前にギリシャ神話で特に有名な神々である「オリュンポス12神」(オリンポス12神)をご紹介しましたが、他にもたくさんの男神・女神たちがいます。
そこで今回はギリシャ神話に登場する男神を50音順にご紹介します。
1.ティーターン(ティーターン神族)
(1)ティーターン(ティーターン神族)とは
「ティーターン(ティーターン神族)」とは、ギリシャ神話・ローマ神話に登場する神々です。
ウーラノス(天)の王権を簒奪したクロノスをはじめとする「オリュンポスの神々に先行する古の神々」です。巨大な体を持つとされます。
狭義では、「ティーターン12神」(*)(ウーラノスとガイアの間に生まれた12柱の神々の兄弟姉妹)を指しますが、広義ではこれにディオーネーやポルキュースを加える場合もあります。
(*)ティーターン12神(50音順)
イーアペトス・オーケアノス・クレイオス・クロノス・コイオス・テイアー・テーテュース・テミス・ヒュペリーオーン・ポイベー・ムネーモシュネー・レアー
ゼウスが父クロノスに戦いを挑んだ時、ティーターンたちの多くもクロノス側につき、10年にわたる大戦争となりました。この戦争を「ティタノマキア」と言います。
なお、ティーターンは、バルカン半島の地において、インド・ヨーロッパ語族共通の天空神由来のゼウス信仰が確立する以前の古い時代の自然神です。地底に封じ込められており、彼らが時々暴れると地震が起きると信じられていました。
(2)ティーターンに由来する命名の具体例
マツダのトラックにも「タイタン」という名前が付けられていますが、ほかにも有名なものがたくさんあります。
「タイタニック(titanic)」という形容詞には「巨大な」という意味があり、悲劇の豪華客船「タイタニック号」や恐鳥類の「タイタニス」、恐竜「ティタノサウルス」などの名前は「ティーターン(タイタン)」(Titan)由来します。
元素の「チタン(titanium)」も、非常に優れた強靭さと耐久性により命名されました。「土星(Saturn)」の衛星の多くにも、ティーターンに由来する名が付けられています。
ちなみに土星の英語名「サターン」は、「クロノス」(ローマ神話では「サートゥルヌス」)の名に由来します。
1997年のディズニー映画「ヘラクレス」および「バーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズの敵役は「タイタンズ」でした。
ビデオゲームの「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズや、1981年の映画「タイタンの戦い」、2010年の映画「タイタンの戦い」、2012年の映画「タイタンの逆襲」でも主役または敵役で登場しています。
2.ア行の神々
①アイオーン(イオン):時間の神。永遠と干支
ラテン語で aeonまたはæon、英語で aeon又はeonです。
アイオーンは古代ギリシャ語で、「ある期間の時間」を意味し、「時代」や「世紀」、「人の生涯」などの意味で、占星術における魚座の時代、水瓶座の時代などの「時代」と通じるところがあります。
大手流通グループのイオン(株)の社名の由来となっています。
「お客さまへの貢献を永遠の使命とし、その使命を果たすなかで、永遠に発展と繁栄を続けていくとの願い」が込められているそうです。
②アイテール(アイテル):原初の天空神。高天の澄明な気
父はエレボス、母はニュクスで、天空の上方にあるとされた澄み渡った輝く大気の神格化です。
上の画像は、ベルリン・ペルガモン博物館にあるペルガモン大祭壇の「獅子面の巨人と戦うアイテール」です。
③アスクレーピオス(アスクレピオス、アスクラピウス):アポローンの息子。医神
優れた医術の技で死者すら蘇らせ、後に神の座についたとされることから、医神として現在も医学の象徴的存在となっています。
アポローンとコローニスの子です。
上の画像は、蛇の巻きついた杖を持つアスクレーピオスの座像です。
この「アスクレーピオスの杖」(蛇杖)は、彼の「アトリビュート」で、「医の象徴」として世界的に用いられています。
WHO(世界保健機関)のマーク(下の画像)にある杖は、この杖が由来です。
④アストライオス:「星の男」の意。星空の神。風の神々の父
ティーターンのクレイオスとポントスの娘エウリュビアーの子で、パラース・ペルセースと兄弟です。
アストライオスはエーオースとの間に、西風の神ゼピュロス・北風の神ボレアース・南風の神ノトス、さらに明けの明星を司る神エーオースポロスと星々をもうけました。
⑤アトラース(アトラス):ティーターンの神々の一柱。両腕と頭で天を支えているとされる
