前にギリシャ神話の「オリュンポス12神」(オリンポス12神)をご紹介しましたが、他にもたくさんの男神・女神たちがいます。
そこで今回はギリシャ神話に登場する女神を50音順にご紹介する3回目です。
1.ナ行の女神たち
①ニーケー(ニケ、ナイキ):勝利の女神。ステュクスの娘、アテーナーの随神
ニーケーは、ティーターン神族のパラースとステュクス(冥界の河)の娘です。
兄弟にはゼーロス(鼓舞)、クラトス(力)、ビアー(暴力)がいます。
ティーターン神族とオリュンポス神との戦いである「ティタノマキア」に際しては、ステュクスの命によってオリュンポス側に就き、ゼウスに賞されました。
一般に有翼の女性の姿で表されます。アテーナーの随神ですが、アテーナーの化身とされる場合もあります。
アテーナイのパルテノン神殿の本尊であったアテーナー神像では、右手の上に載せられていました。
サモトラケ島で発掘された彫像「サモトラケのニケ」(ルーヴル美術館所蔵)が有名です。
英語では「ナイキ(Nike)」と発音され、スポーツ用品メーカー「ナイキ」の社名はこの女神に由来します。トレードマークはこの女神の翼をイメージしたものです。
②ニュクス:夜の女神。「夜」の神格化
ヘーシオドスの「神統記」によれば、ニュクスはカオスの娘で、エレボス(幽冥)の妹です。
エレボスとの間にヘーメラー(昼)とアイテール(上天の清明な大気)、カローン(地獄の渡し守)を産みました。さらに単独で多数の神々を産みました。
忌まわしいモロス(死の定業)・ケール(死の運命)・タナトス(死)や、ヒュプノス(眠り)・オネイロス(夢)の一族を産み、さらにモーモス(非難)とオイジュス(苦悩)も産んだとされています。
このほか、ネメシス(義による復讐)・アパテー(欺瞞)・ピロテース(愛欲)・ゲーラス(老年)・エリス(争い)の彼女の子です。
③ネメシス:義憤の女神。人間の傲慢(ヒュブリス)に対する神々の怒りの神格化
ネメシスは、人間が神に働く無礼(ヒュブリス)に対する神の憤りと罰の擬人化です。主に有翼の女性の姿で表されます。
ヘーシオドスの「神統記」によれば、ニュクス(夜)の娘とされます。
ゼウスはネメシスと交わろうとしましたが、ネメシスはいろいろに姿を変えて逃げ、彼女がガチョウに変じたところゼウスは白鳥となってついに交わり、女神は卵を産みました。
この卵を羊飼いが見つけてスパルタ王妃レーダーに献上し、これからヘレネーとディオスクーロイが生まれたとされます。
ただしゼウスが白鳥になって交わったのは王妃レーダーであるとの伝承もあります。
ニュンペーのエーコーの愛を拒んだナルキッソス(ナルシス)に罰を与えたのはネメシスであるとされています。
2.ハ行の女神たち
①パナケイア(パナケア):癒しを司る女神。アスクレーピオスの娘
医術を司る神アポローンの孫で、アスクレーピオスの娘たちの一人です。この名前には「全てを癒す」という意味があり、中世の錬金術師たちがエリクサーや賢者の石の材料と考えた霊薬の名にもなりました。
今日でも「万能薬」(panacea)の意味で使われます。
②ハルモニアー(ハルモニア):調和の女神
ハルモニアーは、アレースとアプロディーテーの娘とされます。彼女はテーバイの始祖カドモスと結婚し、子供を産みましたが、ことごとく不幸な死に方をしたため、神の呪いがこれ以上テーバイに降りかからないようにと、カドモスと連れ添いテーバイを去って放浪の旅に出ました。
カドモスが蛇に変化する際にずっと抱き続け、最後には自らも蛇に変じてしまい、その後二人はエーリュシオンの野に住むことになりました。
カドモスとハルモニアーの結婚式にはオリュンポスの神々が参列しました。初めての人間同士の結婚式であり、全ての神々が贈り物を携えてカドモスの家を訪れました。
