漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「さまざまな状態」を表す四字熟語のうち、「危険」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.危険
(1)一縷千鈞(いちるせんきん)
極めて危険なこと。
「縷」は糸のこと。「鈞」は重さの単位。
一本の糸で千鈞もの重い物を吊るすということから。
(2)一触即発(いっしょくそくはつ)
ちょっと触れただけで、すぐに爆発しそうな状態の意から、きわめて緊迫した状態や状況。小さなきっかけで、重大な事態が起こるかもしれない危険な状態に直面していること。
「即」はすぐにの意。弓を引き絞り放たれるのを待っている緊張の状態の意からともいう。
(3)一髪千鈞(いっぱつせんきん)/千鈞一髪(せんきんいっぱつ)
一本の髪の毛で非常に重いものを引く意から、きわめて危険なことのたとえ。
「鈞」は、重量の単位。一鈞は、三十斤。周代で約6.36kg。
「一髪(いっぱつ)、千鈞(せんきん)を引(ひ)く」の略。
(4)委肉虎蹊(いにくこけい)
わかっていながらも危険な状況や災難を招くことのたとえ。または、無駄死にすること。
「委」は捨てるや、置くという意味。「虎蹊」は虎がいる道。
虎が出る道に肉を落とすという意味から。
「肉(にく)を虎蹊(こけい)に委(す)つ」という形で使うことが多い言葉。
(5)葦末之巣(いまつのす)
頼りに出来るものが何もなく、安定しないために危なっかしい様子。
植物の葦の穂先にある鳥の巣という意味から。
中国の蒙鳩という鳥が、羽毛などで編んだ巣を葦の穂先に結びつけたが、風が吹いて巣と一緒に卵が落ちて割れたという故事から。
(6)燕巣幕上(えんそうばくじょう)
安定せずに非常に危険な状況のたとえ。
戦場の本営などに張っている幕の上に燕が巣を作るという意味から。
「燕(つばめ)幕上(ばくじょう)に巣(す)くう」と訓読します。
(7)火中取栗(かちゅうしゅりつ)
自分のためにはならないが、他人のために危険なことをすること。
または、その結果で辛い思いをすること。
猿におだてられた猫が、燃えているいろりの中に入ってる栗を取ったが、猫は火傷をしたうえに栗は取られたという寓話から。
(8)餓狼之口(がろうのくち)
強欲で残忍な性質の人のたとえ。または、この上なく危険な状況。
ひどく腹を空かせた狼の口の中という意味から。
(9)危機一髪(ききいっぱつ)
ひとつ間違えば、非常な危険に陥ろうとする瀬戸際。髪の毛一本ほどのわずかな違いで、危険や困難に陥るかどうかの、きわめて危ない瀬戸際をいう。
「危機」は非常に危ない状態。「一髪」は一本の髪の毛。
(10)危急存亡(ききゅうそんぼう)
危険が切迫して存続するか滅びるか、生き残れるか死ぬかの瀬戸際のこと。
「危急」は危険が迫ること。「存亡」は存続するか滅びるか、また、生きるか死ぬかの意。
一般に「危急存亡の秋(とき)」と用いることが多い。秋は万物が実る季節であることから、大切な時の意。
この熟語は個人よりも組織や集団の重大な局面についていうことが多い。
(11)九死一生(きゅうしいっしょう)
危ういところで奇跡的に助かること。ほとんど死を避けがたい危険な瀬戸際で、かろうじて助かること。
「九死」は十のうち九まで死の可能性が高いことで、ほとんど死が避けがたい危険な場合をいう。「一生」は十のうち一の生きる可能性の意。
一般には「九死に一生を得る」という形で用いることが多い。
(12)窮途末路(きゅうとまつろ)/末路窮途(まつろきゅうと)
苦境にいて行きづまり、逃れようもない状態。窮地にあって困りはてること。
道がきわまって行きようのない意から。
「窮途」は行きづまりの道。転じて、苦しい境遇・困窮の意。「末路」は道の終わり。
(13)鶏犬不寧(けいけんふねい)
非常に緊迫した状況で、心が落ち着かないことのたとえ。
騒然としていて、鶏や犬でさえも落ち着かないという意味から。
「鶏犬(けいけん)も寧(やすら)からず」と訓読します。
(14)剣抜弩張(けんばつどちょう)/弩張剣抜(どちょうけんばつ)
戦闘が始まる直前のような緊張した状況のこと。または、書道で筆勢に激しい気迫がこもっていることのたとえ。
