日本の「過大なノルマ」や「生産過剰」に是正の動きが見えるのは歓迎すべきこと

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かんぽ生命

前に日本の「過大なノルマ」や「生産過剰」の問題について、記事を書きましたが、最近それを是正するような動きが出ているのは歓迎すべきことだと思います。

1.過大なノルマの是正

(1)日本郵政は「かんぽ生命のノルマ廃止」

最近、「保険の整理・見直し」の相談窓口をよく見かけますが、この背景には、保険外務員に勧誘されてよく考えずにいろいろな保険に入ってしまっていたり、付き合いでやむを得ず入った保険がたくさんあって、保健の整理・見直の必要性を感じている人が多いことがあるのではないでしょうか?

2019年7月28日、「日本郵政グループはかんぽ生命の保険を委託販売する日本郵便の営業ノルマを廃止する方針を固めた」との朝日新聞の報道がありました。

かんぽの保険を扱う日本郵便の販売目標は1カ月の保険料換算で450億円。これが各郵便局や局員に割り振られる。東京支社の渉外局員の場合、年300万円。局員は目標に対する達成率を日々突きつけられ、成績が悪いと研修参加などを求められる。こうした過剰なノルマがプレッシャーとなり、不適切な販売を招いたとみられる。

このため、ノルマを廃止し、局員の自主的な営業にゆだねる。販売の落ち込みを避けられないが、今年度は顧客対応を優先。ゆうちょ銀行を含めた郵政グループ全体で収益維持をめざす。来年度以降、ノルマとは別にどのような方法で販売額を保てるかについて営業態勢の見直しを進める。

この他にも、大和証券や野村證券などの大手証券会社や三井住友銀行や三菱UFJ銀行のようなメガバンクが、「ノルマを廃止する(した)」という報道があります。従来、どこの会社でも大なり小なり、上記報道のようなノルマ配分が行われていたと思います。

この「過大なノルマの廃止」の動きは、一応歓迎すべきことだと私は思います。

ただ、顕在化していなくても、現実にはまだまだ「過大なノルマ主義による弊害」が存在していると思います。

<2019/9/14追記>「ゆうちょ銀行の投資信託不適切販売」のニュース

ゆうちょ銀行の高齢者に対する投資信託の不適切な契約が、約19600件に上ったとのニュースがありました。勧誘時と購入時の2回、健康状態や商品への理解度を確認する必要がありますが、これを怠っていたのが9割にも上ったそうです。この背景にも「過大なノルマ」があったようです。

ただし、「ノルマを廃止」すれば問題は全て解決するかというと、そう簡単ではありません。営業マンにとって自分の給与に直結する「営業成績」はやはり気になるところです。「自主的な営業」になったからと言って、不適切な営業が全てなくなるわけではありません。

企業経営者は他社との過酷な「過当競争」の渦中にあるので、ノルマを廃止したからといって、売り上げがいくら減少しても気にしないというわけには行かないでしょう。今後の営業体制や人事評価システム及び内部監査体制をどうするのかも含めて課題は多いと思います。

しかし、経営者としては、「長期的視点」に立って、自己の在職中に業績が一時悪化したとしても、会社を正しい方向に導いて頂きたいものです。「急功近利」を求めるのは禁物です。

我々としては今後も、「顧客第一主義」に反する営業活動が行われていないかを社会全体の立場で監視する必要がありそうです。

「顧客第一主義」という意味で、金融業界全体について、高齢者にリスクのある金融商品を販売する担当者全員に「金融ジェロントロジー」(金融老年学)の研修を義務付けるなどの対策が必要ではないかと思います。

(2)ソニーは「事業目標取り下げ」

2019年4月26日、「ソニーは2021年3月期までの中期経営計画で掲げた事業別の営業利益の目標数値を取り下げると発表した。長期の視点での経営を重視する中、『各事業の長期的トレンドや方向性を適切に示すことができない』(十時裕樹最高財務責任者)と判断したという」との日本経済新聞の報道がありました。

