日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.狐の牡丹/キツネノボタン(きつねのぼたん)
「キツネノボタン」とは、キンポウゲ科の多年草で、山野の湿地、田のあぜ、道端など普通に見られます。春から秋に黄色い五弁の花が咲き、花後に金平糖のような実ができます。有毒。
キツネノボタンの「ボタン」は、葉が牡丹(下の写真)に似ていることに由来します。
キツネが棲むような野原に生えることから「キツネノボタン」になったとも言われますが、そのような場所に限って生えるのではなく、どこにでも見られる雑草なので、この説は採用し難いものです。
花が黄色いことから「黄恒(キツネ)」とする説もありますが、他に「キツネ」と付く植物は、「キツネアザミ」が淡紅紫色、「キツネノカミソリ」は黄赤色と様々です。
「キツネ」と付く植物は、有毒であったり、味がきつくて食べられないものが多いため、「きつい」の「きつ」と考えられます。
「きつ」が「キツネ」となったのは、キツネに関連付けることで妖しく気味の悪い様を表したものか、同じ「きつ(動物の「キツネ」は「キツ」に「ネ」が添えられた名前と考えられています)」の音から結び付けられたものと思われます。
「狐の牡丹」は春の季語です。
2.金鳳花/キンポウゲ(きんぽうげ)
「キンポウゲ」とは、キンポウゲ科の双子葉植物の総称です。温帯・亜寒帯に分布しますが、有毒のものが多いので注意が必要です。「ウマノアシガタ(馬の足形)」の別名です。
キンポウゲは、漢名「金鳳花」の字音に由来します。
黄色い八重咲きの花を「金色の鳳(おおとり)」と形容したものです。
キンポウゲの花は小さく、「鳳」と呼ぶにはふさわしくないようにも思えますが、「鳳」は黄色い花に対する賞賛の意味を込めたものです。
「金鳳花」は春の季語です。
3.金盞花/キンセンカ(きんせんか)
「キンセンカ」とは、ヨーロッパ原産のキク科の一年草または越年草です。春、淡黄色・黄赤色などの頭花をつけます。
キンセンカは花が黄金色で、さかずき(盞)の形をしており、「盞の形をした金色の花」という意味から「金盞花」と名付けられました。
日本には江戸時代に中国から渡来したと言われていますが、キンセンカの別名「長春花」が室町時代の『文明本節用集』に出ていることから、それよりも早い時期に渡来していたと考えられています。
また、「唐」を冠して「唐金盞花」と呼ぶことからも、中国から伝わる以前に「金盞花」と呼ばれる花が存在していたと考えられます。
キンセンカの別名「長春花」は、花が春から数ヶ月に渡って咲くことからついた名で、「時知らず」とも呼ばれます。
「金盞花」は春の季語です。
4.鱚/キス(きす)
「キス」とは、スズキ目キス科の魚です。全長約30センチ。体形は筒型で細長く、後方は側扁します。
魚のキスと「接吻」を意味する「Kiss」は関係ありません。
キスは釣りの対象としても人気が高いですが、その理由のひとつは、日本各地の海岸で普通に見られ、比較的簡単に釣ることができるためです。
そこから、キスは「岸」の変化した語と考えられます。
古くは「キスコ」や「キスゴ」と呼び、現在でも全国各地で「キスゴ」と呼ばれます。
「キスコ」や「キスゴ」の「コ」や「ゴ」は名詞につく接尾語で、魚の場合は魚の総称として用いられます。
そのため、「岸の魚」の「キシコ」から「キスゴ(キスコ)」、「キス」に変化したと思われます。
その他、味が淡白なのことから「潔し」の転訛で「キス」になったとする説や、すぐに群れることから「帰す」を語源とする説もある。
「鱚」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・漁師等に かこまれて鱚 買ひにけり(星野立子)
・鱚添へて 白粥命 尊けれ(石田波郷)
・鱚釣や 青垣なせる 陸の山(山口誓子)
5.巾着(きんちゃく)
「巾着」とは、布や革などで作った、中に小物や金銭を入れる小さな袋のことです。口には紐が通してあり、その紐で口をくくります。巾着袋。江戸時代の俗語で「私娼」。
巾着の「巾」は、「頭巾(ずきん)」や「布巾(ふきん)」にも用いられる語で、「布切れ」の意味。
肌身に着けて携帯する布切れ(袋)なので、「巾着(巾着袋)」と言うようになりました。
巾着は、火打ち道具を入れた火打ち袋が変化したものといわれ、古くは金銭のほか、お守りや薬、印章なども入れられていました。
江戸時代には専門の巾着師によって、革やラシャ、高級織物などの華美なものが作られましたが、明治に入り、西洋の服が着られるようになったことや、がま口や財布が普及したことから廃れていきました。
娼婦が稼いだ金をこれに貯めていたから、また巾着に入る程度の金しか稼げない娼婦の意味から、江戸時代の俗語で「私娼」を指す言葉としても「巾着」は使われました。
6.雉/雉子(きじ)
「キジ」とは、キジ目キジ科の鳥です。日本の国鳥。オスは40センチ近い尾があるため全長80~100センチあり、暗緑色を主とした多彩な美しい色です。発情期にはケンケーンと大きな声で鳴きます。メスは黄褐色で、オスに比べ尾が短いため全長50~60センチ。
キジは、古名の「キギシ」がつづまったもので、平安時代から用いられるようになりました。
古名には「キギス」もありますが「キジ」よりも新しく、「キギシ」の方が古い名です。
「キギシ」や「キギス」の「キギ」は鳴き声です。
「シ」や「ス」は、カラス、ウグイス、ホトトギスなど鳥を表す接尾語「ス(シ)」で、朝鮮語に由来するといわれます。
キジの漢字「雉」は「隹(とり)」+「矢」で、真っ直ぐ矢のように飛ぶ鳥を表しています。
「雉子」とも表記されますが、「キギシ」や「キギス」の漢字として使われることが多いようです。
キジは、日本鳥学会によって、昭和22年(1947年)に国鳥に指定されています。
しかし、指定された理由のひとつに狩猟に好適ということもあり、他国のように手厚く保護されるのではなく、狩猟鳥獣に含められています。
「雉」は春の季語で、次のような俳句があります。
・父母の しきりに恋ひし 雉子の声(松尾芭蕉)
・うつくしき 顔かく雉の 距(けづめ)かな(宝井其角)
・兀山(はげやま)や 何にかくれて きじのこゑ(与謝蕪村)
7.きな臭い(きなくさい)
「きな臭い」とは、なんとなく怪しい。胡散臭いことです。
きな臭いの語源には、「きぬくさい(衣臭い・布臭い)」の転、「きのくさい(木の臭い)」の意味、「き」が「香」の意味など諸説あります。
きな臭いの類語に「うさん臭い」があるが、うさん臭いの「臭い」は「らしい」という意味であるのに対し、きな臭いの「臭い」は「におう」という意味そのままの「臭い」です。
本来の「きな臭い」の意味は、こげることが想定されていない紙や布などがこげた際に、こげた臭いがすることを表します。
料理をしている時の肉や魚など、こげることが想定される物がこげた場合には、「こげ臭い」を用います。
紙や布などがこげた臭いがするという意味から、きな臭いは、火薬の臭いがする意味にも使われ、戦争や事件などが起こりそうな気配がする際にも用いられるようになりました。
そして、想定外の物がこげた時に用いられる言葉であることや、戦争や事件が起こりそうな気配を言ったことから、なんとなく怪しいことにも「きな臭い」と言うようになりました。