漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「非難」を表す四字熟語のうち、「おもねる・へつらう」「軽はずみ・浅はか」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.おもねる・へつらう
(1)阿附迎合/阿付迎合(あふげいごう)
相手の機嫌をとり、気に入られようとしてへつらいおもねること。
「阿附」は人の機嫌をとり、おもねり従うこと。「迎合」は人の言動をなんでも受け入れ合わせること。
(2)阿諛迎合(あゆげいごう)
相手に気に入られるために、媚びて機嫌を取ること。
「阿諛」は相手の気に入るように振る舞うこと。
「迎合」は相手の気に入るように調子を合わせること。
(3)阿諛傾奪(あゆけいだつ)
権力者に媚びて他人を失脚させ、地位などを奪うこと。
「阿諛」は相手の気に入るように振る舞うこと。
「傾奪」は他人を陥れて地位などを奪うこと。
(4)阿諛追従(あゆついしょう)
気に入られようとして、おもねりへつらうこと。
「阿諛」はおもねりへつらう意。「追従」はこびへつらうこと。また、その言葉。おべっか。
(5)阿諛便佞(あゆべんねい)
相手の気に入るように口先だけのうまいことを言って、調子を合わせること。
「阿諛」は相手の気に入るように振る舞うこと。
「便佞」は口ではうまいことを言いながら、誠意がまったくないこと。そのような人のこと。
(6)唯唯諾諾(いいだくだく)
事のよしあしにかかわらず、何事でもはいはいと従うさま。人の言いなりになり、おもねるさま。「はい、はい」の意。
「唯」「諾」ともに「はい」という応答の辞。
出典は『韓非子(かんぴし)』八姦(はっかん)。「優笑侏儒(しゅじゅ)、左右近習、此(こ)れ人主未(いま)だ命ぜずして唯唯、未だ使わずして諾諾、意に先だち旨を承(う)け、貌(ぼう)を観(み)色を察し、以(もっ)て主の心に先だつなり」(役者や道化師、従者や付き人などは主人がまだ何も命じていないのに「はい」と言い、何もさせないうちに「はい」と言い、主君の意向に先回りして意に添うようにし、様子や顔色をうかがって、主君の心に先回りしようとする者たちである)
この言葉の本来の意味は、「イエスマン」を指すというよりも、「忖度(そんたく)」(*)する人に近い意味合いですね。
(*)「忖度」とは、他人の心中をおしはかること、また、おしはかって便宜を図ることです。
忖度は、中国では『詩経』、日本では平安時代の『菅家後集』にもある古い言葉です。
現代では「そんたく」と漢音読みで統一されていますが、古くは「じゅんど」「しゅんと」と呉音読みもされていました。
「忖」も「度」も「はかる」を意味し、忖度には「相手の気持ちを考える」という意味しかありませんでした。
1990年代後半から、報道では「上位者の意向を推し量る」という否定的なニュアンスを含んだ言葉として、「忖度」が用いられ始めました。
2017年の森友学園問題の報道で、「権力者が言葉にしていない私利的意向を推し量って自主的に従う」といったニュアンスを含む言葉として「忖度」が使われたことにより、「相手の心情を推し量って行動する」という、気持ちを察した後の「行動」も意味する言葉として使われるようになりました。
(7)艶言浮詞(えんげんふし)
やさしく媚びる声やお世辞のこと。
「艶言」はやさしく媚びる声、猫なで声。「浮詞」は媚びる言葉、お世辞。
相手の機嫌をとる言葉をいう。
(8)欺軟怕硬(ぎなんはこう)
弱者を苦しめ、強者に媚びへつらうこと。
「欺」は軽んずること。「軟」は弱者のたとえ。「怕」は怖がること。「硬」は強者のたとえ。
「軟(なん)を欺(あざむ)き硬(こう)を怕(おそ)る」と訓読します。
