日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.鼓舞(こぶ)
「鼓舞」とは、励まし気持ちを奮い立たせること、勢いづかせることです。
鼓舞は、鼓を打って舞を舞わせることが本来の意味です。
出陣の際に鼓を打ち鳴らし、舞を舞って士気を高めたことから、喜怒哀楽の感情に働きかけ、気持ちを奮い立たせることを「鼓舞」と言うようになりました。
2.孤軍重囲(こぐんじゅうい)
「孤軍重囲」とは、一人だけ孤立した状態のことです。
孤軍は、一人や少人数の孤立した軍隊のことです。
重囲は、いくえにも取り囲むことや、その囲みのことです。
一人だけ孤立した状態を、敵軍に完全包囲された孤軍にたとえて「孤軍重囲」といいます。
孤軍重囲は漢文に見られない四字熟語ですが、夏目漱石の『野分』(1907)に「高柳君は此園遊会に於て孤軍重囲のうちに陥ったのである」とあり、漱石による創作四字熟語と思われます。
3.狡い(こすい)
「こすい」とは、体裁よく他人を騙して、自分に有利になるよう振る舞うさまのことです。ずるい。欲深いさま。ケチである。
こすいの語源には、「こする(擦る)」と同根とする説があります。
これは、利益になることや都合がよくなることを擦り取るように、細かに考えたりするところからという説ですが、定かではありません。
こすいは方言として取り上げられ、特に大阪などの関西弁と言われることも多いですが、標準語で、使用する地域も関西に限らず、全国に点在しています。
これは人代名詞の「おら」と同じ現象で、元々は広範囲に使用されていましたが、徐々に使用しない地域が増えたことによるものです。
なお、静岡県で「小さい」の意味、関東で「少ない」や「足りない」の意味として使われている「こすい」は方言です。
4.木枯らし/凩(こがらし)
「木枯らし」とは、晩秋から初冬に吹く冷たい風のことです。
木枯らしは「木の葉落とし」とも呼ばれており、木の葉を吹きしおれさせ、枯木のようにするところからというのが定説です。
その他、木枯らしの語源には「コアラシ(木嵐)」が転じた説や、「コナラシ(木鳴)」の意味といった説もありますが、説得力に欠けます。
もうひとつの漢字「凩」は「凧」と同じく、国字(日本で作られた文字)です。
「木枯らし/凩」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・木枯や たけにかくれてし づまりぬ(松尾芭蕉)
・木がらしや 目刺にのこる 海の色(芥川龍之介)
・こがらしや しのぎをけずる 夜の声(小林一茶)
・海に出て 木枯帰る ところなし(山口誓子)
5.虎穴に入らずんば虎子を得ず(こけつにいらずんばこじをえず)
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは、危険を冒さなければ、功名や成功は得られないことのたとえです。
虎穴に入らずんば虎子を得ずの出典は『後漢書』の班超伝で、匈奴との戦いで危機に陥った際、後漢の班超が部下に言って勇気づけ、匈奴に突撃させた際の言葉に由来します。
危険を冒して虎穴(虎が棲む洞穴)に入らなければ、虎の子を捕獲することはできないことから転じたもので、「虎子」は「虎児」とも書きます。
功名や手柄の比喩として「虎子(虎児)」が使われているのは、大切にして手放さない物や、秘蔵の金品を「虎の子」と言うように、虎が子を大事に守り育てるところからです。