その際に贈られたものの中でも有名なのが、長衣(ぺプロス)とヘーパイストスによって作られた首飾りでした。
これらは、それぞれアテーナーとヘーパイストスからの贈り物とも、ゼウスがエウローペーに贈ったものをカドモスが譲り受けたとも、アプロディーテーが贈ったものとも言われます。
これらの贈り物は、身に付ける者に美しさや気品を与えました。
なお、ハルモニアーがアレースとアプロディーテーの子であることを憎んだアテーナーとヘーパイストスが、長衣に媚薬を浸して与え、ハルモニアーの子孫の呪いとなったという説もあります。
そのほかでは、ヘルメースが竪琴を、カドモスは豪奢な上衣を彼女に贈り、デーメーテールは豊穣を約束したということです。
③パンディーア(パンディア):ゼウスとセレーネーの娘
神々の間でその美しさが際立っていたと言われており、姉妹に露のエルセーとネメアがいます。
④ビアー(ビア):力・勇敢・暴力等の神格化
ティーターン神族のパラースとステュクスの娘で、兄弟姉妹にニーケー(勝利)・クラトス(力)・ゼーロス(熱意)がおり、全員がゼウスの側近を務めています。
アイスキュロスは、ビアーはクラトス・ヘーパイストスとともに、プロメーテウスを縛ったと述べています。
⑤ピーエリス(ピエリス、複数形はピーエリデス):音楽と文芸の女神たち。ムーサの別名ともされる
ピーエリア王ピーエロスとパイオニア王国のエウイッペーとの間に生まれた9人の娘です。
ムーサたちと全く同じ名前の9人の姉妹で、ムーサたちと同一視されることもあります。
ピーエリスたちを描いた神話原典は、古代ローマの詩人オウィディウスによる「変身物語」が有名です。
ピーエリアから自信と傲慢を持つピーエリスたちは、ムーサたちの長姉カリオペーに歌勝負を挑んで負け、カササギという鳥に姿を変えられました。
⑥ヒュギエイア:健康・衛生を司る女神。アスクレーピオスの娘
医神アスクレーピオス(医術の祖アポローンの息子)の娘で、古くはアスクレーピオス信仰において父神の脇侍として信仰されました。ローマ神話ではサルースと呼ばれています。
父神と同様に、一匹の蛇を従えた若い女性として表されることが多く、薬か水を入れたと思われる壺(または杯)を携えていることもあります。
この蛇と杯をモチーフにした「ヒュギエイアの杯」が薬学のシンボルに多く用いられます。
アスクレーピオス信仰が広がるにつれて、ヒュギエイアに対する信仰も強くなり、女性神格であったことも影響して、後には女性の健康を守る神、特にいわゆる婦人病に関しては大きな権能を持つとされ、当時の女性の間に彼女の絵姿や小さな彫像を髪飾りにすることなどが流行しました。
ヒュギエイアという名は、ギリシャ語で「健康」を意味し、英語の「hygiene」の語源とされます。
⑦ヒュプノス:眠りの女神
ヒュプノスとは、ギリシャ語で「眠り」の意で、眠りを神格化した存在です。ローマ神話におけるソムヌスに相当します。
ヘーシオドスの「神統記」によれば、ヒュプノスはニュクス(夜)の娘で、兄弟にはタナトスやモロスなど「死」を意味する神々がいます。またオネイロス(夢)も兄弟です。
兄のタナトスとともに、大地の遥か下方のタルタロスの領域に館を構えていました。そしてニュクスが地上に夜をもたらす時には、ヒュプノスも付き従って人々を眠りに誘うということです。
兄のタナトスが非情の性格であるのに対し、ヒュプノスは穏やかで心優しい性格であるとされ、人の死もヒュプノスが与える最後の眠りであるということです。
⑧ピリュラー:「菩提樹」の神格化
オーケアノスの娘で、クロノスとの間にケンタウロスのケイローンとドロプスを産みました。
