漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「言動」を表す四字熟語のうち、「話す」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.議論・相談
(1)横説竪説(おうせつじゅせつ)
縦横自在にいろいろな観点から弁舌をふるうこと。
「竪」は縦という意味。
(2)侃侃諤諤(かんかんがくがく)
ひるまず述べて盛んに議論をするさま。議論の盛んなことの形容。また、はばかることなく直言するさま。
「侃侃」は強くまっすぐなさま。剛直なさま。「諤諤」は、はばかることなくありのままを正しく直言するさま。「侃諤」ともいう。
(3)危言覈論(きげんかくろん)
自分が正しいと思うことを主張し、激しく議論を闘わせること。
「危言」は、自分の身の危険をかえりみずに直言すること。「覈論」は、厳しく論ずること。
(4)鳩首凝議(きゅうしゅぎょうぎ)
人々が集まり、額を寄せ合って熱心に相談すること。
「鳩」は集める意。「鳩首」は頭を集めることで、人々が集まり額を突き合わせる意。「凝議」は熱心に議論すること。「凝」はこらす、集中する意。
(5)議論百出(ぎろんひゃくしゅつ)
さまざまな意見が数多く出されて、活発に議論されること。また、そのさま。
「百」は数が多いこと。
(6)喧喧諤諤(けんけんがくがく)
いろいろな人がさまざまな意見を言って、まとまりがつかず、ただ、がやがやとやかましいこと。
「喧喧」は、がやがやとやかましいさま。「諤諤」は、遠慮なしに直言するさま。自分の意見をはっきり主張するさま。「侃侃諤諤(かんかんがくがく)」と「喧喧囂囂(けんけんごうごう)」が混じり合ってできたことばで、それぞれの語の誤用から生まれたもの。
(7)喧喧囂囂(けんけんごうごう)
多くの人が口やかましく騒ぐさま。また、やかましく騒ぎ立てて収拾がつかないさま。
「喧喧」「囂囂」はともに、やかましいさま。騒がしいさま。
(8)口角飛沫(こうかくひまつ)
激しい勢いで議論を闘わすさま。
「口角」は、口のわき。「沫」は、つば。口からつばを飛ばすほど激しい勢いでするという意から。
「口角(こうかく)沫(あわ)を飛(と)ばす」と訓読する。
(9)高談闊歩(こうだんかっぽ)
盛んに議論をして、大股で歩くこと。転じて、自由で気ままなさま。
「高談」は、盛んに議論をすること。「闊歩」は、大股(おおまた)で歩くこと。転じて、自由に行動すること。
(10)高談雄弁(こうだんゆうべん)
大いに談論すること。盛んに議論すること。「高談」は意気盛んな談論。また、あたりかまわず存分に話すこと。
(11)甲論乙駁(こうろんおつばく)
互いにあれこれ主張して議論がまとまらないこと。甲の人が論ずると、乙の人がそれに反対するというように議論がいろいろと出る意から。
(12)高論卓説(こうろんたくせつ)
普通の人では考え及ばないようなすぐれた意見や議論のこと。
「高」は程度の非常に高いこと。「卓」は他に抜きんでてすぐれていること。
(13)鼓舌揺脣(鼓舌揺唇)(こぜつようしん)/揺脣鼓舌(揺唇鼓舌)(ようしんこぜつ)
好き放題に思ったことを喋ること。
「鼓舌」は舌を鳴らして喋ること。「揺脣」は唇を動かすこと。
どちらも勢いよく喋ることのたとえ。
(14)才弁縦横(さいべんじゅうおう)
すぐれた弁舌を自在に使いこなすこと。
「才弁」はすぐれた弁舌のこと。「縦横」は思い通りに使いこなすこと。
(15)賛否両論(さんぴりょうろん)
賛成意見と反対意見の二つがあること、またその二つのそれぞれの意見のこと。賛成と反対が対立して、意見がまとまらず、議論の余地があること。
