面白い名前だと私が子供の頃から思っている体の部位がいくつかあります。今回はそんなちょっと面白い名前の体の部位についてご紹介したいと思います。
1.盆の窪(ぼんのくぼ)
「盆の窪」とは、上の画像にあるように「うなじ(首の後ろの部分)の中央のくぼんだ所」のことです。「頸窩(けいか)」とも言います。
英語では「hollow at nape of the neck」(うなじのくぼみ)または「hollow of the neck」(首のくぼみ)と言います。
なお、「盆の窪」の両側にある「ツボ」のことは「天柱(てんちゅう)」(上の画像の赤丸の部分)と呼ばれでいます。
「盆の窪」の語源については諸説あります。
①「盆」は当て字で、本来は「坊(ぼん)の窪み」、つまり「坊主頭」からとする説
江戸時代、小児の頭髪を首の後ろだけ少し残して剃った髪型も「盆の窪」と呼ばれていたそうです。
②「盆」が頭部を表し、「頭の窪み」の意味とする説
③「盆」は当て字で、本来は「骨の窪み(骨窪)」が訛ったとする説
2.襟足(えりあし)
「襟足」とは、「耳からうなじ(首の後ろ)にかけて左右の髪の生え際が下へ延びているところ」「首筋の髪の毛の生え際の部分」のことです。
「襟足」という名前は、髪を結い上げた時に左右に伸びた髪が足のように見えることから名付けられました。
英語では「hairline along the neck」(首に沿った髪の生え際)または「nape」(うなじ)です。欧米人には、「襟足」に対する日本人のような繊細な美意識はないようですね。
3.顳顬(こめかみ)
「顳顬」とは、「頭の両側の目尻の後ろ、目と耳の付け根のほぼ中間にある、皮膚のすぐ下に骨(側頭骨)のある場所」のことです。上の画像を見ていただければ一目瞭然ですね。
「蟀谷」とも書きます。
「顳顬」から下あごまでを結ぶ側頭筋という筋肉があって、あごの動きに連動してこの「顳顬」が動きます。
この言葉は、食物を噛むとこの部分が動くことから、「米噛み(こめかみ)」と呼ばれるようになったものです。その理由は日本人の主食が米であったことや、昔は固い生米を食べていたためよく噛む必要があったことなどです。
私は大人になってから、風邪をひいたり頭痛がすると「顳顬」の部分が痛くなるのですぐわかるようになりました。
英語で「temple」と言いますが、「寺院」とは関係がありません。語源の「時」を意味するラテン語tempusから古フランス語templesとなり中世英語templisとなったためです。
「顳顬」は脈を打ち、時間を刻んでいるいわば「頭の時計」と考えられたわけです。ちなみにtempusに由来する英単語にはtemporary(一時的な)やtempo(拍子)があります。
余談ですが、「顳顬」の部分は骨の厚さが薄く、打撃に対して弱くなっています。ボクシングやその他の格闘技では「テンプル」と呼ばれ、あご先と並んで「急所」として捉えられています。「顳顬」に打撃を受けると脳震盪を起こしやすいそうです。
4.二の腕(にのうで)
「二の腕」とは、「肩から肘までの部分」のことです。「上膊(じょうはく)」とも言います。「力こぶ(上腕二頭筋)」のできるところですね。英語では「upper arm(上腕)」と言います。
「二の腕」の「二」は二番目の意味で、古くは「一の腕」と呼ばれる部分がありました。
1603年刊行の「日葡辞書」には、「二の腕」が「肘と手首との間の腕」で、「一の腕」が「肩から肘までの腕」とされています。
そのことから、「一の腕」だったものが誤用で「二の腕」になったと考えられています。
ただ「腕」は元々「肘から手首まで」を指す言葉なので、その場所を「二の腕」と呼ぶとは考えにくく、また普通は先端から順に数えるので、肩から順に数えるのは不自然でもあります。
そのため、指す場所が逆転したのではなく、「日葡辞書」が誤っているとも考えられます。
「日葡辞書」が誤りとすれば、「一の腕」が「肘と手首との間の腕」で、「二の腕」が「肩から肘までの腕」ということになります。
5.鳩尾(みぞおち)
「鳩尾」とは、「胸と腹の間のくぼんだ所」のことです。「水月(すいげつ)」「心窩(しんか)」とも言います。英語では「solar plexus(太陽神経叢)」と言います。
東洋医学の経絡論(けいらくろん)において、「鳩尾」は体の正中線上を走る任脈の「鳩尾(きゅうび)」という経穴(ツボ)となっています。
「鳩尾」を殴るなどして衝撃を与えると、強い痛みを感じます。これは「鳩尾」の奥の腹腔神経叢には多数の交感神経が走っており、痛覚が鋭敏なためです。
さらに衝撃で横隔膜の動きが瞬間的に止まることがあり、この場合呼吸困難に陥ります。そのため「鳩尾」は人体の急所の一つとなっており、ボクシングや空手、ムエタイなどの格闘技や 武道では、「鳩尾」を狙う攻撃(ストマックブロー)が重要な技術となっています。
なお「みぞおち」の語源は「みずおち(水落ち)」から変化したもので、もともとは飲んだ水が落ちる場所という意味です。「溝落ち」ではありません。
また漢字で「鳩尾」と書くのは、この部分が鳩の尾の形に似ているからです。