ゼウスが子供の頃、ピリュラーは黒海沿岸の島に住んでいましたが、島でクロノスは馬の姿となり、ピリュラーと交わりました。
しかしレアーに発見され、クロノスは馬の姿となって逃げ、ピリュラーも島を去って、ペラスゴスの山中でケイローンを産みました。
また一説では、クロノスは匿われているゼウスを捜している時に、トラーキアで馬の姿となり、ピリュラーと交わってケイローンを産みました。しかしピリュラーは、生まれた子の姿を見て悲しみ、ゼウスに願って「菩提樹」(ピリュラー)に変えてもらったということです。
⑨ピロテース:愛欲の神格化
ヘーシオドスの「神統記」によれば、夜の女神ニュクスが一人で産んだ子です。
元は人間でしたが、女神とされました。
⑩プシュケー(プシュケ、プシケー、サイキ)w:「心」「魂」の意味。元は人間であったが女神とされた
プシュケーは、アプレイウスのラテン小説「黄金の驢馬」の中の挿話として登場します。
ある国の3人の王女はいずれも美しく、中でも末娘のプシュケーの美しさは、美の女神ウェヌス(アプロディーテー)へ捧げられるべき人々の敬意をも集めてしまうほどでした。
人間の女に負けることなど思いもよらなかったウェヌスは、息子のクピードー(エロース)にその愛の弓矢を使ってプシュケーに卑しい男と恋を指せるように命じました。
悪戯好きのこの愛の神は喜んで母の命令に従いましたが、誤って自分をも傷つけ、プシュケーへの愛の虜となってしまいました。
プシュケーに求婚者が現れないことを憂いた父母はアポロ(アポローン)の神託を受けましたが、その神託とは「山の頂上に娘を置き、『全世界を飛び回り神々や冥府でさえも恐れる蝮のような悪人』と結婚させよ」という恐ろしいものでした。
人々が悲しむ中、プシュケーは一人神託に従うことを決意し、山に運ばれました。
ゼピュロスがこの世のものとは思えない素晴らしい宮殿にプシュケーを運び、宮殿の中では見えない声が、「この中のものは全てプシュケーのものだ」と言い、食事も音楽も何もかもが心地よく用意されていました。夫は夜になると寝所に現れるのみで姿を見ることは出来ませんでした。
宮殿での生活を楽しんでいたプシュケーですが、やがて家族が恋しくなり、渋る夫を泣き落として二人の姉を宮殿に招きました。プシュケーの豪華な暮らしに嫉妬した姉たちは、「姿を見せない夫は実は大蛇でありプシュケーを太らせてから食うつもりだ」と説き、「夫が寝ている隙に剃刀(かみそり)で殺すべきだ」とけしかけました。
この言葉を信じたプシュケーが、寝ている夫を殺すべく蝋燭を持って近づくと、そこには凛々しい神の姿が照らし出されました。
驚いたプシュケーは蝋燭の蝋を落としてクピードーに火傷を負わせてしまいました。妻の背信に怒ったクピードーはその場から飛び去りました。
姉たちの姦計にようやく気づいたプシュケーが姉たちのもとへ行くと、今度は「クピードーは姉たちと結婚するつもりだ」と嘘を教えました。
喜んだ姉たちはゼピュロスが宮殿へ運んでくれると思い、断崖から身を躍らせましたが、風は運ばず、姉たちは墜落してバラバラに砕けたということです。
一方ウェヌスは息子の醜聞に激怒し、ウェヌス自らの接吻を与えるという懸賞までかけてプシュケーを捕らえようとしました。
怖れたプシュケーはケレースに庇護を求めましたが、ケレースは「ウェヌスとのつきあいがある」との理由で拒否しました。
そこで今度はユーノーに庇護を求めましたが、ユーノーは「逃亡した奴婢をかくまってはならないことになっている」と法律を盾に拒否しました。
かくして愛を追いながらも世間のしがらみのために行き場所をなくしたプシュケーは、観念してウェヌスのもとに出頭しました。
