11月下旬、吉本興業所属のお笑いタレント小藪千豊(こやぶかずとよ)さんの「人生会議」啓発ポスターが、がん患者団体などから「不安をあおる」「患者や遺族を傷つける内容で、当事者への配慮を欠いている」などの抗議があり、厚生労働省は自治体へのポスターの発送中止を決めました。
今回はこれについて考えてみたいと思います。
1.「人生会議」とは
「人生会議」とは、厚生労働省が2018年11月に策定した「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」の愛称です。
アドバンス・ケア・プランニングとは、「あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、またあなたの信頼する人たちと話し合うこと」です。
厚生労働省の啓発文(一部抜粋)には次のように書かれています。
誰でも、いつでも、命にかかわる大きな病気や怪我をする可能性があります。命の危険が迫った状態になると、約70%の方が、これからの医療やケアなどについて、自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなると言われています。
もしもあなたがそのような状況になった時、家族などあなたの信頼できる人が、「あなたなら、たぶんこう考えるだろう」とあなたの気持ちを想像しながら、医療・ケアチームと医療やケアについて話し合うことになります。
その場合にも、あなたの信頼できる人が、あなたの価値観や気持ちをよく知っていることが重要な助けとなります。
全ての人が、人生会議をしなくてはならないというわけでは、決してありません。
あくまで、個人の主体的な行いによって考え、進めるものです。知りたくない、考えたくない方への十分な配慮が必要です。一方で、人生会議を重ねることで、あなたが自分の気持ちを話せなくなった「もしものとき」には、あなたの心の声を伝えることができるかけがえのないものになり、そして また、あなたの大切な人の心のご負担を軽くするでしょう。
2.あの「人生会議啓発ポスター」はなぜダメなのか
あのポスターは、「小藪千豊さんの変顔」と「文章」がまずくて猛抗議を受けたのかもしれませんが、啓発の趣旨は至極まっとうなものです。
お笑い芸人を使うのは不謹慎だとか、吉本興業への委託費が高すぎるという意見もあるようですが、「掲示場所」は病院などを避けて、市役所などの公共の場所に掲示すれば、結構インパクトがあって、「人生会議」の啓発・推進に役立ったのではないかと思います。
3.「人生会議」の必要性
前に「デジタル遺産」や「認知症の高齢者の預金引き出し問題」の記事を書きましたが、「終末医療」や「最後の看取り」についても、本人が生前元気なうちに家族で話し合って準備しておく必要性は今後ますます高まっていくと思います。
朝は元気に出て行ったのに突然交通事故にあったり、脳梗塞や心臓発作で倒れることも十分あるわけです。「そんな話は縁起でもない」とタブー視して避けて通るのではなく、広い意味での「終活」の一環として、広く国民が向き合うべき課題だと思います。
4.「少数意に振り回されない」ことも重要
厚生労働省には、国民のために正しいことをやっているという信念があるのなら、少数意に振り回されない毅然とした姿勢を堅持し、抗議に対しては丁寧な説明をするのが筋だと思います。
「不寛容社会」となった現在の日本の風潮の中で、例のポスターについてもネット上で賛否両論があるようですが、一部の患者団体から猛烈な抗議があったからといって、「はいそうですか、申し訳ありませんでした。取り下げます」と簡単に取り下げるのでは、かえって大多数の一般国民の信頼を失うことになるのではないでしょうか?
「年金2000万円不足問題」と似たような構図に見えます。
批判を恐れずに、今後とも「人生会議」の啓発を推進していってほしいと思います。