剣を鞘(さや)から抜いて、石弓に矢をつがえて弦を引くことから。
「弩」は矢や石を飛ばすことのできる機械、石弓。「張」は弦を引いて張ること。
(15)涸轍鮒魚(こてつのふぎょ)
危険や困難が迫っていることのたとえ。また、切迫した状況にある人のたとえ。
「涸」は水が枯れること。「轍」は車輪の跡、わだちのこと。「鮒魚」は魚の鮒(ふな)のこと。
水がなくなった車輪の跡にいる鮒という意味から。
荘子が監河侯に米を借りに行ったが、監河侯から「近々年貢が入るのでその後に貸しましょう」と言われた。
それを聞いた荘子は、「ここに来る途中で水が枯れた車輪の跡にいる鮒に水をくださいと助けを求められました。そこで私は、後で川の水を持ってきてあげようと答えました。しかし鮒は、水が欲しいのは今だと言って怒ってしまいました」というたとえ話をして窮状を訴えたという故事から。
(16)虎尾春氷/虎尾春冰(こびしゅんぴょう)
極めて危険なことのたとえ。または、危険なことをすることのたとえ。
虎の尾を踏んで、春の厚みの無い氷の上を歩くという意味から。
(17)狐狼盗難(ころうとうなん)
夜に道を行くことが危険なことのたとえ。
狐や狼、盗賊に襲われるということから。
(18)至緊至要(しきんしよう)
急いで対処しなければいけない大事なこと。
「至緊」は急を要すること。「至要」は大切なこと。
(19)小水の魚(しょうすいのうお)
水の少ない、小さな水溜りの中にいる魚のこと。いつ死んでもおかしくない危険な状況をいう。人の死が間近いことのたとえ。
いつ干上がって水がなくなるかわからないということから。「小水」は少量の水のこと。
(20)焦眉之急(しょうびのきゅう)
危険や急用が切迫している事態のこと、またその度合いを強調していう。
眉が焦げるほど火の勢いが迫ってきて危険であるという意味。緊急事態。
(21)進退維谷(しんたいいこく)
進むことも退くこともできず、身動きが取れないこと。
「維」は、これと読み、次に来る語を強調する語。「谷」は、「窮」と同じ意で、きわまる。
「進退(しんたい)維(これ)谷(きわ)まる」と訓読します。
(22)進退両難(しんたいりょうなん)
どうにもこうにもならないさま。にっちもさっちもいかないさま。進むことも退くことも困難な様子。
「進退(しんたい)両(ふた)つながら難(かた)し」と訓読します。
(23)寸歩難行(すんぽなんこう)
わずかな距離も移動することが出来ないこと。または、非常に苦しい立場に立たされ、どうすることも出来ない状態のたとえ。
「寸歩」はほんの少しの距離、一歩。一歩も動くことが出来ないという意味から。
「寸歩(すんぽ)行(ゆ)き難し」と訓読します。
(24)絶体絶命(ぜったいぜつめい)
困難・危険から、どうしても逃れられないさま。追いつめられ、切羽詰まったさま。
「絶」は窮まる意。追いつめられ窮地にある立場や状態をいう。
(25)千荊万棘(せんけいばんきょく)
多数の困難が待ち受けていること。
「千」や「万」は数が非常に多いことのたとえ。
「荊」と「棘」はいばらのことで、とげがある植物を言い表す言葉。
進む予定の道に数え切れないほどのいばらがあるという意味から。
(26)前虎後狼(ぜんここうろう)
災難などの辛いことが次から次へと起こること。
前から来る虎を防いでも、すぐに後ろから狼がやって来るという意味から。
「前門の虎、後門の狼」という形で使うことが多い言葉。
「前門に虎を拒(ふせ)ぎ後門に狼を進む」を略した言葉。
(27)前跋後疐(ぜんばつこうち)
どうすることもできない窮地に追い込まれること。
「跋」は踏むこと。「疐」はつまずき倒れること。
年老いた狼は前に進もうとすると垂れ下がった自分の顎を踏み、後ろに進もうとすると自分の尻尾を踏んで倒れるという意味から。
「前に跋(ふ)み後ろに疐(つまず)く」と訓読します。
(28)俎上之肉(そじょうのにく)
相手の思うまま、なすがままになっていること。また、そうした運命。
料理に出されるために、まな板に載せられた肉という意味。
日本では「俎上之魚(そじょうのうお)」ともいう。出典(『史記』項羽、『晋書』孔坦)の「人は方(まさ)に刀俎(とうそ)たり、我は魚肉たり」から。
(29)断崖絶壁(だんがいぜっぺき)
切り立ったがけ。非常に危機的な状況のたとえとして用いられることもある。
