豊かで細やかな季語(その3「夏」)新茶・御祓・日除け・赤富士など

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茶摘み

私は外国語学習としては英語とドイツ語を習いましたが、必ずしも上達したとは言えません。

欧米欧米人には今でもアジア系民族への人種差別意識が根強くありますが、彼らから英語で揶揄されても岡倉天心のように、当意即妙に英語で応酬することは私にはできません。

語学の天才か帰国子女でもない限り、英語の微妙なニュアンスまで体得することは至難の業です。

我々日本人としてはそんな無理なことに挑戦するよりも、俳句の季語のような豊かで細やかな日本語、美しい日本語をもっと深く知るほうがよほど易しいし、気持ちを豊かにしてくれると思います。

これまでにも、「四季の季節感を表す美しい言葉(その1「春」)」「四季の季節感を表す美しい言葉(その2「夏」)」「四季の季節感を表す美しい言葉(その3「秋」)」「四季の季節感を表す美しい言葉(その4「冬」)」などで多くの季語をご紹介して来ましたが、まだまだ美しい季語があります。

三回目は「夏」の季語をご紹介します。

・新茶(しんちゃ)

お茶は年四回摘み取られますが、その年の最初に摘み取られるお茶を新茶と言います。「一番茶」であり、「走り茶」とも言います。四月の終わりから五月中頃までです。香りはよく、おいしいお茶で、静岡茶や宇治茶が有名です。

<子季語>走り茶、古茶、陳茶、茶詰

<例句>新茶汲むや終りの雫汲みわけて(杉田久女

・暗闇祭(くらやみまつり)

深夜、暗黒の中で行われる祭り。東京都府中市の大国魂 (おおくにたま) 神社の例大祭、京都府宇治市の県 (あがた) 神社の祭りなどが有名です。

<例句>頬冠りくらやみ祭戻りなる(上林白草居)

・桐の花(きりのはな)

桐の花

初夏、淡い紫色の花を鈴なりに咲かせます。葉が出る前に咲くので遠くからでも目立ちます。清楚な感じの花で、畑や庭、山地などに見られます。夏の訪れを感じさせる花です。

私のふるさとの高槻市でも美しい桐の花が見られます。

<子季語>花桐

<例句>大空やみなうつむいて桐の花(原 石鼎)

・朴の花(ほおのはな)

朴の木の花

初夏、高い朴に咲く九弁の白い大きな花で芳香があります。大きな葉に乗るように咲くので、下から見上げただけでは見えないことが多いです。「卯の花(うのはな)」などとともに、夏の訪れを象徴する花です。

<子季語>厚朴の花、朴散華

<例句>一瓣散り一瓣朴のほぐれゆく(河東碧梧桐

・泰山木(たいさんぼく)

タイサンボク・泰山木

明治初期に米国より渡来し、白木蓮(はくもくれん)に似た純白の大きな花を初夏に咲かせる花木です。ブーケに似た蕊を中心に、天に向かって甘い芳香を放って開きます。モクレンやコブシと同じモクレン科の常緑樹であり、日本の樹木の花としては最大で、直径五十センチにもなります。

<子季語>大山木、泰山木蓮(たいさんもくれん)

<例句>改築に残す泰山木の花(稲畑汀子)

・えごの花

エゴノキ

山野に自生する落葉高木です。五月から六月頃、枝先に白い小鈴のよ うな五弁花が群れ咲きます。地面に散った様も美しく風情があります。

<子季語>山苣の花、えご

<例句>えごの花一切放下なし得るや(石田波郷)

・明易(あけやす)

夏の夜の明けが早いことを言います。科学現象としては「短夜(みじかよ)」と同じですが、短夜は夜が短いことをいうのに対して、明易は、明け急ぐ夜を嘆く思いが勝ります。春分を境に一日一日昼の時間が長くなり、夏至にいたってそれが最長になります。場所にもよりますが、早いときで午前四時頃には白々としてきます。農作業などをするによく、早起きが楽しい頃です。

<子季語>明易し、明やす、明早し、明急ぐ

<例句>足洗ふてつい明け易き丸寝かな(松尾芭蕉

・鮴(ごり)

ゴリ

一般にハゼ類の俗称です。霞ヶ浦付近ではゴロと呼びます。琵琶湖水系ではヨシノボリ、高知・和歌山ではチチブ、金沢ではカジカを指します。金沢のゴリ料理は有名です。

<子季語>石伏魚(ごり)

<例句>のき端出て花を仰ぐや鮴の宿(高野素十)

余談ですが、「ごり押し」の語源はこの「鮴」です。

・郭公(かっこう)

郭公・カッコウ

初夏、南方から日本に渡って来る鳩よりやや小形の鳥です。明るい林や草原で「カッコー、カッコー」と鳴きます。江戸期によく用いられた「閑古鳥(かんこどり)」という名は、鳴声ののどかさによるものであり、「かっこうどり」の変化したものでもあります。

<子季語>閑古鳥

<例句>あるけばかつこういそげばかつこう(種田山頭火

なお、「郭公」とよく似た鳥に「ほととぎす」がいます。鳥類学的には「郭公」は「ほととぎす」と同じく、カッコウ目カッコウ科の鳥で、どちらも5月半ばに南方から渡来して、秋にまた南方へ去る夏鳥で、卵を他の鳥の巣に「托卵(たくらん)」する習性も同じです。ただし、 鳴き声は全く異なります。

