最近、「中国政府が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族『ウイグル族』を弾圧している」との批判が国際的に広まり、習近平政権が対応に苦慮しているようです。同自治区の安定維持を最優先する立場から、締め付けを弱めることはできず、疑惑を全否定する立場を示していますが、日米欧の批判は収まらず強まる一方となっています。
これは、「チベット族への弾圧」や「香港の民主化運動に対する弾圧的対応」にも似ていますね。
今回は、少数民族といわれる「ウイグル族」に対する中国政府の弾圧の理由を歴史的背景も踏まえながら考えてみたいと思います。
1.ウイグル族への弾圧
2019/10/29の国際連合総会第三委員会で、日本を含む米英など23カ国が「中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族を大規模拘束している問題」について、「信教の自由を含む人権を尊重するため、国内法や国際義務を守るよう中国政府に求める」として中国に対して懸念を示し、恣意的な拘束をやめるよう共同声明を出しました。
また、2019/12/3にはアメリカ下院が、「ウイグル人権法案」(中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族などイスラム教徒を弾圧しているとして、トランプ政権に強硬な対応を求める法案)を407対1の圧倒的多数の賛成で可決しました。同法案が上院でも可決されれば、トランプ大統領の署名を経て成立します。今のところホワイトハウスは、大統領が署名するか拒否権を発動するかは明らかにしていません。
アメリカのクラフト国連大使は、「100万人以上が収容施設に拘束されている」と非難しました。チベット族への弾圧と同様のことが、ウイグル族に対しても行われているようです。
この弾圧は、ウイグル族を「中国共産党の一党独裁体制を脅かす危険分子」とみなしていることが原因のようですが、裏を返せば「中国共産党一党独裁体制の危機感の表れ」とも言えると思います。
2.ウイグル族とは
「ウイグル族」とは、4世紀から13世紀にかけて中央ユーラシアで活動したテュルク系遊牧民族とその末裔たちです。現在は、中国の新疆ウイグル自治区(1100~1500万人)のほか、カザフスタン(23万人)・ウズベキスタン(5.5万人)・キルギス(5万人)など中央アジア、トルコ(4~5万人)、サウジアラビア(5万人)などにも居住しています。ウイグル語を話すムスリム(イスラム教徒)です。
文化的にも言語的にも、漢民族との共通点はほとんどありません。「コーカソイド」(南ヨーロッパ人やトルコ人)と「モンゴロイド」の中間のような外見(いわゆる「中央アジア系」の外見)を持つ民族です。
ウイグル人の歴史家たちは、現在の新疆ウイグル自治区のある地域に9000年も前から暮らしていると主張していますが、真偽のほどはわかりません。
中国政府は、「現在『ウイグル人』と呼ばれている人々は、9世紀に崩壊した遊牧国家ウイグル帝国(744年~840年)から新疆に逃れてきたテュルク系遊牧民の子孫である」との見解を一貫して示しています。
3.「ウイグル族」と「中国(漢民族など)」との攻防の歴史
国土をめぐる複雑な歴史問題から、一部のウイグル人が中心となって、中国政府からの分離独立を求める活動をしています。一方、中国政府はこれらの活動を「テロ行為」とみなして、人権を無視した弾圧行為を続けているというわけです。
チベットと同様に、ウイグル族の住む新疆一帯も18世紀後半に中国・清朝(満州族)の支配下に置かれます。しかし、その後数世紀の間は「緩い支配体制」で、ウイグル族はイスラムを核とした自らの文化や宗教を行う自由が認められていました。
しかし、中国共産党の一党独裁体制の「中華人民共和国」になった後の1955年に、この地区が「新疆ウイグル自治区」とされてからは、ウイグル族を取り巻く環境が徐々に変化していきます。
1966年には「文化大革命」の波及によって、ウイグル人にとって大切なモスクの一部が破壊されています。
2001年以降は、世界的な反テロ的な潮流(特にイスラム教徒に対して)が強まったことも影響して、人口の大半がムスリム(イスラム教徒)であるウイグル族への弾圧が強まりました。
中国政府はウイグル文化の抑圧と、産出される豊富な石油への権利拡大のため、近年では漢民族の大量移民を認めて、非ウイグル人の人口割合と影響力を高め、ウイグル人の力を弱めようとしていると言われています。