前に「ギリシャ神話・ローマ神話が西洋文明に及ぼした大きな影響」という記事や、ギリシャ神話に登場する「オリュンポス12神」やその他の男神や女神を紹介する記事を書きましたが、日本人としては日本神話である『古事記』や『日本書紀』に登場する神々についても知っておきたいものです。
なお、『古事記』や『日本書紀』については、「古事記は日本最古の歴史書で神話・伝説も多い。日本書紀は海外向け公式歴史書」「古事記の天地開闢神話をわかりやすく紹介!ただし荒唐無稽で矛盾も多い!」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。
今回はまず『古事記』に登場する神々について、わかりやすくご紹介したいと思います。
1.「別天津神(ことあまつかみ)」(独神五柱)
「別天津神」とは、『古事記』において、天地開闢(てんちかいびゃく)の時にあらわれた五柱の神々です。
「神世七代(かみのよななよ)」、「天津神(あまつかみ)」・「国津神(くにつかみ)」、「三貴神(みはしらのうずのみこ、さんきし)」(「地神五代(ちじんごだい)」)などに先行する神々です。
『古事記』上巻の冒頭では、天地開闢の際、高天原(たかまがはら)に以下の三柱の神(造化の三神という)が、いずれも独神(ひとりがみ)として成って、そのまま身を隠しました。
- 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ):至高の神
- 高御産巣日神(たかみむすひのかみ):天の生産・生成の「創造」の神。神産巣日神と対になって男女の「むすび」の男を象徴する神
- 神産巣日神(かみむすひのかみ):地の生産・生成の「創造」の神。高御産巣日神と対になって男女の「むすび」の女を象徴する神
その次に、国土が形成されて海に浮かぶくらげのようになった時に以下の二柱の神が現われました。この二柱の神もまた独神として身を隠しました。
- 宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ):活力の神
- 天之常立神(あめのとこたちのかみ):天の永久性を象徴する神
これら五柱の神を、天津神の中でも特別な存在として「別天津神」と呼びます。別天津神の次に神世七代の神が現れました。
2.「神世七代(かみのよななよ)」
「神世七代」とは、『古事記』において、天地開闢の時に生成した7代の神の総称、またはその時代のことです。
「天神七代(てんじんしちだい)」とも言い、「陽神(男神)」と「陰神(女神)」があります。
『古事記』では、別天津神の次に現れた十二柱七代の神を「神世七代」としています。最初の二代は一柱で一代、その後は二柱で一代と数えて七代としています。
- 国之常立神(くにのとこたちのかみ、別天津神の5代目)
- 豊雲野神(とよぐもぬのかみ)
- 宇比地邇神(うひぢにのかみ)・須比智邇神(すひぢにのかみ)
- 角杙神(つぬぐいのかみ)・活杙神(いくぐいのかみ)
- 意富斗能地神(おおとのぢのかみ)・大斗乃弁神(おおとのべのかみ)
- 淤母陀琉神(おもだるのかみ)・阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)
- 伊邪那岐神(いざなぎのかみ)・伊邪那美神(いざなみのかみ)
(左側が男神、右側が女神)
3.「イザナギ」と「イザナミ」
(1)「イザナギ」(伊邪那岐神)
「イザナギ」(または「イザナキ」)は、日本神話に登場する男神です。『古事記』では伊邪那岐神、伊邪那岐命、『日本書紀』では、伊弉諾神と表記されます。イザナミ(伊邪那美、伊弉冉、伊耶那美、伊弉弥)の夫です。
「アマテラス」や「スサノオ」等多くの神の父神であり、神武天皇の7代先祖とされています。