(9)曲意逢迎/曲意奉迎(きょくいほうげい)
自分の意見や主張を曲げて、他人にこびへつらうこと。
「曲意」は意志や主張を曲げること。「逢迎」はこびへつらうこと。
「意(い)を曲(ま)げて逢迎(ほうげい)す」と訓読します。
(10)曲学阿世(きょくがくあせい)/阿世曲学(あせいきょくがく)
学問の真理にそむいて時代の好みにおもねり、世間に気に入られるような説を唱えること。真理を曲げて、世間や時勢に迎合する言動をすること。
「曲学」は真理を曲げた正道によらない学問。「阿世」は世におもねる意。「阿」はへつらいおもねる意。
(11)巧言令色(こうげんれいしょく)
口先だけでうまいことを言ったり、うわべだけ愛想よくとりつくろったりすること。人に媚こびへつらうさま。
「巧言」は相手が気に入るように巧みに飾られた言葉。「令色」は愛想よくとりつくろった顔色。「令」はよい意。
(12)呼牛呼馬(こぎゅうこば)
相手の言うのにまかせて、自分では逆らわないことのたとえ。
相手が自分を牛と呼べば自分は牛だと思い、馬だと呼ばれれば自分は馬だと思う意。
「牛(うし)と呼(よ)び馬(うま)と呼(よ)ぶ」と訓読します。
(13)讒諂面諛(ざんてんめんゆ)
ありもしない悪口を言って、人を陥れたり面前でこびへつらったりすること。
「讒諂」は讒言することと、こびへつらうこと。「面諛」は相手の面前でこびへつらうこと。
(14)舐痔得車(しじとくしゃ)
自分を卑しめることまでして大きな利益を手に入れること。
「舐痔」は痔を舐めること。「得車」は車を得ること。
中国宋の曹商は使者として秦に行き、大きな車を与えられて帰国した。
これに対して荘子は「痔を患っている秦王の患部を舐めてその車をもらったのだろう」と揶揄したという故事から。
(15)揣摩迎合(しまげいごう/すいまげいごう)
相手が思っていることを推測して、調子を合わせること。
「揣摩」は推測する。「迎合」は相手に合わせて、さからわないようにすること。
(16)柔茹剛吐(じゅうじょごうと)
弱者を見下して、強者に謙(へりくだ)るという、世の常を言う言葉。
「柔茹」は柔らかい食べ物を食べること。「剛吐」は固い食べ物を吐き出すこと。
「柔(じゅう)なるは茹(くら)い剛(ごう)なるは吐(は)く」と訓読します。
(17)承顔順旨/承顔順指(しょうがんじゅんし)
相手の顔色を窺って媚びへつらうこと。
「承顔」は相手の顔色を窺って、それに従うこと。
「順旨」は相手の気持ちや考えに従うこと。
「顔(かお)を承(う)け旨(し)に順(したが)う」と訓読します。
(18)随波逐流(ずいはちくりゅう)
なんら自分の主張・考えもなく、ただ世の大勢に従うこと。波にしたがい流れを追いかけるという意から。
「随波」は波にさからわず、波の流れのままになること。「逐流」も波の動きのままになること。
「波(なみ)に随(したが)い流(なが)れを逐(お)う」と訓読します。
(19)随風倒舵(ずいふうとうだ)
大勢に順応すること。また、風任せの意から、成り行きに任せるさまをいう場合もある。
風の向きによって舵の向きを変えるという意味から。
(20)趨炎附熱/趨炎付熱(すうえんふねつ)
時の権力者につき従い、こびへつらうこと。もとは、勢いよく燃えている炎に向かって走り、熱いものにつく意。
「炎」「熱」はともに勢いが盛んなもののたとえ。
「炎(えん)に趨(おもむ)き熱(ねつ)に附(つ)く」と訓読します。
(21)前倨後恭(ぜんきょこうきょう)
調子にのって横暴な態度をとっていたが、急に態度を変えて、相手にへつらうようになること。
「倨」は偉そうな態度をとること。「恭」は礼儀正しく丁寧なこと。
