前に「同音類義語の使い分け(その1)事典と辞典と字典、製作と制作、更生と更正」「同音類義語の使い分け(その2)食糧と食料、生育と成育、特徴と特長、稼働と稼動」「同音類義語の使い分け(その3)発憤と発奮、暗唱と暗誦と諳誦、相違と相異」「同音類義語の使い分け(その4)重体と重態、不気味と無気味、開放と解放」「同音類義語の使い分け(その5)意思と意志、追求と追及と追究、共同と協同と協働」「同音類義語の使い分け(その6)体制と態勢と体勢、実態と実体、配布と配付」という記事を書きました。
確かに「同音類義語」の使い分けについては、悩んだり迷ったりする場合が多いですね。しかし、「同音類義語」の中には、限りなく「同音同義語」に近いものもあります。
語源的な意味などから、ニュアンスの違いはあっても、多くの人にとっては目くじらを立てるほどの差異がないのであれば、どちらかに統一してほしいというのも人情です。
1.「法令用語改正要綱」による用語の統一
そこで「同音同義語」については、「法令用語改正要綱」で、用語の統一がなされてきています。
具体例としては次のようなものがあります。
・改定と改訂は「改定」に統一
・規制と規正と規整は「規制」に統一
・規律と紀律は「規律」に統一
・経理と計理は「経理」に統一
・作成と作製は「作成」に統一
・状況と情況は「状況」に統一
(ただし、「常況」は、常の状況の意味であり、「同音異義語」)
・侵害と浸害は「侵害」に統一
・提示と呈示は「提示」に統一
・定年と停年は「定年」に統一
・配布と配付は「配布」に統一
・破棄と破毀は「破棄」に統一
・表示と標示は「表示」に統一
・総括と総轄は「総括」に統一
2.常用漢字表と法令における漢字使用
「常用漢字表と法令における漢字使用」については、参議院法制局が次のように解説しています。
法令における漢字使用については、平成23年に大きな変化がありました。漢字使用の目安である「常用漢字表」が平成22年11月30日に改定され、公用文の漢字使用等のルールも新しくなったことに伴い、内閣法制局が新しい「法令における漢字使用等について」を定めて、平成23年からはこの新しい基準に沿って法令が作られているのです。この常用漢字表の改定は情報化時代に対応するために行われたもので、「鬱」といった手書きで書くのが難しい漢字も常用漢字とするなどの変更がありました。
では、法令における漢字使用については、具体的にどのような変化があったのでしょうか。一番分かりやすいのは、新しく常用漢字に加えられた漢字が法令で用いられる場合です。例えば、「禁錮」は、従来は「禁錮」とルビを付す必要がありましたが、「錮」の字が常用漢字に加えられたため、今では「禁錮」と漢字だけでよいことになっています。また、目的規定等でよく用いられる「○○にかんがみ」という表現は仮名で書かれていましたが、「鑑」の字訓に「かんが(みる)」が加えられたため、「○○に鑑み」と漢字で表記することになっています。
その一方で、引き続き仮名で表記することとされたものもあります。例えば、「他」という漢字には、従来からある「た」という字音に加えて、新たに「ほか」という字訓が加えられたのですが、法令では「△△に定めるもののほか」というように従来どおり仮名で表記することとされています。
このほか、少し専門的な話になりますが、昭和29年に内閣法制局が定めた「法令用語改正要領」というものにも漢字使用の基準等が定められていましたが、実情に合わないものもあり、廃止されて平成22年の「法令における漢字使用等について」の中に取り込まれました(例えば、「監護」は「監督保護」に改めるべきとされていましたが、最近の法令でも「監護」が使われており、「監督保護」に改めるべきとの基準はなくなりました。)。
なお、法令における漢字使用の基準が新しくなっても、今ある全ての法律の表記が突然変わってしまうというわけではありません。新しい法律はもちろん全体が新しい基準に従っていますが、既存の法律の一部を改正する場合には、改正に関係する部分だけが新しい基準に従うことになります。そのため、同じ法律の中に古い表記と新しい表記が混在するということが生じます。例えば、中小企業基本法(昭和38年法律第154号)において、「○○にかんがみ」という表現について、第3条第1項では「かんがみ」と表記されていますが、同条第2項では「鑑み」と表記されており、同じ条の中でも混在が生じています。
実際に法律を起案している際に表記の扱いが変わった漢字を使うときがあると、法令における用語も時代によって変化するものであるということを実感します。