ティーターン神族の一柱イーアペトスとオーケアノスの娘クリュメネーの息子で、プロメーテウス・エピメーテウス・メノイティオスの兄です。
名前は「支える者」「耐える者」「歯向かう者」を意味する古印欧語に由来します。
「地図帳」をアトラスと呼ぶのは、1636年にメルカトルが地図帳の表紙としてこのアトラースを描いたことに由来します。
アトラスの名は、1950年代末から60年代初頭にアメリカが開発した「大陸間弾道弾」に用いられましたが、1960年代には「宇宙開発」に転用され、「人工衛星」やマーキュリー計画の「有人衛星打ち上げロケット」に使用されています。
⑥アネモイ:風の神々
アネモイは、ギリシャ神話の風の神々たちです。東西南北の各方角を司っており、各々がさまざまな季節・天候に関連付けられています。
主要なアネモイは4柱います。ボレアースは冷たい冬の空気を運ぶ北風で、ノトスは晩夏と秋の嵐を運ぶ南風であり、ゼピュロスは春と初夏のそよ風を運ぶ西風です。東風のエウロスはいかなる季節とも関連付けられていません。
このほか、北東風のカイキアス、南東風のアペリオテス、北西風のスキーローン、南西風のリプスという下位の4柱がいます。
⑦アリスタイオス:養蜂・チーズの製法等を発明したとされる
アポローンとキューレーネーの息子です。アリスタイオスはカドモスの娘アウトノエーと結婚し、アクタイオーンとマクリスという二人の子をもうけました。
ミツバチの巣箱を作って養蜂の技術を発明し、チーズの製法やオリーブの栽培、圧搾の技術も伝えたとされています。
⑧アンテロース(アンテロス):返愛の神。エロースの弟とされる
名称は「愛に対するもの」を意味し、相互愛や同士愛の象徴とされました。また恋の復讐者とすることもあります。
アレースとアプロディーテーの息子で、エロースの弟とされています。
エロースの矢によって射られると、その人は誰かに対する激しい片思いをかき立てらます。アンテロースは、片思いの対象となった人に対して矢を放ち、双方の気持ちを通じさせるということです。
またエロースが目隠しをして矢を乱射する「盲目のクピド」のモチーフでは、エロースの矢が当たって困る立場の人にまで当たります。その場合に、アンテロースが矢を射ることで、盲目的な愛を理性的な愛に変化させるとされており、アンテロースは愛を退ける神とも解釈されています。
⑨イーアペトス(イアペトス):アトラース・メノイティオス・プロメーテーウス・エピメーテウス兄弟の父
ウーラノスとガイアの息子でティーターン神族の一柱です。
イーアペトスは、オーケアノスの娘であるクリュメネーとの間にアトラース・メノイティオス・プロメーテーウス・エピメーテウスをもうけました。
「ティーターノマキアー」(*)の際には、他の兄弟たちとともにゼウス側に対して激しく戦いましたが敗れ、タルタロスの領域を落とされました。また彼の息子たちも皆ゼウスと敵対しています。
(*)「ティーターノマキアー」とは、ギリシャ神話に出てくる「ゼウス率いるオリュンポスの神々」と「クロノス率いる巨神族ティーターン」との戦いです。
全宇宙を崩壊させたこの大戦は、不死の神々同士の戦いということもあって決め手を欠き、終結まで10年もの歳月を要したと言われています。
ガイアはゼウスたちに、ウーラノスがタルタロスの領域に幽閉した三人のヘカトンケイル(百手巨人)たちと、三人のキュクロープスを味方に付ければ勝てると助言しました。
ゼウスたちは、幽閉された二巨人族を見張っていたカムペーを退治して彼らを解放し、ネクタールとアムブロシアーを与えて味方に付けました。
キュクロープスたちは助けてくれたお礼にと、ゼウスたちに武器を作って献上しました。彼らは、ゼウスには万物を破壊し燃やし尽くす雷霆、ポセイドーンには大海と大陸を支配する三叉の矛、ハーデースには姿を見えなくすることができる隠れ帽を与えました。
両軍は再び激突し、心強い味方と究極の武器を手に入れたオリュンポス勢が常に優位に立ちました。
ポセイドーンの三叉の矛の力で全地球は凄まじく揺れ動き、姿を消したハーデースがティーターンたちの武器を奪いました。ヘカトンケイルたちは、一度に300の巨大な岩石を休みなく投げ続けてティーターンたちを打ち負かしました。
ゼウスは雷霆を容赦なく投げつけ、その圧倒的な威力によって天界は崩れ落ち、見渡す限りの天地は逆転しました。全空間に漲る雷光はティーターン神族の目を焼き、瞬く間に視力を奪いました。雷霆から迸る聖なる炎は地球をことごとく破壊し、全宇宙とその根源をなすカオスすらゼウスの雷火によって焼き尽くされました。
ティーターンたちはオリュンポス勢の想像を絶する猛攻に耐え切れず、ついに10年も続いた神々の大戦に終止符が打たれました。