(16)指天画地(してんかくち)
思ったことをそのまま言ったり、議論したりすることのたとえ。
または、身振り手振りで激しく話しをする様子。
「指天」は天を指差すこと。「画地」は地に描くこと。
「天(てん)を指(さ)し地(ち)に画(かく)す」と訓読する。
(17)衆議一決(しゅうぎいっけつ)
多くの人の議論や相談によって、意見がまとまり決まること。
「衆議」は多くの人々の議論・相談。「一決」は一つにまとまり決まること。
(18)衆口一致(しゅうこういっち)
多くの人の意見や評判がぴったり合うこと。
「衆口」は多くの人の口から出る言葉。「一致」は一つになる意。
(19)縦説横説(じゅうせつおうせつ)
思いのままに解説すること。または、思いのままに議論をすること。
「縦…横…」は自由にという意味。
(20)春蛙秋蝉(しゅんあしゅうぜん)
うるさいだけで、役に立たない無用な言論のたとえ。やかましく鳴く春のかえると秋のせみの意から。
(21)饒舌多弁/冗舌多弁(じょうぜつたべん)
よくしゃべって口がまわること。必要以上に口数が多いこと。おしゃべり。
「饒舌」も「多弁」も、よくしゃべり、口が達者なこと。「饒舌」は、「にょうぜつ」とも読む。
(22)諸説紛紛/諸説芬芬(しょせつふんぷん)
いろいろな意見が入り乱れて、まとまりがつかないさま。また、さまざまな憶測が乱れ飛んで、なかなか真相がつかめないさま。
「紛紛」は入り乱れたさま。
(23)唇焦口燥(しんしょうこうそう)
大きな声で何度も叫ぶこと。または、思いっきり叫んで疲れ弱った様子。
または、大きな声で激しい議論をする様子。
唇が焼け焦げて、口の中が乾燥するという意味から。
「唇(くちびる)焦(こ)げ、口(くち)燥(か)わく」と訓読する。
(24)崇論閎議(すうろんこうぎ)
見識高く、広く議論すること。また、その議論。
崇高かつ堂堂と議論をする意から。
「崇」は高い、「閎」は広い意。
「崇(たか)く論(ろん)じ閎(ひろ)く議(ぎ)す」と訓読する。
(25)千言万語(せんげんばんご)
非常にたくさんの言葉。また、たくさんの言葉を話すこと。さらにくどくどと言うこと。
「千」「万」は数の多いことを示す。「言」「語」はともに言葉のこと。
(26)踔厲風発(たくれいふうはつ)
(韓愈「柳子厚墓誌銘」から)才気にすぐれ、弁舌が鋭いこと。
(27)多事争論(たじそうろん)
たくさんの人が様々な議論を戦わせること。
「多事」はたくさんの事柄。「争論」は議論を戦わせること。
(28)談論風発(だんろんふうはつ)
盛んに語り論ずること。
「風発」は風が吹くような盛んな勢いであること。
(29)丁丁発止/打打発止(ちょうちょうはっし)
激しく議論し合うさま。また、刀などで激しく音を立てて打ち合うさま。
「丁丁」は続けて打ちたたく擬音。「発止」は堅い物どうしが打ち当たる擬音。
「止」は「矢」とも書く。
(30)百家争鳴(ひゃっかそうめい)
いろいろな立場にある人が自由に議論をたたかわせること。多くの学者や専門家が何の遠慮もなく、自由に自説を発表し、活発に論争し合うこと。中国共産党のスローガンの一つ。
「百家」はたくさんの学者・専門家。「争鳴」は自由、活発に論争すること。
(31)米塩博弁(べいえんはくべん)
議論が詳細かつ多方面にわたって交わされること。また、その議論。また、些末なことをくだくだと話すこと。
「米」「塩」は、ともに細かく小さな粒であることから、非常に細かいもののたとえ。「博」は広い、多方面の意。
(32)弁才無礙/弁才無碍(べんざいむげ)