「イザナギ」は、天地開闢において神世七代の最後に「イザナミ」とともに生まれました。そして高天原の神々に命ぜられ、海に漂っていた脂のような国土を固めるべく、天の浮き橋から天沼矛(あめのぬぼこ)で海をかき回し、出来上がった淤能碁呂島(おのごろじま/おのころじま)にて「イザナミ」と結婚しました。
国産み・神産みにおいて「イザナミ」との間に日本国土を形づくる多数の子を儲けます。その中には淡路島をはじめ「大八洲(おおやしま)」(本州・四国・九州等)の島々、石・木・海(「大綿津見神(おおわたつみのかみ)」)・水・風・山(「大山津見神(おおやまつみのかみ)」)・野・火など森羅万象の神が含まれます。
「イザナミ」が、火の神である「火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)」(軻遇突智)を産んだために陰部に火傷を負って亡くなりました。「イザナギ」が「イザナミ」の遺体にすがって泣いていると、彼の涙から「泣沢女神(ナキサワメ)」が生まれました。
その後「イザナギ」は「火之迦具土神」を殺し(その血や死体からも神が生まれる)、出雲と伯伎(伯耆)の国境の比婆山(ひばやま)に埋葬しました。なお日本書紀には「イザナミ」の生死や埋葬場所について異伝があります。
「イザナギ」は、「イザナミ」に逢いたい気持ちを捨てきれず、黄泉国(よみのくに)まで逢いに行きました。黄泉の火で調理した料理を食べてしまった「イザナミ」は最初こそ夫の勧めを断りますが、やはり愛しい夫が逢いに来てくれたことだから自分も帰りたいと考え、黄泉津神たちと話し合うことにしますが、その間は「決して覗いてはいけない」と言いました。
しかしいつまで経っても「イザナミ」が帰って来ないため、「イザナギ」は妻との約束を破ってしまいます。
そこで見てしまったのは、腐敗して蛆にたかられ、八雷神(やくさのいかづちがみ)に囲まれた最愛の妻の姿でした。その姿を恐れて「イザナギ」は地上へ向かって逃げ出してしまいます。
追いかけてくる八雷神、予母都志許女(よもつしこめ)に髪飾りから生まれた葡萄、櫛から生まれた筍、黄泉の境に生えていた桃の木の実(意富加牟豆美命、おほかむづみ)を投げながら難を振り切りました。
最後に「イザナミ」が追って来ましたが、「イザナギ」は黄泉国と地上との境である黄泉比良坂(よもつひらさか)の地上側出口を千引きの岩とされる大岩で塞ぎ、「イザナミ」と完全に離縁しました。
この後、「イザナミ」は黄泉の主宰神となり、黄泉津大神、道敷大神と呼ばれるようになりました。
岩の向こうから「イザナミ」が「お前の国の人間を1日1000人殺してやる」と言うと、「イザナギ」は「それならば私は産屋を建て、1日1500の子を産ませよう」と言い返しました。
その後、「イザナギ」が黄泉国の穢(けが)れを落とすために「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原(檍原)」で禊(みそぎ)を行なうと様々な神が生まれました。
最後に、左眼から天照大御神(あまてらすおおみかみ)、右眼から月読命(つくよみ/つきよみ)、鼻から建速須佐之男命(すさのお/すさのを)の三貴子(みはしらのうずのみこ、さんきし)が生まれました。「イザナギ」は三貴子にそれぞれ高天原・夜・海原の統治を委任しました。
しかし、「スサノオ」が母親のいる「根之堅州国(ねのかたすくに)」へ行きたいと言って泣き止まないため「スサノオ」を追放し、自身は淡道の多賀の幽宮(かくれみや)に篭りました。
(2)「イザナミ」(伊邪那美神)
皇室の先祖」とされています。
は、日本神話の女神で神世七代の7代目(妹)で、イザナギの妻です。別名 黄泉津大神、道敷大神。神話においては「天地開闢において神世七代の最後にイザナギとともに生まれました。イザナギとは夫婦となり、オノゴロ島におりたち、国産み・神産みにおいてイザナギとの間に日本国土を形づくる多数の子をもうけました。そして淡路島・隠岐島から始めてやがて日本列島を生み、更に山・海など森羅万象の神々を生んだとされています。