第二の三億円事件を解決した指紋の神様・塚本宇兵と捜査一課の赤鬼・緒方保範

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指紋の神様

先日何気なくテレビを見ていると、ビートたけしがナビゲーターを務める「奇跡体験!アンビリバボー」という番組(2018年9月13日分の再放送)で、「第二の三億円事件」を解決した「指紋の神様」塚本宇兵と捜査一課緒方保範の話が紹介されていました。

私は迷宮入りした有名な「三億円事件」というのは、1968年の事件発生当時からニュースなどでよく知っていましたが、「第二の三億円事件」というのはあまり記憶にありませんでした。

それと私の興味を引いたのは、大局観を持った「指紋の神様」と、鑑識課を軽視せずむしろ敬意を払って捜査の指揮を執る捜査一課の緒方保範の姿でした。

世間ではとかく、「主導権争いをする人」や「不祥事や失敗の責任を部下や他人に押し付けて、手柄だけは自分のものにしようとする人」、「プロ意識の欠如した人」「大局観を持たない人」が多い中で、この二人の警察官の「捜査におけるプロ意識」と「協調精神」は抜群だったようです。

1.「第二の三億円事件」とは

「第二の三億円事件」とは、1986年11月25日に三菱銀行(現三菱UFJ銀行)有楽町支店で発生した三億円現金強奪事件(「有楽町三億円事件」)のことです。現金輸送車が3人組の男に襲われ、現金約3億3000万円と有価証券が奪われました。

「指紋の神様」塚本宇兵と捜査一課の緒方保範らの努力によって、外国人による犯行とわかりました。

1987年10月にフランス警察から送られてきた指紋リストと東京で採取した犯人の指紋を照合した結果、フランスの強盗団グループ(フランス人3人とアルジェリア人1人)の犯行と判明し、警視庁はICPOを通じて国際指名手配しました。

なお、このグループは同事件の数年前にも海外の美術館から盗んだ絵画を密売するために入国していました。主犯格以外の3人はフランスで逮捕され、主犯格は潜伏先のメキシコで逮捕されました。

警視庁にとって、「第二の三億円事件」(有楽町三億円事件)が解決したことは、「府中市三億円事件のリベンジ」と言われました。

2.「指紋の神様」塚本宇兵とは

塚本宇兵氏(1936年~ )は、茨城県出身で警視庁巡査を経て、最後は警視庁鑑識研究所長を務めて退官しています。1967年から30年以上鑑識課の「指紋一筋のスペシャリスト」で「指紋の神様」と呼ばれていました。

彼は「府中市三億円事件」の時も「鑑識課員」として捜査に携わっていました。彼は確実に犯人のものと思われる白バイに付着した「顕在指紋」を入手し、この指紋に絞り込んで調べるよう捜査一課に掛け合いましたが却下され、照合完了までに時効が来てしまうような膨大な指紋照合作業を余儀なくされました。実際、時効完成時点で指紋照合作業は半分も終わっていなかったようです。

「第二の三億円事件」でも「指紋」担当となりましたが、この時の捜査一課で指揮を執ることになったのは、彼が新米巡査の時に指導を受けた旧知の緒方保範氏でした。

彼は犯人が捨てて行った「千円札」の新券の指紋から、その新券に触れた可能性のある銀行員と造幣局職員の指紋を除外して、犯人のものと思われる6つの指紋を見つけます。

その指紋を、「AFIS」という「指紋自動識別システム」を使って、日本で犯罪歴がある人物全員の指紋と照合しましたが一致しませんでした。ちなみに「府中市三億円事件」の時は、この「AFIS」がまだなかったため、膨大な手作業でした。

そこで彼は、犯行が「初犯」とは思えない手慣れたものであることから「外国人による犯行」と推理し、海外の犯罪歴のある人物の指紋を集めることにします。

しかし、やみくもに外国の犯罪者の指紋を照合することは「府中市三億円事件」の時と同様に徒労に終わる恐れが大きい膨大な作業です。どうしても対象を絞り込む必要があります。

ここで、捜査一課の緒方保範とのタッグが生きてきます。

3.捜査一課の緒方保範とは

緒方保範

緒方保範氏(1933年~2020年)は、熊本県出身で警視庁の「赤鬼」と呼ばれた凄腕刑事です。確固たる信念んと体を張った捜査で数々の難事件を解決へと導きました。

1965年(昭和40年)7月に東京・渋谷で起きた18歳少年によるライフル乱射事件では、縦断の雨の中をかいくぐり少年に体当たりしようとしました。当時原宿署勤務だった彼は、左肩に被弾し血まみれになりながらも執念を持って少年を追いました。

彼は「第二の三億円事件」の犯人が残した遺留品を、「今回の事件のために手に入れた犯行用のもの」と「以前から使っていた生活用のもの」とに分けました。

生活に使っていたものの方が犯人に近づけると考えたのです。彼は逃走車両に残された「毛布」に注目しました。

毛布のタグの形態から「レンタル会社」を割り出せると推理し、六本木・赤坂地区のレンタル会社を捜査し、「外国人専門に貸し出している会社」に当たった結果、同じタイプのタグが付いた毛布が見つかったのです。毛布の貸出先は49件ありました。しかし、49件の貸出先は全て「シロ」と判明しました。

毛布の捜査の一方で、彼が指揮する捜査一課は大使館や外国人専門の不動産屋の聞き込みを開始していました。その結果、東京麻布のウィークリーマンションを4人の外国人が借りていたという情報を入手し、不動産会社に確認したところ、「100万円出すから部屋を貸してくれという外人が来た。外人は日本語が話せなかった」ということがわかりました。

彼はこの情報から、「不動産会社から近い所にある銀行で両替した」と推測し、その際に求められる「パスポートの提示」から犯人を割り出すことが出来ないか調べました。

その結果、犯人と思われるフランス人にたどり着き、そのパスポートの写しをフランスの捜査当局に送って協力を依頼したところ、パスポートの写真と一致する犯罪歴のあるフランス人の指紋が送られてきたのです。

そのフランス人の指紋を、鑑識の塚本宇兵が6つの指紋と照合したところ、見事に一致して犯人逮捕に結びついたのです。