こうしてオリュンポスの神々は華々しい勝利を飾りました。その後、不死身であったティーターン族はタルタロスの深淵へと封印され、オリュンポスの支配が始まったのです。
⑩ウーラノス(ウラノス、カイルス):「天」の意。原初の神々の王。ガイアの息子にして夫
ウーラノスは「天空神」で、全宇宙を最初に統べた原初の神々の王とされています。果てしなく巨大な体躯を持ち、無数の銀河系が散りばめられた宇宙を身に纏っていたと言われています。
ウーラノスはギリシャ語で「天」の意で、天そのものの神格化です。
ガイアの息子であると同時に夫でもあり、ガイアとの間にクロノスらティーターン12神をもうけました。
⑪ウーレアー:山の神々。ガイアの子で十柱いるとされる
ウーレアーは、最も単純に「山を神格化した存在」で、男神でも女神でもありません。
エトナ・アトス・ヘリコン・ニソス・オリュンポス(1,2)、オレイオス、パルネス、トモーロスのことで、ウーラノスヤポントスと同様、ガイアの単為生殖によってできたとされています。
⑫エピメーテウス(エピメテウス):ティーターン神族の一柱。プロメーテーウスの弟で、パンドーラーの夫
エピメーテウスは、ギリシャ語で「ἐπί(上に、さらに)+ μάθη(学び)」で、「加えて考える者」の意です。兄のプロメーテーウスの名が、「先の学び」「先見の明を持つ、行動する前に熟慮する」を意味するのに対し、「後知恵」のニュアンスを持っています。
イーアペトスとクリュメネーの息子です。
エピメーテウスの兄弟は、皆ゼウスに反逆して敗れ、過酷な責め苦を受けたティーターンの戦士たちですが、エピメーテウスは愚鈍であったとされ、特にゼウスと敵対したという説話は伝えられていません。
愚鈍な理由としては、「自身の能力を他の兄弟に奪われた」などがあります。しかし兄のプロメーテウスの巻き添えになる形で、結局ゼウスに煮え湯を飲まされることになります。
プロメーテウスがゼウスから火を盗んで人類に与えた後、ゼウスは人類が神々より強くなるのを恐れ、人類に災厄をもたらそうと謀りました。そのため、ヘーパイストスに美女パンドラーを作らせ、エピメーテウスに贈り物として与えました。
プロメーテウスはエピメーテウスに警告しましたが、エピメーテウスは聞き入れず、パンドラーを妻としました。後にパンドラーはゼウスから与えられた壺(「箱」とする説もあります)を開け、その中にあった厄災を解き放ったということです。これがいわゆる「パンドラーの箱」です。ただしエピメーテウスとパンドラーの夫婦は厄災を免れ、その後起きた大洪水をも生き延びています。
⑬エレボス:原初の神。「幽冥」の神格化
エレボスの名前は「地下世界」の意です。また、地下の暗黒の神でもあるため、しばしばタルタロスと混同されます。
ニュクスの兄であると同時に夫でもあり、彼女との間にヘーメラー・アイテール・カローンをもうけました。
母ニュクスと娘ヘーラーが、夜と昼の対であるということで表裏一体であるように、父エレボスと息子アイテールも地下の暗黒と上天の光明という点で表裏一体をなしています。
⑭エロース(エロス):恋心・性愛の神。原初の神、あるいはアプロディーテーの息子とされる
エロースは、ギリシャ語で性的な愛や情熱を意味する動詞「「ἔραμαι」が普通名詞形に変化、神格化された概念です。
ローマ神話では、エロースにはラテン語で受苦の愛に近い意味を持つアモール(Amor)またはクピードー(Cupido)を対応させています。
クピードーは後に幼児化して、英語読みでキューピッドと呼ばれる小天使のようなものに変化しましたが、もともとは髭の生えた男性の姿でイメージされていました。
古代ギリシャのエロースも同様で、古代には力強い有翼の男性あるいは若々しい青年でしたが、やがて少年の姿でイメージされるようになりました。
エロースの象徴である「アトリビュート」は、弓矢および松明(たいまつ)です。
⑮オーケアノス(オケアノス):ティーターン神族の一柱。海洋・外洋の神
オーケアノスは、海神で、特に外洋の海流を神格化したものです。ラテン語では「オケアヌス(Oceanus)」です。
女神テテュスとの間に、3000の河川、3000の娘(ギリシャ神話の水のニンフたち、オケアニデス)をもうけたとされています。
⑯オネイロス(複数形はオネイロイ):「夢」の神格化
オネイロスは、ギリシャ語で「夢」を表す語であり、その神格化です。ヘーシオドスの「神統記」によれば、ニュクス(夜)の息子であり、ヒュプノス(眠り)とタナトス(死)の兄弟です。
⑰オピーオーン(オピオン、オピオネウス):オリュンポスの原初の支配者とされる
オピーオーンは、オーケアノスの娘エウリュノメーを妻とし、オリュンポスの原初の支配者と言われています。
名に「オピス(蛇)」の語を含むため、蛇の神と考えられています。