雷と言えば、梅雨明けを告げる雷や盛夏の巨大な入道雲(積乱雲)と急な雷雨を思い出しますが、冬の北陸地方で発生する「鰤起こし」と呼ばれる雷や、春の夜に遠雷のような「春雷」を聞くこともあります。
また「地震雷火事親父」という言葉もあるように、昔の人々は「神が鳴らすもの」として「神鳴り」と呼び、「雷獣の仕業」あるいは菅原道真の怨霊が「天神」となったものと考えて恐れました。
1.雷にまつわる伝説
(1)雷を斬った男(斬雷の闘将)
立花道雪(1513年~1585年)は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、大友氏の家臣です。「大友興廃記」などに次のような逸話が載っています。
1548年炎天下の日のこと、彼が故郷の大木の下で涼んで昼寝していたところ、急な夕立で雷が落ちかかりました。彼は枕元に立てかけていた愛刀の「千鳥の太刀」を抜き合わせて、稲妻を一刀両断し、涼んでいたところを飛び退きました。
「千鳥の太刀」には、雷を斬った痕がくっきりと残っていたため、これ以後「雷切(らいきり)」と号するようになりました。
雷に打たれたため、左足不随の後遺症が残ったものの、一命を取り留めたことから「雷神の化身」と噂され、以後の合戦では6人担ぎの輿(こし)に乗って指揮を執り、鉄砲や愛刀「雷切」を振るったことから「鬼道雪」と呼ばれました。
(2)雷獣
「雷獣」とは、落雷とともに現れると言われる日本の妖怪です。東日本を中心とする日本各地に伝説が残されており、江戸時代の随筆や近代の民俗資料にも多数見られます。
一説には「平家物語」において源頼政に退治された妖怪「鵺(ぬえ)」は、実は雷獣であるとも言われます。
(3)天神となった菅原道真
天神となった菅原道真については、「菅原道真が大宰府に左遷された原因は何か?また天神様になった理由は何か?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご一読ください。
2.雷を詠んだ俳句・和歌
(1)俳句
単に「雷」と言えば「夏」の季語です。「いかづち」(語源は「厳(いか)つ霊(ち)」)とも言います。
しかし「稲妻」は「秋」の季語です。「初雷」「春雷」「虫出しの雷」は「春」の季語です。「鰤起こし」は「冬」の季語です。
・雷(らい)の音ひと夜遠くを渡りをり (中村草田男)
・いまづまや堅田(かたた)泊りの宵の空 (与謝蕪村)
・初雷(はつらい)のごろごろと二度鳴りしかな (河東碧梧桐)
・鰤起し鷹は子猫を狙ひをり (仙田洋子)
(2)和歌
・雷神(なるかみ)の少し響(とよ)みてさし曇り雨も降らぬか君を留めむ (柿本人麻呂)
・雷神の少し響みて降らずとも吾は留まらむ妹し留めば (柿本人麻呂)
上の二つは、「君の名は。」で有名な新海誠監督の「言の葉の庭」という映画で引用された和歌です。主人公のタカオが謎めいた年上の女性・ユキノと新宿御苑で出会うシーンです。
・鳴る神の音のみ聞きし巻向(まきむく)の桧原(ひはら)の山を今日見つるかも (柿本人麻呂)
3.雷が発生するメカニズム
(1)雷のメカニズム
現在では、雷は「雲の中にある塵(微粒子)や、水・氷の粒がぶつかり合うことで摩擦帯電が起きたり、氷の粒が分裂したりすることで、大気(雲)の中にプラスとマイナスの電荷が発生することが原因」だとわかっています。
(2)積乱雲
雷が発生する条件として欠かせないのが「積乱雲」です。積乱雲は、地表にある湿った空気が、強い日差しを受けて暖められ、空に昇って行くことで発生しますが、このとき雲の中では次のような変化が起こっています。
強い上昇気流の影響によって、雹(ひょう)や霰(あられ)といった大きな氷の粒と、雪の結晶のように小さな氷の粒が激しく衝突します。
(3)静電気の蓄積と放電
その摩擦によって静電気が発生し、小さな粒はプラスの電気、大きな粒はマイナスの電気を帯びます。
そして、気流によって小さな粒は雲の上のほうに、大きな粒は下のほうに集まると、雲の上のほうにプラス、下のほうにマイナスの電気を蓄積します。
その電気が一定の量を超えた時、瞬間的に「放電」されます。これが雷の正体です。
(4)雷鳴
また、放電の通り道には大きな電流が流れるため、1万℃以上の高温になりますが、その影響で空気が急激に膨張します。
この時に起こる「衝撃波」が「雷鳴」と呼ばれる現象です。
(5)落雷
さらに、「雲と地表との間で起こる放電現象」が「落雷」です。これは通常は、雲の下のほうに溜まったマイナスの電気と地上との間で起きるものです。
ただし、まれに雲の上のほうにあるプラスの電気と地上との間で放電現象が起こることもあります。これは冬の日本海側などで時々見られる落雷で、「鰤起こし」とも呼ばれています。