半導体が世界で不足しているのはなぜか?解消への動きと「2024年問題」

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半導体不足の原因

2020年秋以降、「半導体不足」は世界的な課題となっています。

その影響は日本国内へも波及し、たとえば自動車業界は大きな打撃を受けました。低性能で安価なものが多い自動車向け半導体よりも、高性能で高価なスマートフォンやパソコン向けの半導体の製造が優先されたことで、自動車メーカーは減産を余儀なくされたのです。一方、スマートフォンの製造にも少なからず影響を及ぼすなど、業種・業態を問わず、生産計画通りに半導体製造を行えない事態が発生しています

新型コロナウイルスの感染拡大が主要因とされる向きもありますが、半導体不足の本当の理由はコロナ禍以前に由来します。

1.半導体とは

(1)半導体とは

そもそも半導体とは、電気的性質を備えた物質で、金や銀や銅といった金属など電気を通す「導体」と、ゴムやガラスなど電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つもので、シリコンなどの物質や材料のことです。

半導体は温度によって抵抗率に違いが生じます。低温の場合はほとんど電気を通さない反面、温度が上昇するにつれて、電気が通りやすいという性質を有します。また、不純物をほとんど含んでいない半導体は電気を通さないのに対して、ある種の物質を含ませることで電気が通りやすくなります。こうした半導体の性質を活用し、電気制御に用いられているのです。

また、半導体を用いたトランジスタやIC(集積回路)などを含めた広義の意味で「半導体」という言葉が使われることもあり、すでに一般化しています。情報処理機能を持っていることから、半導体は「電子機器の頭脳」としての役割を担っているとも言い換えられます。

いまでは半導体は生活のあらゆるシーンにかかわっており、身近なものだけでも、スマートフォンや冷蔵庫、自動車など、電気を使う多くのものに使用されています。

(2)半導体が使われているもの

半導体は一般消費者向けに単体で販売されているようなものではありません。製品に組み込まれているもののため少々イメージしづらいですが、半導体は産業機器だけではなく、生活に身近な大小さまざまなモノに使用されています。

  • スマートフォン
  • タブレット
  • パソコン
  • デジタルカメラ
  • テレビ
  • ゲーム機
  • 炊飯器
  • 冷蔵庫
  • 洗濯機
  • エアコン
  • 照明器具
  • 給湯器
  • 温水洗浄便座
  • 自動車 など

このように、一般家庭で半導体が使われているものは多岐にわたります。エアコンの温度が調整されて快適に過ごせたり、炊飯器の火力調整によって美味しいごはんが炊けたりと、日常のちょっとした場面においても、その背景には半導体による制御があるのです。

また、社会インフラにも半導体は欠かせないものです。銀行など金融機関のATMや医療機器、電車、飛行機など、社会の中でインフラネットワークは広範に展開されています。そうしたインターネットなどの通信インフラの中枢を担う機器にも、半導体が使用されているのです。

(3)半導体が不足するとどうなるか

半導体が不足すると、これまでに挙げてきた製品を含め、半導体を使用するあらゆる製品の生産が滞ってしまいます。それは、半導体を使った製品を製造するさまざまなメーカーが、生産計画通りに製品を製造できない事態に陥ることを意味します。

また、半導体を使った製品の供給不足は一般消費者にも多大な影響をおよぼします。購入しようとしていた商品が買えない、あるいは価格が大幅に上昇するといった事態を招くためです。給湯器や冷蔵庫など、生活の基盤となる製品の供給不足は、日常生活に甚大なダメージを与えることはいうまでもありません。

2.世界的な半導体不足が起きた主な要因

2020年の秋以降、世界的な半導体不足に見舞われていますが、その要因はひとつではありません。供給のひっ迫と需要の拡大を引き起こす、複数の要因が複雑に絡みあっているのです。

半導体不足の主な要因は次のようなものです。

  • 米国と中国の経済摩擦
  • 新型コロナウイルスの感染拡大
  • サプライチェーンの混乱と輸送コストの急騰
  • 新たな需要の発生
  • ウクライナ危機の影響

