日本では、フランス料理や中華料理、インド料理などさまざまな国の料理を楽しむことができます。しかし、定番の洋食メニューや中華料理、人気のスイーツのなかには、海外から来た料理だと思っていたものが、実は「日本発祥の料理」(日本在住の外国人が考案した料理も含む)だったということが多くあります。
1.スパゲッティナポリタン
「スパゲッティナポリタン」は、「スパゲッティ」を使っているので「ナポリ風のイタリア料理」と思っている方も多いのではないでしょうか?
しかしこれは、「日本発祥のパスタ料理」で、茹でたスパゲッティをタマネギ、ピーマン、ハムなどの具材と共に炒めトマトケチャップで調味された「洋食」です。類似の名を持つイタリア料理の「スパゲッティ・アッラ・ナポレターナ」とは異なります。
「スパゲッティナポリタン」は、第二次世界大戦後に日本の喫茶店や洋食店で広く提供されていました。
私も喫茶店で軽い昼食をとる時は、よく「スパゲッティナポリタン」を注文したものです。
ちなみに、イタリア料理の「スパゲッティ・アッラ・ナポレターナ」とは、ニンニクの香りを移したオリーブ油にトマトとバジルなどを加えて煮込み、裏ごししたソースをスパゲッティに絡めた料理です。
ナポレターナのソースはトマトソース(ポモドーロソース)とは異なり、刻みタマネギ、セロリ、ローリエが入り、バジルは必ずしも入りません。
戦後、横浜の「ホテルニューグランド」が生トマトを使った「スパゲッティーナポリタン」を提供したのが発祥と言われています。
「ホテルニューグランド」第4代総料理長の高橋清一は、「スパゲッティナポリタンは、第2代総料理長の入江茂忠が戦後に考案した」と述べています。
ホテルニューグランドは、1945年(昭和20年)8月30日のダグラス・マッカーサーの来日直後から7年間GHQに接収されていました。入江は進駐軍の兵士がケチャップで和えただけの具なしスパゲッティを食べているのを見て、ケチャップだけでは味気ないと考え、生トマト、タマネギ、ニンニク、トマトペースト、オリーブオイルでトマトソースを作り、炒めたハム、ピーマン、マッシュルームを加えてソースで和えたスパゲッティを考案したそうです。
高橋清一によると、「ナポリタン」という命名は、中世のころナポリの屋台で庶民向けにトマトソースをかけたスパゲティが売られていたことをヒントにしたものだということです。
ケチャップを使ったナポリタンは、昭和21年横浜に創業した洋食店「センターグリル」が始まりとも言われています。
2.天津飯(てんしんはん)
先日あるテレビ番組で、中国・天津市出身の中国語講師・段文凝さん(下の写真)が「天津には、天津甘栗も天津飯もない」と話したので、出演者は驚いていましたが、私も驚きました。
中華料理店でおなじみの「天津飯」。「天津丼(てんしんどん)」、「かに玉丼(かにたまどん)」という名でも呼ばれます。
その名前から中国の天津市に由来する料理と思う人も多いのではないでしょうか。しかし、実は中国には天津飯に該当するような料理はなく、日本で誕生した料理だったのです。
発祥のお店については、浅草で1910年に創業した中国料理店「来々軒」という説と、大阪の「大正軒」の山東省出身の店主が、天津の食習慣で「蓋飯(お皿に盛ったご飯の上におかずをのせたもの)」を参考に考えたという説があります。
3.中華丼
ご飯に八宝菜をのせた「中華丼」も日本が発祥の料理です。中国には似たようなあんかけご飯の料理はたくさんありますが、中華丼と呼ばれる料理は存在しません。「中華丼」の他に「中華飯」や「八宝飯」、「五目あんかけご飯」などと呼ばれることもあります。
発祥のお店や考案した人について正確なことは分かっていないそうですが、天津飯と同様に浅草の来々軒という説もあります。また、文献に初めて登場したのは昭和3年発刊の本と言われており、中華丼としてレシピが紹介されています。
4.エビチリ
