前にギリシャ神話の「オリュンポス12神」(オリンポス12神)をご紹介しましたが、他にもたくさんの男神・女神たちがいます。
そこで今回はギリシャ神話に登場する男神を50音順にご紹介する3回目です。
1.ナ行の神々
①ネーレウス(ネレウス):海の神
ネーレウス(Nēreus)は海神ですが、特に穏やかな内海を神格化しています。なお、ギリシャ神話に登場する「英雄ネーレウス(Nēleus)」とは別で、綴りも違います。
ポントス(海)とガイア(大地)の息子で、タウマース・ポルキュース・ケートー・エウリュビアーと兄弟です。
ドーリス(オーケアノスの娘)との間に、ネーレーイデス(ネーレーイス立)と呼ばれる一群の海の女神たちをもうけました。
2.ハ行の神々
①ハルポクラテース(ハルポクラテス):沈黙の神。エジプト神話のホルスをギリシャ化したもの
古代エジプトのホルスは生まれたての太陽、すなわち毎日昇ってくる朝日を表していました。アレクサンドロス3世によってエジプトが征服された後のヘレニズム期に、エジプト語の「Har-pa-khered または Heru-pa-khered (子供のホルスの意)」をギリシャ語化してハルポクラテースと呼ぶようになりました。
②パーン(パン、アイギパーン):半獣の牧神
パーンは羊飼いと羊の群れを監視する神で、サテユロスと同じく四足獣のような臀部と脚部、山羊のような角を持っています。
誰が親化は諸説がありますが、父親はゼウスともヘルメースとも言われ、母親はニュムペーであると言われています。
③パンタソス:夢の神
眠りの神ヒュプノスと、くつろぎ・瞑想・幻覚の女神パーシテアー(または、夜の神ニュクスか闇の神エレボス)の3人の子供たち(夢の支配者オネイロス)の1柱です。
兄弟には、人間にイメージを提供するのに優れたモルペウス、動物たちに夢を提供するポベートールがいます。
パンタソスは非生物に大地、岩、水、木のイメージ、預言的な夢を提供する非現実的な夢の神です。
④ヒュペリーオーン(ヒュペリオン、ハイペリオン):ティーターン神族の一柱。太陽神・光明神とされる
ヒュペリーオーンという名は、「高みを行く者」という意味です。
ヘーシオドスの「神統記」によると、ウーラノスとガイアの息子です。またテイアーの夫で、へーリオス・セレーネー・エーオースの父でもあります。
シケリアのディオドロスによると、ヒュペリーオーンは初めて天体の運行と季節の変化の関係を人々に教えたとされています。
⑤ヒュメナイオス(ヒュメーン):結婚の祝祭の神
ヒュメナイオスは、全ての結婚式に現れ、もし現れなければその結婚の悲劇性が証明されるだろうと考えられていました。
そのため、ギリシャの人々はヒュメナイオスの名を声を出して呼び回ったそうです。ギリシャ神話で彼は、全ての神とその子供たちのため、多数の結婚式の司会を務めたことになっています。
⑥プリアーポス(プリアポス):羊飼い・庭園・果樹園の守護神
プリアーポスは、羊飼い・庭園・果樹園の守護神で、生殖と豊穣を司ります。男性の生殖力の神です。
ディオニュソスとアプロディーテー(またはニュンペー)の間に生まれたとされていますが、ほかにもゼウス(またはアドーニス)とアプロディーテー、ヘルメースとアプロディーテーの間に生まれたという説もあります。
⑦プルートス:富・収穫の神
農耕の女神デーメーテールとイーアシオーンの息子で、盲目でした。「豊穣の角」を持ち、絵画などでは有翼の幼児として表されることもあります。
良き者にだけ富を与えるとゼウスに宣言しました。ゼウスは、それでは貧富の差が増すばかりであるという再配分の論理から、人の良し悪しが見えないように彼の視力を奪ってしまいました。
⑧プローテウス(プロテウス):海の神
ナイル川河口の三角州沖合に浮かぶパロス島でアザラシの世話をしています。
ポルキュース・ネーレウスとともに「海の老人」と呼ばれ、彼ら同様にポントスとガイアの子とされることもありますが、アポロドーロスでは、プローテウスは外されており、ポセイドーンの子とする説が紹介されています。
古い甕絵には、魚の尾を持つ身体から獅子や鹿、蝮(まむし)が顔をのぞかせている姿で描かれています。彼ら「海の老人」は、ポセイドーン以前のギリシャの海の支配者でした。
予言の能力を持っていますが、その力を使うことを好まなかったため、彼の予言を聞くためには捕まえてむりやり聞き出さなければなりませんでした。
しかし他の物に変身する能力も持っているため、捕まえること自体が至難の業でした。彼の予言を求める英雄たちに格闘の末取り押さえられている点で、ネーレウスおよびその娘テティスと似たような神話が伝えられています。
プローテウスの名は、海王星の衛星プロテウスの由来にもなっています。
⑨プロメーテウス(プロメテウス):ティーターン神族の一柱。人間に火を与えた
イーアペトスの子で、アトラース・メノイティオス・エピメーテウスと兄弟です。デウカリオーンの父です。
ゼウスの反対を押し切り、天界の火を盗んで人類に与えた存在として知られています。また人間を創造したとも言われています。
ヘルメースと並んで、ギリシャ神話における「トリックスター」的存在であり、「文化英雄」としての一面を有しています。
⑩ヘスペロス:宵の明星を司る
ヘスペロスという名は、「黄昏、西方」という意味です。