ウェヌスはプシュケーを捕らえて折檻し、次々と無理難題を押し付けました。しかし、大量の穀物の選別を命じられた際は、どこからともなく蟻がやって来て手助けしてくれたり、凶暴な金の羊の毛を取ってくるよう命じられた際には、河辺の葦が羊毛の取り方を助言してくれて、竜の棲む泉から水を汲むよう命じられた際はクピードーに可愛がられていたユーピテルの大鷲が水を汲んできてくれるなど、不思議な助けを受けてウェヌスの難題を乗り越えました。
業を煮やしたウェヌスは息子クピードーの火傷の介抱で衰えた容貌を補うために、冥府の女王プロセルピナに美を分けてもらってくるよう命じました。
首尾よく美を分けてもらったプシュケーですが、自分の容色も衰えクピードーの愛も失うのではと不安になり、箱を開けないよう警告されていたにもかかわらず、開けてしまいました。しかし中には冥府の眠りが入っていました。
傷の癒えたクピードーは昏倒している妻から冥府の眠りを取り去って箱に集め、ユーピテルに取りなしを頼みました。
ユーピテルはクピードーが良い女を見つけたら紹介することを条件に取りなしを了承しました。
ユーピテルはプシュケーに神の酒ネクタールを飲ませ神々の仲間入りをさせました。「プシュケーはもう人間ではないのだから、身分違いの結婚ではない」と説明され、ウェヌスもやっと納得しました。
かくて「魂」は愛を手に入れ、二人の間にはウォルプタース(喜び、悦楽の意)という名の子が生まれました。
女神となったプシュケーが絵画に描かれるときには、蝶の翅を背中に生やした姿を取る例が多く見られます。
⑪ブリトマルティス:ミノア文明における山と狩猟の女神
ブリトマルティスはミノア文明における山と狩猟の女神ですが、ミケーネ文明に受け継がれてギリシャ神話の一部となりました。
ギリシャ人にとって、ブリトマルティス(クレータ島方言で、「甘美な少女」「甘美な処女」の意)やディクテュンナ(狩猟網)は山のニュンペー(山精)であり、アルテミスやアイギーナ島のアパイアー(森の処女神)とも同一視していました。
⑫プレーイオネー(プレイオネ):プレイアデスの母
プレーイオネーは、オーケアノスとテーテュースの3000人の娘オーケアニデスの一人です。
アトラースの妻となり、プレイアデスと呼ばれる7人の娘たち(マイア・アルキュオネー・メロペー・ケライノー・エーレクトラー・ステロペー・ターユゲテー)の母となりました。
⑬ヘカテー(ヘカテイア、ヘカテ):冥界の女神。月を司るともされる
ヘカテーは、古代ギリシャ語で太陽神アポローンの別名であるヘカトスの女性形であるとも、「意思」を意味するとも言われています。
またエジプト神話の多産・復活の女神へケトに由来するとも言われています。
「死の女神」「女魔術師の保護者」「霊の先導者」「ラミアーの母」「死者たちの王女」「無敵の女王」などとも呼ばれました。
トリカブトや犬・狼・牝馬・蛇(不死の象徴)・松明(月光の象徴)・ナイフ(助産術の象徴)・窪みのある自然石などが、ヘカテーの象徴とされています。
⑭へスぺリス:黄昏の女神
宵の明星ヘスペロスの娘で、アトラースとの間に7人の美しい娘たちを産みました。
⑮ヘーベー(ヘベ):青春の女神。「青春」の神格化。ヘーラーの娘で、へーラクレースの妻
ヘーベーは「若さ」「青春(の美)」の意で、青春が神格化された女神です。
ヘーシオドスの「神統記」では、黄金の冠を被り、黄金の沓(くつ)を履くと描写されており、美術作品では袖のないドレスを着ている美しい乙女の姿で表現されることが多く、酒杯と水差しを持ち、背中に翼を生やした姿で描かれることもあります。
⑯ペーメー(ペメ):「噂」「名声」の女神
ペーメーは「噂」や「名声」を神格化した女神で、よい噂を好み、悪い噂には憤ります。