「エビチリ」と略して呼ばれることの多い人気メニュー「エビのチリソース」(エビのチリソース煮)も日本生まれの中華料理です。
「日本における四川料理の父」と言われる四川飯店の創業者の陳建民氏が、乾焼蝦仁(エビを辛いスープで炒めた料理)をヒントに考案したと言われています。
当時の日本人は、豆板醬の辛さに慣れていなかったため、ケチャップやスープなどを加えて辛みを抑えて作ったそうで、現在のレシピは陳建民氏が晩年になって完成させたものと言われています。
5.オムライス
オムレツはフランス料理に由来すると言われますが、チキンライスを卵で包んだ料理「オムライス」は日本発祥の料理です。名称もフランス語のオムレットと英語のライスを組み合わせた和製英語です。
発祥には諸説ありますが、現在のスタイルに近いものを最初に出したのは、大阪心斎橋の「北極星」と言われています。また、それより前に東京の「煉瓦亭」で「ライスオムレツ」というメニューがあったそうですが、こちらは溶き卵に白米やみじん切りの具を混ぜて焼いたものであったそうです。
6.エビフライ
洋食の人気メニューである「エビフライ」も、海外からきた料理ではなく日本で誕生しました。
発祥については、諸説ありはっきりとはわかりませんが代表的なものを紹介すると、東京八丁堀にあった「松の家」が明治18年の新聞に出した広告に「フラヰ老海」という文字が登場しているという説や、明治28年に出版された「家庭叢書 第8巻 簡易料理」にエビフライが載っているという説があります。
また明治33年に、東京銀座の洋食屋「煉瓦亭」で豚カツ・メンチカツが人気を博したことから着想を得て、同様のフライ料理(カツ料理)として考案されたとする説や、明治時代にカツレツと天ぷらから考案されたとする説、西洋料理の魚のフライと、江戸料理のてんぷらが結びついてできたとする説などもあります。
なお、昭和37年には冷凍食品のエビフライも発売され、より手軽に調理できるようになりました。
7.ドリア
「ドリア」も「スパゲッティナポリタン」と同様に、「ホテルニューグランド」が発祥で、このホテルで初代料理長を務めたサリー・ワイル氏が考案した料理です。
ある日、サリー・ワイル氏が宿泊客から「体調がよくないので、何かのどごしの良い料理を」とリクエストされて作ったのが、バターライスにエビのクリーム煮を乗せて、ホワイトソースとチーズをかけてオーブンで焼いた料理でした。その後「シュリンプ・ドリア」としてレギュラーメニューになったと言われています。
8.冷やし中華
「冷やし中華」も日本発祥の料理で、宮城県仙台市にある中華料理店の「龍亭」で昭和12年に出されたのは初めといわれています。
当時は現在のようにエアコンなどが無かったため、夏には脂っこいイメージのある中華料理は敬遠されがちでした。そこで店主は、水で冷やした麺と野菜たっぷりの具材を醤油と酢をベースにしたあっさりとしたスープで食べる「涼拌麺(リャンバンメン)」を考案したのです。
上海料理にも「涼拌麺」がありますが冷やし中華とは大きくスープが異なります。
9.アイスコーヒー
料理ではありませんが「アイスコーヒー」も、日本が発祥の飲み物と言われています。
日本人がコーヒーを冷やして飲むようになったのは明治時代で、石井研堂の書いた「明治事物起源」に明治24年、東京神田の氷屋に「氷コーヒー」というメニューがあることを紹介しています。その後大正時代に入ると「冷やしコーヒー」の名前で喫茶店のメニューに登場するようになり普及しました。
海外では1840年代にアルジェリアでコーヒーに水や氷を入れて飲んでいたようですが、欧米諸国では流行らなかったようです。
2001年9月11日に「アメリカ同時多発テロ事件」が発生しましたが、私たち夫婦はそのちょうど1年後の9月にヨーロッパ旅行に出掛けました。約10日間でドイツ・スイス・フランスを巡る「ロマンティック街道」ツアーでした。
ドイツのハイデルベルク・ローテンブルク・ノイシュバンシュタイン城、スイスの登山鉄道とユングフラウヨッホ、フランスのエッフェル塔・ルーブル美術館など見所満載でした。