(1)米国と中国の経済摩擦

半導体不足の発端となったのは米国と中国の貿易摩擦です。世界的な半導体不足が露呈したのは2020年秋頃ですが、これは2019年から続く米中貿易摩擦による半導体不況に起因しています。

①米国の規制強化で半導体の調達先が減少

米中間の貿易摩擦によって、米国は中国企業への制裁を行うため規制を強化し、対象企業からの輸入は事前許可制となりました。その対象企業には中国の大手「ファウンドリー」(*)の中芯国際集成電路製造(SMIC)が含まれていたため、中国から米国への半導体の輸出量は大幅に減少しました。

(*)「ファウンドリー」とは、主に半導体業界で、自社では設計せずに顧客からの設計データに基づいて製品を造る会社(受託生産会社)のこと

減少分の代替先として台湾の企業に発注したものの、半導体の調達先が限定されたことには変わりありません。リスク分散機能が低下していたなかで、台湾の半導体メーカーは受注に対応しきれなくなりました。これが現在も続く半導体不足の大きな引き金となっています。

②増産に踏み切れなかったものの需要は急増

WSTS(世界半導体市場統計)によると、2019年の半導体の市場規模は前年比12%減の約4,124億ドルでした。さらに、スマートフォンやノートパソコン、自動車の販売が減少した中でコロナ渦に見舞われたため、半導体メーカーはすぐに需要が回復するとは見込めず、増産に踏み切れなかったのです。

しかし、現実には2020年下期になると、いわゆる巣ごもり需要により大型テレビやスマートフォンの需要が拡大し、テレワークに必要とされるノートパソコンも急激に需要が高まりました。また、公共交通機関の利用による人との接触を避ける心理が働いたことから、自動車の需要も拡大しました。

ここまでの流れは、点ではなく時系列順で押さえておかなくてはいけません。半導体不足は新型コロナウイルスの影響によるサプライチェーンの混乱と予想を上回る需要の回復によって引き起こされたといわれていますが、そもそもは2019年の米中貿易摩擦に起因しているのです。

(2)新型コロナウイルスの感染拡大

前記のように、新型コロナウイルスの感染拡大が人々の生活を一変させたことにより、半導体を用いる製品が予想を大きく上回る需要となったことも、半導体不足をもたらした大きな要因です。

①「新しい生活様式」が需要ひっ迫を加速

半導体にはさまざまな種類がありますが、不足しているのは主にノートパソコンやスマートフォン、テレビ、自動車に搭載されているものです。テレワークの増加によって、ノートパソコンの需要は急増しましたが、ノートパソコンに搭載されるPMIC(パワーマネジメントIC)は、5Gへの移行によって既に需要がひっ迫。ニューノーマルの生活様式は、半導体が品薄な状況をさらに悪化させる引き金になったのです。

また、巣ごもり需要によって大型テレビなどの需要も拡大したことにより、DDIC(ディスプレイドライバーIC)の不足も招いています。

さらに、公共交通機関の利用を避ける目的などから、自動車の需要が増したため、自動車の動作制御を行うMCU(マイクロコントローラー)も不足しました。自動車向けの半導体の生産能力をパソコン用の半導体の生産に充てていた工場が多いことも、自動車メーカーへの影響が大きくなった要因に挙げられます。結果、自動車メーカーでは半導体不足により、減産や操業停止を余儀なくされる事態に陥りました。

②設備の老朽化や「リードタイム」(*)から半導体の増産対応が困難に

(*)「リードタイム」とは、商品の発注から納品に至るまでの生産や輸送などにかかる時間(日数)のこと

また、PMICやDDIC、MCUといった不足が顕著な半導体が製造されているのは、最先端の半導体を製造する12インチウエハー工場ではなく、主に一世代前の8インチウエハー工場であることも、半導体不足に関連します。

8インチウエハー工場は老朽化が進んでいるケースが多く、半導体メーカーは生産を受託するファウンドリー(受託生産会社)への委託に切り替えているケースが目立ちます。しかし、ファウンドリーの多くは生産能力を拡張していないことから、急増した注文に対応することが難しかったのです。