ガイアまたはエルピスの娘とされ、「会話を始めさせ、発展させる女性」として描かれており、アテナイに神殿がありました。
ペーメーは神々や人間のさまざまな事柄を覗き、見聞きしたことを最初はささやき声で、その後徐々に大きな声で話し、全員が知るまでそれを繰り返したということです。
ローマ神話におけるファーマに相当します。
⑰ヘーメラー(ヘーメレー、ヘメラ、ヘメレ):昼の女神。「昼」の神格化
ヘーメレーはギリシャ語で「昼」「昼の光」の意味で、昼が神格化された女神です。
⑱ポイベー(ポイベ):光明神。ティーターン神族。
ポイベーはウーラノスとガイアの娘で、アポローン・アルテミス・ヘカテーの祖母です。
その名は「輝ける女」を意味し、光明神となっています。またこの名は月の女神としてのアルテミスの呼称としても用いられます。
一説によると、ポイベーはデルポイの神託所の支配者の一人で、大地母神ガイア、ティーターン神族のテミスに次いで3番目に支配し、後にここを孫のアポローンに譲ったとも言われています。
⑲ホーラ(複数形はホーライ):時間・季節・秩序を司る。三柱の姉妹とされるが名前は一定しない
ゼウスとテミスとの間に生まれた三人の娘で、運命の三女神モイライの姉妹とされます。
普段はホーラたちは季節の規則正しい移り変わりと人間社会の秩序の二様の女神とみなされており、気象的性格をもって自然の秩序を守護するホーラたちは、また道徳秩序にも重視されます。
天界と地上を結ぶ雲の門の番人でもあり、ヘーラーの戦車から馬を外したりと、神々がオリュンポスから戦車に乗って外出する際、天界の門の雲を搔き分けます。
アプロディーテーがキュプロス島に上陸するとホーラたちが彼女を着飾らせ、オリュンポス山に連れて行きました。
ゼウスが人間を破滅させるために、パンドラーを地上へ送った時、ホーラたちは彼女の頭を花飾りのついた冠で縁取りました。
彼女たちは花あるいは植物を手にした優雅な三人の美しい乙女の姿で表されます。
3.マ行の女神たち
①マイア(マイヤ):ヘルメースの母
マイアは、巨人アトラースとプレーイオネーの7人の娘たちプレイアデス(昴)の一人です。
彼女たちはアルカディア地方のキュレーネー山で生まれたとされています。
マイアは長女とされ、キュレーネー山の洞窟内でゼウスの子ヘルメースを産みました。
②ムネーモシュネー(ムネモシュネ):記憶の女神。「記憶」の神格化
ウーラノスとガイアの娘で、ティーターン神族の一柱です。
ヘーシオドスの「神統記」によると、ムネーモシュネーはエレウテールの丘の主で、ピーエリアにおいてゼウスと9日間にわたって添い臥し、人々から苦しみを忘れさせる存在としての9人のムーサたちを産みました。
ムネーモシュネーは名前を付けることを始めたとされます。
小惑星番号57番の小惑星帯の小惑星「ムネモシネ」はムネーモシュネーにちなんで命名されました。
③メーティス(メティス):知性・知恵の女神。ゼウスの最初の妻
メーティスは、3000人いるというオーケアノスとテーテュースの娘オーケアニデスの一人で、ティーターン神族に数えられます。
ゼウスの最初の妻であり、アテーナーの母です。
ティーターン神族の末弟クロノスは、母ガイアの命を受けて父であるウーラノスを倒し、神々の王となりました。
しかしその際ウーラノスによって、自身も同様に子に倒されるという予言を受け、子が生まれるたびにそれを飲み込みました。
スペインの画家ゴヤ(1746年~1828年)にローマ神話を題材にした「我が子を食らうサトゥルヌス」という絵画がありますが、サトゥルヌスはギリシャ神話のクロノスに相当します。
クロノスの妻レアーはそれを悲しみ、ガイアに相談して闇夜の外で末子ゼウスを産み、石をゼウスと偽って持ち帰り、それをクロノスに飲み込ませたために助かりました。