その年は9月なのにヨーロッパも日本と同じくらい暑くて、パリのシャンゼリゼ通りの喫茶店で、「アイスコーヒー」を注文したところ、怪訝な顔をされました。
そして持ってこられたのが、「ホットコーヒー」と「氷」でした。最初「アイスクリームとコーヒー」と勘違いされそうだったので「アイス」と念押ししたつもりでしたが、このような結果となりました。
ヨーロッパでは、今でも「コーヒーはホット」に決まっているようです。しかし、暑い時は「アイスコーヒー」の方が絶対美味しいと私は思います。ただ、ネット上の記事などを見ますと、最近(2000年頃から)はアメリカなどでは「アイスコーヒー」が飲まれるようになったそうです。
これは、スターバックス、ネスカフェ、マクドナルドなどの世界レベルのコーヒーチェーン店がアイスコーヒーを他の国でも提供するようになったことで、他の国でもアイスコーヒーの認知度が向上し、世界中に知れ渡るようになったそうです。
10.クリームシチュー
「クリームシチュー」とは、じゃがいもやにんじん、たまねぎに肉を加えて牛乳や生クリームで煮込んだ料理です。そもそもシチュー自体が、料理として確立したのは16世紀後半から17世紀前半のフランスと言われています。しかし西洋には、牛乳や生クリームを使って、さらに小麦粉でとろみをつけたシチューはありません。
日本でクリームシチューが本格的に普及したのは戦後の学校給食で、カルシウム不足を補うために脱脂粉乳を使った「白シチュー」が定番メニューになってからです。
我々団塊世代は、小学校の給食でまずい「脱脂粉乳」を嫌というほど飲まされました。それがトラウマになったせいか、私は今でもクリームシチューが嫌いです。
11.コロッケ
「コロッケ」は、フランス料理の前菜料理である「クロケット」を、日本人に合うようにアレンジしたのが始まりと言われています。
「一般財団法人日本コロッケ協会」のホームページによると、クロケットが日本に伝えられたのが明治5年で、当時の日本では乳製品の加工技術が普及していなかったためジャガイモを使ったポテトコロッケが発明されたそうです。
そして、従来のクロケットはクリームコロッケ、ジャガイモを使ったものはポテトコロッケと日本独自のメニューとして普及しました。
12.石焼ビビンバ
専用の石鍋を高温に熱して、そこにご飯やナムル、キムチなどを入れて焦がしながら食べる人気の韓国料理「石焼ビビンバ」も、実は日本で誕生した料理だという説があります。
諸説あるのですが、1970年頃に大阪の在日韓国人が営む韓国料理店で考案されたという説が有力です。
しかし、韓国の明洞にも石焼ビビンバ発祥を名乗る「全州中央会館 明洞本店」があり、多くの観光客が訪れています。本当の発祥が日本なのか韓国なのか、真偽のほどはわかりません。
13.ジンギスカン
北海道のご当地グルメとして有名な羊の肉を焼いた「ジンギスカン」。ジンギスカンを焼く時には、中央部が盛りあがった鉄製のジンギスカン専用の鍋が使われます。羊の肉自体は、広く海外で食べられており、ジンギスカンは中国満族料理の烤羊肉(カオヤンロウ)が起源であるとする説が有力です。
「成吉斯汗鍋」(じんぎすかんなべ)という言葉が登場したのは、大正15年の「素人に出来る支那料理」で、中国在住の日本人が命名したものとされています。
14.モンブラン
フランス料理のデザートとしても人気の「モンブラン」ケーキ。このモンブランを日本で初めて提供したのは、東京の自由が丘にあるその名も「モンブラン」というお店です。
このお店の初代店主が、フランス東部のリゾート地「シャモニー=モンブラン」で出会ったメレンゲベースのマロンケーキを参考に、オリジナルのモンブランを考案したのが始まりと言われています。
発祥の地であるフランスのモンブランは、日本のように黄色くないので、日本人に馴染みのあるモンブランは日本で誕生したと言えます。