漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「揺れる気持ち」を表す四字熟語のうち、「悩み」「残念・後悔」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.悩み
(1)雨露霜雪(うろそうせつ)
さまざまな気象状態の変化のこと。または、人生でのさまざまな苦しみや悩みのこと。
雨や露が降り、霜や雪が降りるという意味から。
(2)懊悩呻吟(おうのうしんぎん)
色々なことを考えて悩み苦しむこと。
「懊悩」は悩んで苦しむこと。「呻吟」は苦しみのあまり声を発すること。
(3)懊悩煩悶(おうのうはんもん)煩悶懊悩(はんもんおうのう)
思い悩んで、苦しんでもだえること。
「懊悩」は悩んでもだえること。「煩悶」は苦しみ悩むこと。
似た意味の語を重ねて強調した言葉。
(4)艱難辛苦(かんなんしんく)
非常な困難にあって苦しみ悩むこと。
「艱」「難」はともにつらい、苦しい、悩むの意。「辛苦」はつらく苦しいこと。つらい目にあって悩むこと。
(5)疾痛惨憺/疾痛惨澹(しっつうさんたん)
ひどく悩み、心配すること。
「疾痛」と「惨憺」はどちらも心を痛めるという意味。
(6)焦心苦慮(しょうしんくりょ)
心を痛めて、あれこれ思いをめぐらし悩むこと。
「焦心」は気をもむこと。「苦慮」は心を悩まし考えること。
(7)千辛万苦(せんしんばんく)
さまざまな苦労や困難をしていくこと。また、そうした苦しみ。
「千」「万」は数の多いことを示す。「辛苦」が千も万もあるという意。
(8)粒粒辛苦(りゅうりゅうしんく)
穀物の一粒一粒は、農民の苦労と努力の結果実ったものであること。転じて、細かな努力を積み重ねて、たいへんな苦労をすること。
2.残念・後悔
(1)遺憾千万(いかんせんばん)
物事が思うようにならず、残念でたまらないようす。非常に心残りであるさま。
「遺憾」は、残念であること、心残りであること。「千万」は、程度のはなはだしいこと。
(2)意趣遺恨(いしゅいこん)
他人への深い恨み。
「意趣」は他人への恨み。「遺恨」は長い期間持ち続けている恨み。
(3)遺臭万載(いしゅうばんさい)
悪い評判やうわさを後世まで残すこと。
「遺」は残すこと。「臭」は悪臭ということから、悪い噂や評判のたとえ。
「万載」は万年という意味。
(4)衣繍夜行(いしゅうやこう)
たとえ出世しても、故郷に帰らなければ誰もその栄誉に気が付くことはないということのたとえ。
「衣繍」は美しい刺繍の服のこと。
暗い夜道を美しい刺繍の服を着て歩いても、誰も気がつかないという意味から。
中国楚の項羽が「富貴になっても故郷に帰らないのは、美しい服を着て暗い夜道を歩くようなものだ」と言った故事から。
(5)一知半解(いっちはんかい)
少ししか分かっておらず、十分に理解していないこと。生半可な知識や理解しかないこと。生かじり。
一つの事を知っているが半分しか理解していない意。
(6)一敗塗地(いっぱいとち)
再び立ち上がることができないほど大敗すること。完敗すること。
「塗地」は肝脳を地に塗る、すなわち惨殺され、戦死者の肝臓や脳などが大地に散乱して、泥まみれになること。
一般に「一敗(いっぱい)、地(ち)に塗(まみ)る」と訓読を用いる。
(7)飲鴆止渇(いんちんしかつ)/止渇飲鴆(しかついんちん)
後のことは何も考えずに目先の利益を得ること。または、一時逃れをして、後から大きな災いに遭うこと。
「鴆」は羽に猛毒をもつ鳥の名前で、その鳥の羽が入っている酒を喉の渇きを癒すために飲むことから。
(8)鬱肉漏脯(うつにくろうほ)
一時しのぎのために、先の不利益や危険などをかえりみないこと。
「鬱肉」は、腐った肉。「鬱」は、臭いなどがこもる。「漏」は、もれる。ここでは臭いがもれる。「脯」は、干した肉。ほしじし。腹をへらした者が一時しのぎに腐った肉や干し肉で急場をしのぐ意から。
(9)燕雁代飛(えんがんだいひ)
入れ違いになること。または、互いに隔てられていることのたとえ。
燕が南から渡ってくる季節には、雁は北へ渡り、雁が北から渡ってくる季節には、燕は南に渡るために出会うことはないということから。
「燕雁(えんがん)代わって飛ぶ」と訓読する。
(10)猿猴取月(えんこうしゅげつ)
自身の地位や能力を過信して、欲を出しすぎて身を滅ぼすこと。
「猿猴」は動物の猿こと。「猿猴捉月(えんこうそくげつ)」とも言う。
猿たちが木の枝から次々と尾をつかんでぶら下がって、井戸の中の水に映った月を取ろうとすると、枝が折れてしまい、猿たちは溺れ死んだという昔話から。
「猿猴(えんこう)月(つき)を取る」と訓読する。
(11)悔悟慙羞(かいござんしゅう)
過去の過ちに気付き、後悔すること。
「悔悟」は後悔して過ちに気付くこと。「慙羞」は恥じること。
(12)悔悟憤発(かいごふんぱつ)
失敗したことを後悔して、挽回に努めること。
「悔悟」は失敗を後悔して、欠点を理解すること。「憤発」は奮い立つこと。
(13)開門揖盗(かいもんゆうとう)
自分自身で原因を作って、災いを招き入れること。
「揖盗」は泥棒を会釈して招き入れること。
自宅の門を自ら開けて、会釈して泥棒を招き入れるという意味から。
「門(もん)を開いて盗(とう)に揖(ゆう)す」と訓読する。
(14)汗顔無地(かんがんむち)
その場から逃げ出したいほどに恥ずかしいこと。
「汗顔」は顔に汗をかくということから、この上ないほどに恥ずかしい様子のこと。
「無地」は場所がないということから、居場所がないこと。
「汗顔(かんがん)、地無(ちな)し」と訓読する。
(15)急功近利(きゅうこうきんり)
慌てて成功しようとして、目先の利益に勢いよくすがりつくこと。
「功」は功績や成功のこと。「利」は利益のこと。
「功を急ぎ利に近づく」と訓読する。
(16)敲氷求火(こうひょうきゅうか)
目的に合った方法をとらないと、いくら苦労してもその目的は達せられないことのたとえ。また、見当違いの無理な望みを持つことのたとえ。
「敲」は、たたく。いくら氷をたたいても火を起こすことはできないことから。
「氷(こおり)を敲(たた)いて火(ひ)を求(もと)む」と訓読する。
(17)残念至極(ざんねんしごく)
非常に悔しくてたまらないこと。とても心残りであること。
(18)残念無念(ざんねんむねん)/無念残念(むねんざんねん)
とても悔しいさま。悔しくて悔しくてたまらないこと。
「残念」も「無念」も、非常に悔しいことで、これを重ねて調子を整え、意味を強調した言葉。
(19)自暴自棄(じぼうじき)
希望を失い、自分などどうなってもいいとやけくそになること。失望などのために投げやりな行動をして、自分を駄目にすること。また、そのさま。
「自暴」はめちゃくちゃなことをして、自分自身のからだを損なうこと。「自棄」は自分で自分を見捨てること。
(20)千恨万悔(せんこんばんかい)
過去の失敗を激しく悔やむこと。
「千」と「万」は数が多いということから、程度が甚だしいことのたとえ。
「恨」と「悔」はどちらも過去のことを残念に思うこと。