アストライオスとエーオースの息子(一説ではケパロスとエーオースの息子)で、暁の明星ポースポロスとは兄弟です。ただし、アトラースの子や兄弟という異説もあります。
⑪へーリオス(ヘリオス):太陽の神
へーリオスという名は、ギリシャ語で「太陽」を意味する一般名詞と同一です。象徴となる聖鳥は雄鶏です。太陽は天空を翔けるへーリオス神の4頭立て馬車であると古代ギリシャ人は信じていました。
紀元前4世紀頃から、へーリオスは光明神でもあったアポローンと同一視(習合)されるようになりました。
同様に、へーリオスの妹で月の女神であるセレーネーは、アポローンの双子の姉であるアルテミスと同一視されるようになりました。
⑫ヘルマプロディートス(ヘルマプロディトス)(両性):ヘルメースとアプロディーテーの子で、両性具有の神
ヘルマプロディートスは、ヘルメースを父に、アプロディーテーを母に生まれた頗るつきの美少年でしたが、水浴びのさなかにニュンペーのサルマキスに強姦され、文字通りに一つに合体して両性具有者となりました。
ヘルマプロディートスの名は、両親にちなんでいるだけでなく、美しい女体を持った美少年(ヘルメースにしてなおかつアプロディーテー)という意味を持っています。
また、「両性具有」「雌雄同体」を意味する「hermaphrodite」という語の語源でもあります。
⑬ポースポロス(ヘオースポロス):暁の明星を司る
ポースポロスという名は、「光をもたらす者」という意味です。
アストライオスとエーオースの息子(一説ではケパロスとエーオースの息子)で、宵の明星ヘスペロスと兄弟です。
また、ケーユクスとダイダリオーンの父でもあります。
⑭ポタモイ:河の神々
ポタモイは、オーケアノスとテーテュースの子供たちで、多数の神々を含んでおり、たとえばケブレーンやペーネイオスなどがいます。また、彼らの娘たちはみなナーイアスであるとされています。
なお、ポタモイたちを描いた絵画には特徴があり、主に次の3種類の姿で描かれます。すなわち、上半身は牛の頭を持った人間の男性でウエストより下の下半身は蛇のように細長い魚の姿、または上半身は人間の頭を持った雄牛でウエストより下の下半身は蛇のように細長い魚の姿、または水が常に流れ出しているアンフォラの上に腕を乗せている姿の3通りです。
⑮ポボス(フォボス、フォブス):恐怖の神
ポボスという名は、「敗走」の意で、古くは敗走を表す神でしたが、後に混乱・狼狽・恐怖を表す神となりました。
軍神アレースと美の女神アプロディーテーの息子であり、兄弟にデイモス(恐怖)、ハルモニアー(調和)がいます。またエロースとも兄弟ということになります。
デイモス・エニューオー(戦いの女神)・エリス(争い・不和の女神)とともに、常にアレースに従属して戦場を跋扈したということです。
⑯ポルキュース(ポルコス):ガイアとポントスの子
ポルキュースは、大地母神ガイアと海神ポントスの息子で、ネーレウス・タウマース・ケートー・エウリュビアーと兄弟です。
物静かな入り江や浜辺を住処としていました。妹のケートーを妻とし、グライアイ3姉妹やゴルゴーン3姉妹の父となりました。
なお、プリュギアの同名の武将ポルキュースはトロイア戦争で活躍しました。
3.マ行の神々
①モーモス(モモス):「非難」「皮肉」の神格化
散逸した叙事詩「キュプリア」によると、10年にも及ぶトロイア戦争はモーモスの建議によって起きました。
すなわちゼウスは雷か大洪水を用いて人間を滅ぼそうとしましたが、モーモスはこれに異を唱え、女神テティスとぺーレウスとの結婚および絶世の美女ヘレネーの誕生によって大戦争を起こし、人間の数を減らすことを勧めました。
モーモスは「イソップ寓話集」において、「非難される点がない完璧なものは存在しない」という寓話にも登場しています。
ゼウスが牛を、プロメーテウスが人間を、アテーナーが家を作った時、判定者に選ばれたモーモスは、「牛は角で突く所が見えないから目を角の上に、人間は悪い奴が気付けないから心を外側に、家は悪い奴が隣に住んでもすぐに引っ越しできないから車の上に建てるべきだった」と非難しました。これにゼウスは腹を立て、モーモスをオリュンポスから追放したということです。
②モルペウス(モルフェウス、モルフェ):夢の神
モルペウスとは、ギリシャ語の「morphe」から来ており、「形作るもの」という意味を持っています。彼の父ヒュプノスは眠りの神であり、母は夜の神ニュクスです。
オウディウスの「変身物語」によれば、彼は薄暗い洞窟の黒檀のベッドに、ケシの花に囲まれて眠り、特別な力により、夢の中で人間の姿をまねることができるということです。
また、王や英雄の夢に深く関わりがあり、しばしば兄弟の分までひとまとめにして「ギリシャの夢の神モルペウス」と言われます。
薬物のモルヒネ(旧名:モルフィウム)の名前は、その夢を誘発する力からモルペウスにちなんで名付けられました。
③モロス:死の運命を司る
モロスは、ヘーシオドスの「神統記」によれば、夜の女神ニュクスが一人で産んだ息子で、ゲーラス・ケール・タナトス・ヒュプノス・オネイロス・モーモス・オイジュス・ヘスペリデス・モイライ・ネメシス・アパテー・ピロテース・エリスと兄弟です。
暗闇の中に住んでおり、人間の死を定義し支配すると言われています。