1.南柯之夢(なんかのゆめ)
「夢のこと」、また「儚(はかな)いことのたとえ」です。
「南柯」とは南側に伸びる枝のことです。
「南柯の一夢」「南柯の一睡」「槐夢(かいむ)」「槐安の夢(かいあんのゆめ)」とも言います。
出典は唐の李公佐の伝奇小説「南柯太守伝(なんかたいしゅでん)」です。
唐の淳于棼(じゅんうふん)は酔って邸内の槐(えんじゅ)の下で眠ってしまい、そのとき大槐安国(だいかいあんこく)に行って国王の娘を娶(めと)り、南柯郡(なんかぐん)の太守(長官)に封ぜられ、その後失脚するなどの栄枯盛衰を極めた夢を見ました。目が覚めて槐の木の下を見ると、蟻の穴が二つあり、その一つには大蟻が王として住み、他の一つは南に向いた枝に通じていたということです。
2.南船北馬(なんせんほくば)
「中国の南方では川や運河が多いので船を、北部では山や平原が多いので馬を乗り物に用いる」ということです。また転じて、「広く各地を旅すること」です。
「北馬南船(ほくばなんせん)」とも言います。
3.南枝の悲しみ(なんしのかなしみ)
越鳥(えっちょう)が故郷に近い南向きの枝に巣くうことから、「故郷から遠く離れて暮らす悲しみ」のことです。「越鳥」とは、中国南部の越の国の鳥のことです。
出典は「文選(もんぜん)」です。
「越鳥南枝に巣をかけ、胡馬北風に嘶(いなな)く」とも言います。四字熟語で言うと「越鳥南枝(えっちょうなんし)」「胡馬北風(こばほくふう)」です。
4.南華之悔(なんかのくい)
「上司の怒りに触れる発言をしたため、才能を持ちながらも、出世の道が断たれること」、またその悔いのことです。出典は「唐詩紀事(とうしきじ)」です。
中国・唐の詩人温庭筠(おんていいん)が、当時の宰相からの質問に対して、「そのことは『南華真経』に出ているはずです。それは珍しい書物ではありません」と言ったために宰相の怒りを買い、才能があったにもかかわらず最後まで「科挙」(中国の官吏登用試験)に合格できなかったという故事です。
5.南郭濫吹(なんかくらんすい)
「無能の者が才があるように見せかけること」です。出典は「韓非子(かんぴし)」です。
「南郭」は中国斉の人で、「濫吹」は吹けもしない笛を勝手に吹くことです。「濫」はみだりにの意です。
「濫竽充数(らんうじゅうすう)」とも言います。
中国斉の宣王は楽士三百人による「竽(う)」(笛の一種)を好み、楽しみました。南郭は笛がうまくないのに、ごまかして楽士の中に紛れ込み、高給を得ていました。しかし、次の王は独奏を好み、一人ずつ演奏させようとしたので、南郭は逃げ去ったという故事です。
6.南無三宝(なむさんぼう)
仏教用語で、「仏に帰依を誓って、救いを求めること」です。転じて「突然起こったことに驚いたり、しくじったりした時に発する言葉です。
「南無」は、経典や仏などの名の前に付けて、それに対する絶対的帰依を誓う言葉です。「三宝」は、「仏」と「仏の教え」と「教えを広める僧」のことで、仏法僧(ぶっぽうそう)と言います。
救いを求めることから、驚いた時などに発する言葉となりました。略して「南無三(なむさん)」とも言います。
7.南橘北枳(なんきつほくき)
「人間は住む環境が変われば、性質も変わってしまうということ」です。出典は「晏子春秋(あんししゅんじゅう)」です。
中国江南(「淮水(わいすい)」以南の長江中下流域)で産する橘(たちばな)は大変な美味ですが、淮水以北に植えると橘は枳(からたち)となり、味が全く異なってしまうことからです。橘はミカンのことですが、従来から「たちばな」と読まれてきました。
8.南箕北斗(なんきほくと)