喋ることが非常にうまく、流れるように話すことが出来ること。
「弁才」は弁舌の才能があること。「無礙」は何ものにも妨げられることがないこと。
元は仏教語で、菩薩が仏の教えを他人に説く、すぐれた能力のことをいった言葉。
(33)放言高論(ほうげんこうろん)
思ったまま、言いたい放題に論じること。また、そのさま。
「放言」は思ったままを言い放つこと。「高論」は声高に論ずること。また、すぐれた議論。
(34)満場一致(まんじょういっち)
その場所にいる全員の意見が一つになること。だれも異議がないこと。
「満場」は、会場全体。また、その場にいる全員。「一致」は、一つになること。会議などでよく用いられる言葉。
(35)名論卓説(めいろんたくせつ)
見識の高い立派な議論や意見のこと。
「卓説」はすぐれた意見の意。
(36)揺脣鼓舌/揺唇鼓舌(ようしんこぜつ)
好き放題に思ったことを喋ること。
「揺脣」は唇を動かすこと。「鼓舌」は舌を鳴らして喋ること。
どちらも勢いよく喋ることのたとえ。
2.弁舌巧み
(1)喙長三尺(かいちょうさんじゃく)
口が達者なことのたとえ。
「喙長」はくちばしの長さ。「三尺」は長いことのたとえ。
喙(くちばし)の長さが三尺もあるという意味から。
(2)懸河瀉水(けんがしゃすい)
流れるような話し方や、文章を言い表す言葉。
「懸河」は傾斜が激しい場所を、激しく流れている川。または、滝のこと。
「瀉」は流れ込むこと。
「懸河(けんが)水を瀉(そそ)ぐ」と訓読する。
(3)懸河之弁(けんがのべん)
よどみなく、ほとばしるような弁舌のこと。
「懸河」は、傾斜がきつくて激流になっている川のこと。「弁」は、弁舌。激流のような勢いの弁舌の意から。「立て板に水」と同意。
(4)舌先三寸(したさきさんずん)
口先だけの巧みな弁舌。うわべだけのうまい言葉で、心や中身が備わっていないこと。
「舌三寸」ともいう。
(5)平滑流暢(へいかつりゅうちょう)
なめらかで、よどみがないさま。
「平滑」は平らでなめらかなさま。「流暢」は水などが滞ることなく流れるように、言葉がすらすら出て、よどみのないさま。
3.ほら話・でたらめ
(1)河漢之言(かかんのげん)
(「荘子」逍遥遊から。天の川は遠い空にあるところから)漠然として取り留めもない言葉。
(2)花言巧語(かげんこうご)/巧語花言(こうごかげん)
飾っただけで内容のない言葉。
「花言」は見た目だけの内容のない言葉。「巧語」は飾っただけの言葉。
(3)胡説乱道(こせつらんどう)
辻褄が合わないでたらめな議論や言葉。
「胡説」はでたらめな議論。
「乱道」はいい加減なことを言うこと。または、そのようなことを言って道理を乱すこと。
(4)三百代言(さんびゃくだいげん)
詭弁(きべん)を弄すること。また、その人。また、弁護士をののしっていう語。明治時代の初期に、資格のない代言人(弁護士)をののしった語からいう。
「三百」は銭(ぜに)三百文(もん)の意で、わずかな金額、価値の低いことを表す。「代言」は代言人で弁護士の旧称。
(5)説三道四(せつさんどうし)
根拠のない適当なことをいうこと。
「説」と「道」は言うこと。三と言ったり四と言ったりするということから。
(6)舌敝耳聾/舌弊耳聾(ぜっぺいじろう)
話が回りくどくて分かりづらいことのたとえ。または、年老いて衰えたことを言い表す。
「舌敝」は舌がぼろぼろに破れる。「耳聾」は耳が聞こえなること。
話す側が疲れて、聞く方も飽きるという意味から。
(7)謬悠之説(びゅうゆうのせつ)
何の根拠もない、でたらめな話。
「謬」は間違っていること。「悠」は極めて広いこと。