今回のソニーの決断は、音楽事業での大型買収やスマホ事業の戦略変換など、「目標値の公表から1年が経ち、各事業を取り巻く環境が大きく変化したため、目標値と実態の間で乖離が生じている」(十時裕樹最高財務責任者)と、その背景を説明しています。

もし、当初の目標値を変更せず、これに拘ったままだと、「かんぽ生命の不適切営業」と形は違っても「無理な営業活動」が行われた可能性もあるので、適切な経営判断だったのではないかと思います。

2.生産過剰の是正

(1)日産は「人員削減」「減産」と「販売奨励金(インセンティブ)縮小」

2019年7月26日、次のような日刊工業新聞の報道がありました。

 2018年度から22年度までの5年間で全従業員の10%に相当する1万2500人を削減することになった日産自動車。主に海外工場を対象に計14の生産ラインを縮小する。閉鎖も視野に入れる。同日発表した19年4―6月期連結決算の営業利益は、主力の米国販売の不振も響き前年同期比98・5%減の16億円に落ち込んだ。

人員削減などによる事業効率化と、米国事業の収益改善を同時並行で進める。今期を業績の底にし、22年度に成長軌道に戻す計画。

日産が取り組む生産ラインの効率化は、18―19年度では福岡県、栃木県の工場を含む八つが対象で計6400人を削減。さらに22年度までに6ラインを対象に追加し計6100人を削減する。

 これにより22年度のグローバル年産能力は18年度比約10%減の660万台を計画する。西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)は「非常に健全な水準になる」と話す。また商品展開では小型車、新興国向けブランド「ダットサン」を中心に22年度までに車種を10%削減する。

4―6月の米国販売は前年同期比3・7%減。インセンティブ(販売奨励金)抑制など販売の正常化に取り組んでおり、販売減は織り込み済みだった。4―6月は「落ち込みが想定を少し超えた」(西川社長)が、「19年度内に挽回できる」と強調する。足元の業績悪化を22年度の復活に向けた必要な“痛み”と捉え、米国を中心とした事業効率化と成長戦略を着実に進める考えだ。

長々と引用しました(赤字は筆者)が、カルロス・ゴーン被告の無理な拡大路線と超高額の役員報酬や横領によって会社を食い物にされた日産の経営正常化に向けた西川広人社長の不退転な決意が読み取れます。

北米販売の不振を挽回するためにカルロス・ゴーン被告は、販売奨励金(インセンティブ)を増やして売り上げを伸ばそうとしました。しかしその結果、「日産は安売り車」という評価が定着し、中古車市場でも低評価となってしまいました。

過大な販売目標を取りやめ、販売奨励金圧縮・人員削減・減産を行う経営判断は真っ当であり、今後の日産の復活に期待したいものです。

また、日産が利益を吸い取られるだけの無益で不平等な提携先となっているルノーとは、提携解消に向けて動き出すのではないかと私は予想しています。

ただ、「アフリカのアルジェリアやガーナで新工場を建設する」という気になる動きがあります。アフリカの需要増加を見込んで現地生産を増やすとの方針のようですが、それよりも「日本への工場回帰」を進めてほしいものだと私は思います。経営判断に第三者があれこれ批評することは僭越で不適切ですが・・・

(2)その他の自動車各社の「人員削減」「減産」

自動車の世界最大の市場は中国で、2019年の新車販売台数は2810万台と前年比横ばいか若干マイナスの見込みです(アメリカの2018年の新車販売台数は1727万台)が、2019年6月は前年同月比9.6%減と減速傾向にあります。このままで行くと通年でマイナスになることは確実です。

日産以外の日本の自動車各社(トヨタ・ホンダ・マツダ・スズキ・三菱自動車・いすゞ自動車・日野自動車)も、「人員削減」「減産」を進めています。

このような自動車各社の動きは自然な流れで、人員削減という痛みも伴いますが、適正生産量まで落とす方針は真っ当だと思います。


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