ところで、「ほととぎす」は異称・異名がはなはだ多く、漢字では、時鳥・子規・不如帰・杜鵑・山時鳥・杜宇・蜀魂・田鵑など50近くも書き方があるそうです。

俳句では、「ほととぎす」に「郭公」という字を当てている古句が多く、現在の「かっこう」は「閑古鳥」と詠まれていました。これは大正時代まで続いていたようです。

・御祓(みそぎ)

茅の輪くぐり

陰暦六月晦日、神社で行われる神事です。人の罪や穢れを祓うものです。夏の疫病などの災いを逃れ、無事を祈願します。宮中では古くから6月と12月に行いましたが、現在では、6月30日に行うことが多くなっています。「茅の輪潜り(ちのわくぐり)」や「形代(かたしろ)」を流したりします。

<子季語>禊(みそぎ)、御祓川(みそぎがわ)

<例句>吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな(松尾芭蕉)

・日除(ひよけ)

暑い日光を遮るために店先などに白い布や簀などを張りめぐらしたものです。人間だけでなく商品などが強力な紫外線で傷むのを防ぐ目的もあります。最近は街角のカフェや遊覧船などにカラフルでしゃれた日除も用いられ、見ていて楽しいものです。

<子季語>日覆(ひおおい)

<例句>日除して青田に沈む小家かな(前田普羅)

・赤富士(あかふじ)

夏の朝、朝焼けによって赤く見える富士をいう。葛飾北斎をはじめとした画家が、その美しさに魅せられ多くの「赤富士」の絵を残しています。

葛飾北斎赤富士赤富士の写真

<例句>雲の間に赤富士覗きはじめけり(安原葉)

・泥鰌鍋(どじょうなべ)

鰌鍋・どじょうなべ

割いた泥鰌、あるいは一匹ものの泥鰌を笹がきにした牛蒡と一緒に煮て、卵で閉じたものが一般的です。泥鰌も牛蒡も卵も栄養価が高く、夏の乗り切るにはもってこいの鍋です。

「鍋」と言うので冬の季語と勘違いしがちですが、夏の季語です。

<子季語>泥鰌汁、柳川鍋(やながわなべ)

<例句>くらくらと煮えかへりけり鰌汁(村上鬼城)

・百日紅(さるすべり)

百日紅

梅雨明けごろから九月末まで咲き続ける木の花です。「百日紅(ひゃくじつこう)」の名は、百日ものあいだ咲きつづけることに由来します。花の色は紅のほかに白、紫もあります。樹幹の肌が滑らかで、「猿も滑る」ところからこの名があります。

<子季語>百日紅(ひやくじつこう)、紫薇、怕痒樹、くすぐりの木、白さるすべり

<例句>散れば咲き散れば咲きして百日紅(加賀千代女

・葭切(よしきり)

ヨシキリ

夏、水辺の葦の茎に止まって、「ぎょっぎょっ」と大きな声で鳴く鳥です。鳴声から行々子(ぎょうぎょうし)とも呼ばれます。

<子季語>行々子、葭雀、大葭切、小葭切、蘆雀、麦熟らし

<例句>行々子大河はしんと流れけり(小林一茶

・走馬灯(そうまとう)

走馬灯

箱型の木枠の内側に薄い紙か絹を貼り、中に人や動物、草木などを切り抜いた黒紙の筒をたて、中心に蝋燭を立てたものです。熱で上昇気流が生じ、切り抜きの筒がまわり、影絵が走る様に見えます。軒先などに吊るし夏の夜を楽しみます。

<子季語>回り灯籠(まわりどうろう)

<例句>走馬燈灯して売れりわれも買ふ(杉田久女)

・虫送り(むしおくり)

虫送り・季語

農作物、特に稲作に害をなす蝗などの害虫を追い立て追い払う呪術(じゅじゅつ)行事です。松明(たいまつ)を振るって追ったり、鉦(かね)・太鼓を打ち鳴らしたり、実盛(さねもり)と呼ぶわら人形を担いだりして、川や村境などへ追い込みました。

<子季語>田虫送り(たむしおくり)、稲虫送り(いなむしおくり)・虫追い(むしおい)、虫供養(むしくよう)、実盛送り(さねもりおくり)、実盛祭(さねもりまつり)

<例句>狩野川に沿うてのぼるや虫送り(高浜虚子

ちなみに、上に出てきた「実盛と呼ぶわら人形」や「実盛送り」「実盛祭」の語源となった「実盛虫」は、「浮塵子(うんか)」という稲の害虫の異名です。

(*)「実盛虫」の名前の由来

「平家物語」でも知られる平安時代末期の平氏武将の斎藤実盛(斎藤別当実盛)は、「篠原の戦い」(1183年)のさなか、乗っていた馬が田の稲株につまずいて倒れたところを源氏方の敵兵に付け込まれ、討ち取られてしまいました。その恨みゆえに、「稲虫」と化して稲を食い荒らすようになったという言い伝えによるものです。

西日本では、実盛の霊を鎮めて稲虫を退散させるという趣旨から、「虫送り」(農作物につく害虫を駆除し、その年の豊作を祈願する呪術的行事)のことを「実盛送り」または「実盛祭」と呼んでいます。

余談ですが、老年にもかかわらず最後まで奮戦した斎藤実盛を偲んで松尾芭蕉が詠んだ俳句が「むざんやな 甲(かぶと)の下の きりぎりす」です。

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