「断崖」「絶壁」はともに非常に険しいがけのこと。
(30)泥船渡河(でいせんとか)
世渡りの危険なことのたとえ。泥で作った船で川を渡る意から。
「泥船(でいせん)に乗りて河を渡る」と訓読します。
(31)羝羊触藩(ていようしょくはん)
勇気だけで勢いよく突き進む人は、どうすることもできない状況に陥るということのたとえ。
または、どうにもできない状況のたとえ。
「羝羊」は雄の羊。「触藩」は生垣に突っ込むこと。
雄の羊が勢いよく生垣に突っ込んで、角が引っかかって動けなくなるということから。
「羝羊(ていよう)藩(まがき)に触(ふ)る」と訓読します。
(32)轍鮒之急(てっぷのきゅう)
差し迫った危急や困難のたとえ。車の通った跡のくぼみにたまった水の中で、苦しみあえいでいる鮒(ふな)の意から。
「轍」は車が通った後に残った車輪の跡、わだちのこと。
(33)倒懸之急(とうけんのきゅう)
状態が非常に切迫していること。
「倒懸」は逆さまに吊るすという意味で、逆さ吊りになって苦しい状態にたとえたもの。
(34)燃眉之急(ねんびのきゅう)
非常に切迫した事態、さし迫った危険のたとえ。
「燃眉」は、眉を焼くほど火が近づいていること。
(35)背水之陣(はいすいのじん)
切羽詰まっていて、もう一歩も後にはひけないぎりぎりの状況。また、そうした状況に身を置いて、必死に物事に取り組むこと。
川を背にしたところに陣を敷き、退却できないようにして必死に戦う意から。「背水」は川を背にすること。
中国漢の韓信は趙との決戦にあたり、わざと川を背にした陣を敷いて退却できないようにし、自軍に決死の覚悟をさせて大勝利をおさめた故事から。
(36)釜底游魚/釜底遊魚(ふていのゆうぎょ)
死が目の前に近づいていることのたとえ。
火に掛けられ、煮られる寸前の釜の中を泳いでいる魚ということから。
(37)閉口頓首(へいこうとんしゅ)
困りきってどうしようもないさま。また、やり込められて返答のしようのないさま。
「閉口」は、口を閉ざして、物言わぬこと。ここでは、困りきる意。「頓首」は、頭を地面につけてお辞儀すること。ここではあやまる意。
(38)奔車朽索(ほんしゃきゅうさく)
非常に危険な状態のたとえ。
「奔車」はどうなるか考えずに、速度を出した車。「朽索」は腐ってぼろぼろになった縄。
どちらも危険な状態をいう言葉で、他人に注意を促すときにも使われる言葉。
(39)累卵之危(るいらんのき/るいらんのあやうき)
卵を積み重ねたような、不安定で危ない状態のこと。
「累」は、重ねる。
(40)懸崖勒馬(けんがいろくば)
危ういところではっと気づいて引き返すこと。特に、情欲に溺れて危うくなったとき、急に我に返ること。
「懸崖」は、切り立った崖、断崖のこと。「勒」は、馬のくつわのこと、また、手綱を引き絞ること。「勒馬」は、馬の手綱を引き絞ること。
断崖で馬の手綱を引き絞って危うく落ちるのを防ぐの意から。
「懸崖(けんがい)に馬(うま)を勒(おさ)う」と訓読します。
(41)虎口余生(ここうよせい)
極めて危険な状況から、奇跡的に助かること。
「虎口」は虎の口のことから、極めて危険な目に遭うことのたとえ。
「余生」は死にそうな状況から生き残ること。
(42)枯樹生華/枯樹生花(こじゅせいか)
非常な困難のさなかに活路を得るたとえ。また、老い衰えた人が生気を取り戻すたとえ。
枯れ木に花が咲く意から。もとはこの上ない真心が通じることをたとえたもの。
「枯樹(こじゅ)、華(はな)を生(しょう)ず」と訓読します。
(43)枯木逢春(こぼくほうしゅん)
辛く苦しい状況から抜け出ることのたとえ。
弱ったものや不遇な境遇にあるものが、勢いを取り戻すことのたとえ。
枯れているように見える木も、春になれば生き返るという意味から。
「枯木(こぼく)春(はる)に逢(あ)う」と訓読します。
(44)枯木竜吟(こぼくりょうぎん)
一度衰えたものが回復する。または、苦しい状況を抜け出して生を得ること。
または、ありえないことが実現することのたとえ。
禅宗の言葉で、枯れているように見える木が風に吹かれると、竜が声を発するような勢いで音が鳴るという意味から。
(45)十死一生(じっしいっしょう)
ほとんど死を避けられない危険な状況や状態の中で、かろうじて助かること。
(46)(ぶぼうのひと)