半導体の製造には少なくとも3ヶ月以上、ものによっては7~8ヶ月の期間がかかることから、急激な需要の増加に対応することができません。また、工場の新設には2年以上の期間を要し、何千億円ものコストが発生することから、すぐには増産体制がとれないことも理由として挙げられます。

(3)サプライチェーンの混乱と輸送コストの急騰

新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国の生産拠点で集団感染が起こったことをはじめ、世界の多くの工場が閉鎖されるなど生産停止を余儀なくされました。半導体の製造に必要な物資の供給がグローバル規模で滞ってしまったのです。

また、新型コロナウイルスの感染拡大は、港湾業務の人手不足や船の遅延などにも波及しました。こうしたサプライチェーンの混乱によって、入手困難な部材が生じたことも、半導体の生産体制に甚大な影響をおよぼしています。

さらに、EC市場が拡大したことや、世界が「Withコロナ」へと舵を切ったことで、海運の集中による世界的なコンテナ不足にも見舞われました。港湾業務に従事する人材が不足するという事態も発生しています。こうした事情から、コロナ禍において海上輸送のコストは上昇傾向に陥っているのです。

(4)新たな需要の発生

新型コロナウイルスの感染拡大による影響以外に、新たな需要が発生したことも半導体不足を招く要因に挙げられます。

前記のように、そもそもコロナ禍以前からPMICはスマートフォンの5Gへの移行によって品薄状態にありました。また、新型コロナウイルスの感染拡大が後押しにはなりましたが、クラウドコンピューティングの継続的な成長によって、インフラに使用される製品の需要は増加していました。

さらに、産業機器の分野や、脱炭素社会の実現に向けた電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)なども顕著に需要が拡大しています。ガソリン車と比較すると、電気自動車やハイブリッド車は数倍の半導体を搭載するためです。

このほかに、ビットコインの「マイニング(*)需要」によってグラフィックボード(ディスプレイに画像や映像を映すための部品)の需要が拡大したことなども、半導体不足に少なからず影響していると考えられます。

(*)「マイニング」とは、仮想通貨の取引を承認する作業をして、その報酬として新規発行された仮想通貨を得ること

(5)ウクライナ危機の影響

こうした半導体不足に拍車をかけるとして危惧されているのが、ウクライナ危機による影響です。半導体の製造に使われる、ネオンやクリプトン、キセノンといった希ガスやレアメタルの一部はロシアやウクライナから供給されているため、サプライチェーンへの影響が懸念されています。

特にネオンガスに関しては世界の需要の7割をウクライナが担っているとされています。実際に過去には、2014年のロシアのクリミア併合の際にネオンガスの価格が6倍ほどに跳ね上がったことがありました。また、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシアとウクライナのネオンガスのサプライチェーンは寸断されているといわれています。

ただし、ウクライナからの供給リスクを踏まえて、ロシアによる侵攻前に関係企業が在庫の確保を行っていたことから、現時点では影響は顕在化していません。しかし、軍事侵攻の長期化によるサプライチェーンへの影響は引き続き懸念されるでしょう。

3.半導体不足はいつまで続くのか?解消はいつか?

製造業などに大きな影響をおよぼしている半導体不足はいつまで続くのでしょうか? 専門機関や半導体メーカーでは、2022年から半導体不足の解消へ向かうとの見通しが大半を占めています。

2021年5月11日にガートナーが発表した半導体市場の見通しによると、2022年第2四半期から解消に向かうことが見込まれています。

プラス材料となるのは、多くの半導体メーカーが生産ラインの増強を表明していることです。2022年夏から稼働する生産ラインもあるほか、半導体不足を警戒した商社が二重発注したものは2022年春頃から入荷されます。

ただし、半導体の需要は引き続き世界的に増加していることや、新たな変異株の出現による新型コロナウイルスの感染拡大が生産体制へ影響しサプライチェーンの混乱を招くリスクも懸念されます。断続的とはいえ、2022年も半導体不足が継続する可能性は否めず、不確実性のある状況が続くことも考えられます。