ゼウスはクレータ島で育てられ、成人すると母レアーと知恵の女神メーティスとともに、食べられた兄妹たちの仇を討つことにしました。
ゼウスはメーティスに命じ、メーティスは自分の作った嘔吐薬をネクタール(神酒)に混ぜてクロノスに飲ませることに成功しました。
クロノスはまずゼウスと偽られて飲み込んだ石を吐き出し、続いてポセイドーン・ハーデース・ヘーラー・デーメーテール・ヘスティアと、飲み込んだ際とは逆の順で彼らを吐き出しました。
ただし一説では、メーティスは関与せず、ゼウス自身がクロノスの背中を叩き、吐き出させたということです。
そしてゼウスは吐き出された兄姉たちと力を合わせ、クロノスをはじめとするティーターン神族との戦い「ティーターノマキアー」に勝利しました。なお、この戦いには、ティーターン神族の長兄であるメーティスの父オーケアノスは参加しなかったということです。
その後、神々の王となったゼウスはメーティスを妻として迎え入れました。一説によれば、メーティスはゼウスの妻ではなく、ゼウスから逃げ回った末に子を身ごもったとされます。
このことを知ったガイアとウーラノスは、「メーティスの子はゼウスよりも聡明で剛毅であり、もし男児であったらゼウスの地位を脅かすであろう」と予言しました。そのためゼウスは祖父ウーラノスや父クロノスのように子に権力を奪われることを恐れ、用心のために父クロノスのようにメーティスを飲み込みました。
一説では、飲み込まれる際にメーティスはさまざまな姿に化けて逃れたものの、蠅に変身したところを飲み込まれてしまったともされます。このことでメーティスはゼウスと同化し、ゼウスは知恵の神としても信仰されるようになったということです。
しかし時すでに遅く、メーティスはすでに懐妊しており、胎児はゼウスの頭部に移って生きていました。さらにメーティスは胎児のために甲冑を作り、その行為がゼウスに激しい頭痛をもたらしました。
やがて子が生まれる月になると、ゼウスは痛みに耐えかね、リビアのトリートーニス湖のほとりでプロメーテウスやヘーパイストス、ヘルメースなどに相談し、ヘーパイストスに斧で頭を叩き割るように命じました。
すると中からすでに成人し、甲冑で完全に武装した女神が飛び出しました。これがアテーナーでした。ルネ・アントワーヌ・ウアスの「アテーナーの誕生」(1688年以前)という絵画(下の画像)があります。
この後、メーティスはゼウスの体内で善悪を予言するようになったということです。
④モイラ(複数形はモイライ):運命の三女神。クロートー・ラケシス・アトロポスの三柱とされる
モイラはもともとギリシャ語で「割り当て」という意味です。人間にとっては、「寿命」が割り当てられたものとして、最も大きな関心があったため、寿命・死・生命などとも関連付けられました。
また出産の女神であるエイレイテュイアとも関連付けられ、やがて「運命の女神」とされました。
4.ラ行の女神たち
①レアー(レイアー、レア、レイア):ティーターン神族。大地の女神。ゼウスら兄弟の母
レアーの父はウーラノスで母はガイアです。夫のクロノスがレアーとの間に生まれた子供たちを飲み込んだ後の顛末については、「メーティス」の項目で詳しくご紹介しました。
②レートー(レト):アポローンとアルテミスの母
ティーターン神族のコイオスとポイベーの娘で、アステリアーと姉妹です。ポーロスとポイベーの娘という説もあります。
ゼウスの子アポローン・アルテミスを産みました。
レートーは黒衣をまとい、神々のうちで最も柔和な女神と言われます。鶉に変身したゼウスとの間にアポローンとアルテミスを産んだため、ヘーラーの激しい嫉妬を買いました。