストのかかる「有性生殖」が行われる理由として「赤の女王仮説」が持ち出されることもあります。
「有性生殖は絶えず新しい組み合わせの遺伝子型を作ることによって、進化速度の速いウイルスや細菌による感染症に対抗する役割を持っている」という考え方です。
動物だけでなく植物も、絶えず様々な病原体の脅威に晒されています。うっかりすると、すぐに病気に冒されてしまいます。
それに対抗するためには、病原体に抵抗力のある突然変異が生じたら、できるだけ早くそれを広めていくしかありません。しかし病原体もどんどん変異していきます。
コロナウイルスもイギリス型(アルファ型)・南アフリカ型(ベータ型)・ブラジル型(ガンマ型)・インド型(デルタ型)やオミクロン型などの変異種が確認されています。人間にとってはやっかいなことですが、ウイルスも必死で逃げて生き延びようとしているのです。
変異した病原体に対抗するには、また新しい突然変異が必要です。突然変異した遺伝子を早く広めるには、両性の繁殖によって遺伝子を混ぜ合わせるほかありません。
こうして、動物も植物も「有性生殖」によって、力の限り走り続けているわけです。
3.ルイス・キャロルとは
ルイス・キャロル(Lewis Carroll)(1832年~1898年)は、イギリスの数学者・論理学者・写真家・作家・詩人です。本名は、チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(Charles Lutwidge Dodgson)です。
単なる「童話作家」だとばかり思っていた方も多いのではないかと思います。なお、「ペンネーム」のルイス・キャロルは、本名の綴り字を並べ替えて作ったものです。
彼は名門パブリックスクールのラグビー校を経てオックスフォード大学に進学してクライストチャーチ学寮に入り、学士号取得後も「数学および論理学の講師」として、生涯独身で終生この学寮にとどまりました。
彼の愛はもっぱら幼い少女たちに向けられましたが、そのうちの一人である学寮長の娘アリス・リデル(下の写真)に捧げられたのが「不思議の国のアリス」です。
「鏡の国のアリス」という物語も、彼と親交のあったアリス・リデルとその姉妹から着想を得ています。
異世界への出入り口の「鏡」は、リデル姉妹が祖父母の屋敷に滞在していた際、客間の暖炉の上に置かれていた大きな鏡がモデルとなっています。
また彼は、「写真家」としても優れ、当時最新のカメラを駆使して、300人を超す少女たちや、テニソン・ロゼッティ兄妹など、当時の名士たちの写真も撮影しています。
そのほか、本職の「数理学を応用したパズル」も数多く作っています。