このほかにも、半導体のチップ不足は2021年の第3四半期、あるいは第4四半期から解消へ向かいます。チップが製品になるまでの製造期間を考慮すると、2022年での供給が見込まれることも不足解消の理由として挙げられます。

米国の個別の事情をみていくと、2021年2月の寒波の影響による大幅な電力不足から、テキサス州では多くの電力を使用する半導体工場が一時的な創業停止に追い込まれました。この寒波の影響による操業停止も、半導体不足に追い打ちをかける出来事となりました。

とはいえ、世界的な大手半導体メーカーは、2022年には半導体不足は解消するとの見通しを示しています。半導体不足が解消する時期について、米国のAMD社は2022年下期、米国のNVIDIA社と英国のARM社は2022年の下期と発表しています。

4.日本国内の生産体制強化・TSMCの国内誘致

2020年10月に旭化成エレクトロニクスの宮崎県延岡市の半導体製造工場、2021年3月にルネサス セミコンダクタ マニュファクチャリングの茨城県ひたちなか市の半導体製造工場(那珂工場)で、相次いで火災が起きたことも半導体不足の遠因となりました。

ルネサスの那珂工場は2021年6月に生産能力を回復していますが、旭化成エレクトロニクスの半導体製造工場は損傷の激しさから復旧を断念しました。旭化成エレクトロニクスでは他社での代替生産を行い、2022年度以降に新工場に関する方針を決定する予定とされています。

こうした状況のなか、日本国内の半導体の生産体制の強化を図るため、経済産業省の主導により、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の工場を誘致するプロジェクトが加速しました。2021年10月にTSMCが日本国内で初となる工場を建設、2024年からの稼働を目指すことが発表されています。

TSMCの新工場は熊本県内にソニーグループと共同で建設され、画像センサー用や車載用などの半導体の製造が行われる見通しとなっています。そのため、高性能のスマートフォン用の半導体の供給に関しては課題が残る形です。

また、TMSCの新工場の設立には、1兆円程度の費用がかかるとされていますが、最大で半額を日本が補助するとみられています。

ただし、日本の補助金を用いて海外メーカーの工場を誘致することは、国民から集めた税金が海外資本に流出することと同義です。日本の半導体産業は、1980年代には世界で首位でした。しかし現状では1割程度まで低下し、先端半導体の製造を行う技術を持っていません。

TMSCに投じた資金を活かすには、先端半導体の製造を日本のメーカーに引き継いでいくことが望ましいですが、TSMCが撤退するリスクもまた懸念されるでしょう。

5.懸念される半導体の「2024年問題」

ここまで半導体不足についてみてきましたが、2024年には半導体が供給過剰に陥る「2024年問題」も懸念されています。半導体不足から、米国や中国では巨大半導体工場の建設による生産能力の拡大が推進され、過剰な設備投資により、2024年には半導体が供給過剰になる可能性が指摘されているのです。

米国、中国ともに、国内に統合的なサプライチェーンを構築することが目的です。米国では中国との貿易摩擦によって発注先を台湾の企業に切り替えたところ需要に対応しきれなかったことから、政府の補助金によって国内の生産拠点を増やす施策をとっています。

世界的な半導体不足によって半導体メーカーは値上げが可能となり、2022年までは半導体価格の高騰が続くとみられています。しかし、供給過剰となることで仕入れ側の大手メーカーを中心に価格の引き下げを求める動きが起こり、価格が下がることも見込まれています。また、中国は補助金の投入によって世界シェアの拡大を目指しているため、採算を度外視した販売戦略をとり、半導体の低価格化の一因となることも考えられます。

その一方で、半導体を搭載する製品の増加から、供給過剰の心配はないとする見方もあります。電気自動車の普及やADAS(先進運転支援システム)、自動運転技術の発展、モノがインターネットにつながるIoT機器の普及、あるいは工場での産業用ロボット・協業ロボットの普及など、今後、ますます半導体が必要とされる分野は多岐にわたると見られているためです。



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