「名前ばかりで実質が伴わないことのたとえ」です。出典は「詩経」です。
「箕」は穀物をふるう農具の箕(み)です。「斗」は酒を注ぐためのひしゃくのことです。「南箕」は星座の名前で、「みぼし」のことです。「北斗」は「北斗七星」のことで、どちらも箕や斗を名前絵にしていますが、実際には手に取って用いることができないことからです。
9.南洽北暢(なんこうほうちょう)
「天子の恩恵と威徳が、国の隅々まで広く行き渡ること」です。
「洽」はあまねく行き渡ることで、「暢」は広く達することです。「南北」は国の南と北で、ここでは国のあらゆる方向ということです。
10.南山捷径(なんざんしょうけい)
「正規の手続きや段階を経ずに官職に就く法」のことです。出典は「大唐新語」です。
「世俗を避けて終南山に隠居して、隠者のふりをすると名声が上がり、仕官の道が得やすいこと」です。「終南山には仕官の近道がある」ということからです。
「終南捷径(しゅうなんしょうけい)」とも言います。「終南」は「終南山」のことで「捷径」は最短距離のことです。
終南山は、中国陝西省西安市の南方にあり、名勝や古跡に富んでいます。
11.南山之寿(なんざんのじゅ)
「事業が崩壊せずに、永遠に続いて行くこと」です。堅固で崩壊しない物事のたとえに用いられます。また、長寿を祝う時にも用いる言葉です。出典は「詩経」です。
「南山」とは、前項でもご紹介したように中国の西安市の南方にある「終南山」のことです。
12.南山不落(なんざんふらく)
「永遠に崩れ落ちないこと」です。城や要塞などが非常に堅固で、陥落しがたいことを述べた言葉です。「南山」とは、前2項でもご紹介したように中国の西安市の南方にある「終南山」のことです。
13.南征北伐(なんせいほくばつ)
「多くの戦いを経ること」です。また「戦いに明け暮れて、いとまのないことのたとえ」です。出典は「韋昭(いしょう)」です。
14.南都北嶺(なんとほくれい)
「奈良」と「比叡山」のことです。また、奈良の興福寺と比叡山の延暦寺のことです。出典は「歎異抄(たんにしょう)」です。
「南都」は奈良のことで、奈良には仏教の大きな派閥が六つありましたが、法相宗(ほっそうしゅう)興福寺はその代表です。「北嶺」は比叡山のことです。
延暦寺の僧兵は「山法師」、興福寺の僧兵は「奈良法師」として、平安時代末期から室町時代にかけて勢威を振るいました。
「北嶺南都(ほくれいなんと)」とも言います
15.南蛮鴃舌(なんばんげきぜつ)
外国人の意味の分からない言葉を、蔑(さげす)んでいう言葉です。
「南蛮」は、南方の異民族を蔑んでいう言葉です。「鴃舌」は、モズ(百舌鳥)の鳴く声です。またモズが鳴き合うように騒ぎ合って、意味がわからないことのたとえです。
昔の中国で、南方の人の話す調子が、北方の人にはモズが鳴いているかのようにやかましく聞こえ、何を言っているのかわからないと感じられたからです。
皮肉なことですが、昨今のインバウンドで来た大勢の中国人観光客が大きな声で中国語を話す様子は、私にはまさに「南蛮鴃舌」のように聞こえます。
16.南風之薫(なんぷうのくん)
「南から吹く温暖な風の、人の心を和ませる薫りのこと」です。転じて「君主の恩沢が民衆に行き渡っていくこと」です。出典は「尸子(しし)」です。
17.南風之詩(なんぷうのし)
「中国古代の伝説上の聖天子である舜(しゅん)が作った歌」のことです。出典は「礼記(らいき)です。
舜帝が五弦の琴を弾き、南風の詩を歌って天下がよく治まったという故事です。また「世の中が平和に治まっていることのたとえ」です。