中国の戦国時代の遊説家の蘇秦は、諸国を放浪して貧しくなって故郷に帰ると、家族は偉そうに馬鹿にした態度をとった。
蘇秦は、その後に六国の宰相になって故郷に帰ると、家族は腰を低くして丁寧に迎え、媚びへつらったという故事から。
「前(さき)には倨(おご)りて後(のち)には恭(うやうや)し」と訓読します。
(22)諂上欺下(てんじょうぎか)
自分よりも力のある者には媚びを売り、自分よりも力のない者には馬鹿にした態度をとること。
「上(かみ)に諂(へつら)い下(しも)を欺(あざむ)く」と訓読します。
(23)諂佞阿諛(てんねいあゆ)
相手に気に入られるように振る舞うこと。
「諂佞」と「阿諛」はどちらもお世辞を言ったりして、気に入られるために振る舞うことで、似た意味の言葉を重ねて強調した言葉。
(24)同而不和(どうじふわ)
こびへつらって調子を合わせているが、親しみは持っていないこと。
孔子が、くだらない人間との付き合い方について言った言葉。
「同(どう)じて和(わ)せず」と訓読します。
(25)卑躬屈節(ひきゅうくっせつ)
自分の信念や持論を無理に変えて、人にこびへつらうこと。
「卑躬」は腰をかがめて頭を下げること。「屈節」は主義、主張を曲げること。
(26)俛首帖耳/俯首帖耳(ふしゅちょうじ)
人の機嫌をとる卑しい態度のこと。
「俛首」は頭を伏せること。「帖耳」は耳を垂れること。
犬が飼い主に従う様子ということから。
「首(こうべ)を俛(ふ)し耳(みみ)を帖(た)る」と訓読します。
(27)付和雷同/附和雷同(ふわらいどう)・雷同付和/雷同附和(らいどうふわ)
自分にしっかりとした考えがなく、他人の言動にすぐ同調すること。
「付和」は定見をもたず、すぐ他人の意見に賛成すること。「雷同」は雷が鳴ると万物がそれに応じて響くように、むやみに他人の言動に同調すること。
(28)望塵之拝(ぼうじんのはい)
身分の高い人や権力のある人に気に入られようと振る舞うこと。または、遅れを取ること。
「望」は後ろから眺めること。「塵」は車が動くときに巻き起こす砂埃。
中国の西晋の時代の人物、藩岳は当時強い権力を持っていた賈謐に媚びへつらい、賈謐の乗った車が去るときには、車が巻き起こした砂埃の中でいつまでもお辞儀をしていたという故事から。
(29)揺頭擺尾(ようとうはいび)
気に入られるために相手の機嫌をとること。
「擺尾」は尾を振ること。
川の流れに逆らって泳ぐ魚の動作のことをいい、頭を揺らしながら尾を振るという意味から。
「頭(かしら)を揺(うご)かし尾(お)を擺(うご)かす」と訓読します。
2.軽はずみ・浅はか
(1)軽率短慮(けいそつたんりょ)/短慮軽率(たんりょけいそつ)
よく考えないで、軽はずみに物事を決めたり、行動したりすること。また、そのさま。
「軽率」は、物事の善悪や成否などをよく考えずに決めたり、行動したりすること。また、そのさま。「短慮」は、せっかちで慎重さや思慮に欠けること。また、そのさま。
(2)軽佻浮薄/軽窕浮薄(けいちょうふはく)
考えや行動などが軽はずみで、浮ついているさま。
「軽佻」は落ち着きがなく、よく考えないで言動するさま。「浮薄」は浮ついて軽々しいさま。信念がなく他に動かされやすいさま。
(3)軽慮浅謀(けいりょせんぼう)
あさはかで軽々しい考えや計略。
「軽慮」は軽々しい考え。あさはかな考え。「浅謀」はあさはかな計画。考えの浅い計略。
(4)智謀浅短/知謀浅短(ちぼうせんたん)
浅はかな策略のこと。考えが足りないこと。
「智謀」は知恵や策略、または知恵を使った策略。
「浅短」は浅はかなこと、思慮が足りないこと。
(5)皮膚之見(ひふのけん)
物事の表面的な部分だけを見て、本質を捉えようとしない浅はかな考えのこと。
「見」は考えという意味。