前に「引き際・引退の難しさを経営者・医者・エリート官僚について考える」と言う記事を書きましたが、今回の菅首相の「総裁選不出馬表明」を聞いて、「他人のことはよく見えても、自分のことは見えないものだ」とつくづく思いました。
1.菅義偉首相の「総裁選不出馬表明」は遅きに失したが、日本と自民党に最大の貢献
私は「甘井先竭・大器晩成・無用の用は老荘思想の言葉。菅義偉氏の活躍に期待!」という記事を書いて菅氏が首相として活躍されることを期待していました。
一方、「菅首相が愛読するマキャベリ・マキャベリズムとは?わかりやすくご紹介します。」という記事を書いて、菅氏の権謀術数を駆使する政治手法に懸念を示しました。
今回は「最後の悪あがきの策謀」で「暗闘(水面下の権力闘争)」を行い、悪手・無理筋の奇手を連発しましたが、かつての支持派閥の細田派(安倍派)・麻生派からも見放され、「裸の王様」になりました。「策士策に溺れる」あるいは「才子才に倒れる」結果になったと言えそうです。
菅政権発足直後に「二階俊博幹事長の出来レースで誕生した菅義偉総裁。来年9月の総裁選に注目」という記事で2021年の総裁選に期待を寄せました。
しかし、コロナ対応では失策・無策や対応の遅れ、Go Toキャンペーンの朝令暮改などゴタゴタが続きました。「緊急事態宣言」を何度も連発するだけでその効果の検証もなされず、政府分科会や日本医師会の意見に引きずられるだけで、最も有効な対策である「コロナの感染症2類相当から5類への変更」も行いませんでした。
コロナ関連では、以下のようなさまざまな記事を書いて「首相官邸ホームページ」の意見箱にも投稿しましたが、私の提言は採用されませんでした。
「指定感染症2類相当から5類への変更が最優先のコロナ対応!」
「国際医療福祉大学の高橋泰教授の「コロナ新仮説」をわかりやすく紹介します」
「GoTo一時停止や時短要請は有効か?京大・宮沢准教授の目玉焼きモデルに注目!」
「コロナ報道や発表は重症者と死者の推移に変えないと実態を見誤る!」
「コロナ重症者数が高齢者感染増加で大阪が東京の2倍超。実効再生産数にも注目!」
「コロナの謎対策・過剰対策の効果は?漫然と続けるより見直しが必要!」
「GoToを一時停止すれば、コロナ感染拡大の抑止は可能か?最近の風潮は疑問!」
「日本よりコロナ感染者数が多い欧米で医療崩壊が起きていないのはなぜか?」
「三度目の緊急事態宣言はコロナ対策のメリットより経済へのデメリットの方が大!」
「パンデミックとなった新型コロナの原因究明は必要!中国の生物化学兵器なら怖い」
「コロナ禍の中、病院の発熱外来の対応がスムーズに行かない現状はおかしい!」
「コロナ対策としての人流抑制は効果なし。緊急事態宣言の延長は謎対策」
「コロナワクチン接種の優先順位を上げるべき職種がまだある。政府は見直しを!」
「連日のコロナ報道はインフォデミック!今回の緊急事態宣言は百害あって一利なし」
「コロナワクチン接種と副反応。ゼロリスク信仰とSNSのデマ情報の問題」
また、支持率低下について「青木の法則によれば菅内閣は政権が打倒される危険ラインに近づいて来た!?」という記事を書きましたが、無反応でした。
デジタル庁創設、カーボンニュートラルなどの環境政策・エネルギー政策、東京五輪2020無観客開催などの政策についても、私には異論があります。
「デジタル庁の創設よりも、サイバーセキュリティー対策強化の方が急務!」
「菅首相のカーボンニュートラル宣言は、鳩山首相の京都議定書の失敗と同じ過ち!」
「純ガソリン車の新車販売禁止政策は性急で愚策!大規模停電の恐れもある!」
「太陽光発電は本当にクリーンエネルギーか?廃棄物処分問題もある!」
「再生可能エネルギーの比重を高める新エネルギー基本計画は日本経済をダメにする」
「無観客五輪は菅首相の敗北!緊急事態宣言と酒類の提供禁止は即刻解除すべし!」
外交・防衛面でも、尖閣諸島周辺への領海侵入を連日行っている中国に対して明確で毅然とした発信がありませんでした。「自民党の実質的な最高権力者」で親中派の二階幹事長に遠慮していたのであれば、はなはだしく国益を損なうものです。
「日本は尖閣諸島への中国の領海侵入に対して、より実効性のある措置を講じるべき」
「海警法は明確な国際法違反!中国による尖閣諸島での領海侵入が常態化」
2.「人の七難より我が十難」
「他人の欠点は、目につき気づくけれども、自分の欠点には、なかなか気づかない」ということわざです。
かつて菅氏(当時官房長官)は、文部科学省の前川喜平事務次官が地位に恋々としてなかなか引責辞任しないことを厳しく批判しました。この批判は真っ当だったと思いますが、菅氏は現在の自分の置かれた状況や自分の発信力不足や失策・無策については、いつまで経っても認めようとしませんでした。
「人の振り見て我が振り直せ」とか「近くて見えぬは睫毛(まつげ)」ということわざもあります。
菅氏にそもそも確固たる信念や政策がなかった(と私には見えます)上に、「イエスマン」の側近から「耳障りの良い情報」だけを入れて、苦言を呈する人の意見を聞かなかった過ちだと私は思います。
最後の最後に小泉進次郎氏から、自らの置かれた厳しい状況・孤立無援の現実の厳しさを知らされて、やっと「万事休す」と思い知ったのでしょう。
3.「敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」
有名な「孫子の兵法」にある言葉です。
正しくは「彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)うからず」です。
これは「敵の実情を知り、味方の実情を知っていれば、百回戦っても敗れることはない」という意味です。
4.汝自身を知れ
「汝自身を知れ」という言葉は、アポローンを祀るデルフォイ神殿に残された古代ギリシャ人の言葉です。これは非常に示唆に富む言葉だと思います。
「自分の分をわきまえよ」という意味で解釈されていましたが、ソクラテスは「自分自身をよく知ることが基本だ」と解釈したと言われています。
「最も有能な人は自分自身の能力の限界を知る人」です。
5.菅氏は「ドン・キホーテ」だったのか?
スペインの作家セルバンテスに「ドン・キホーテ」という小説があります。ミュージカル「ラ・マンチャの男」でも有名ですね。
騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなった郷士(アロンソ・キハーノ)が、自らを遍歴の騎士と任じ、「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」と名乗って冒険の旅に出かけ、行く先々で悲喜劇的な事件を引き起こす物語です。
菅氏はいつまで経っても現実を直視せず、「君子豹変」もせず、ひたすら自分のやっていることが正しいと盲信していたように私は思います。
今回の「総裁選不出馬表明」は「総裁選で現職首相がぼろ負けする屈辱」を避けるための「不戦敗」だったようです。
「党役員人事権」も「閣僚人事権」も、各派閥の領袖が自派の議員を「泥船に乗せたくない」として協力を拒否し、議員たちも「泥船に乗りたくない」ということで、事実上行使できませんでした。「解散権」も自民党内からの猛反発で自ら撤回せざるを得ませんでした。
最初から「安倍前首相の病気による途中辞任に伴う2021年9月までのワンポイントリリーフ政権」と自覚し、「本格政権への色気」を出さなければ、有終の美を飾ることができたでしょうし、晩節を汚すこともなかったと私は思います。