(8)漫言放語(まんげんほうご)/放語漫言(ほうごまんげん)
口からでまかせに、勝手なことをいい散らすこと。
「漫言」は思いつきでいう言葉。「放語」は勝手なことをいい散らすこと。
(9)無稽之言(むけいのげん)
でたらめで根拠のない話のこと。
「無稽」は考えるべき根拠がまるでないこと。
4.こじつけ・詭弁
(1)郢書燕説(えいしょえんせつ)
意味のないことをあれこれこじつけて、いかにも道理にあっているように説明すること。
「郢」は、中国戦国時代、楚の国の都。「燕」は、国名。
中国戦国時代、楚の都・郢の人が燕の国の大臣にあてて手紙を書かせていたとき、灯火が暗かったので、灯火を持つ者に「燭(しょく)を挙(あ)げよ」と命じたところ、筆記者が誤ってこのことばを手紙に書きこんでしまった。その手紙を読んだ燕の大臣は、これを「明を挙用せよ、すなわち賢人を登用せよ」という意味に受けとって実行してみると、その結果、国がよく治まったという故事から。
(2)牽強付会/牽強附会/牽強傅会(けんきょうふかい)
自分の都合のいいように、強引に理屈をこじつけること。
「牽強」「付会」はともに、道理に合わないことを無理にこじつけること。
(3)堅白同異(けんぱくどうい)/堅白異同(けんぱくいどう)
まったく矛盾することを無理やりこじつけることのたとえ。詭弁を弄することのたとえ。
「堅白同異の弁」の略。
中国戦国時代、趙(ちょう)の公孫竜(こうそんりゅう)は「堅くて白い石は、目で見ると白いことはわかるが、堅さはわからない。手でさわると堅いことはわかるが、色はわからない。だから堅い石と白い石とは異なるもので、同一のものではない」という論法で詭弁を弄した故事から。
(4)指鹿為馬(しろくいば)
間違っていたり、理屈に合わないと理解していても、無理に押し通すこと。
中国の秦の始皇帝の死後に、権力を得ようとした趙高は、二世皇帝に鹿を馬と言って献上した。そのことに対して、何も言わなかった人や、それは馬だと言った人、鹿だと言った人がいたが、趙高は鹿と言った人は全て処罰したという故事から。
「鹿(しか)を指(さ)して馬(うま)と為(な)す」と訓読する。
(5)漱石枕流(そうせきちんりゅう)/枕流漱石(ちんりゅうそうせき)
自分の失敗を認めず、屁理屈(へりくつ)を並べて言い逃れをすること。負け惜しみの強いこと。
「石に漱(くちすす)ぎ流れに枕する」と常用され、夏目漱石の雅号「漱石」の由来として有名。
中国西晋(せいしん)の孫楚(そんそ)は「石に枕し流れに漱(くちすす)ぐ」と言うべきところを、「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまい、誤りを指摘されると、「石に漱ぐのは歯を磨くため、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言ってごまかした故事から。
(6)白馬非馬(はくばひば)
詭弁やこじつけのこと。
中国の戦国時代の公孫竜が唱えた論で、「白馬」は色を表す「白」と、形を表す「馬」という二つの概念を合わせたものなので、動物の「馬」とは全く別のものであって、「馬」ではないということ。
「白馬(はくば)は馬(うま)に非(あら)ず」と訓読する。
(7)付会之説/附会之説(ふかいのせつ)
関係のないものを無理やり理屈づけること。または、無理に理屈づけた論説のこと。
「付会」は無理に理屈づけること。
(8)有厚無厚(ゆうこうむこう)
詭弁のこと。極端に厚いものは、そのものが厚いとか薄いとかいうことができないから、厚いも薄いも同じもので、もともとは、厚さという概念などないのだという詭弁。