日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.七面鳥(しちめんちょう)
「七面鳥」とは、北アメリカ原産のキジ目キジ科の鳥です。肉は美味。欧米では肉用家禽として飼育され、クリスマスや収穫祭の料理などに用いられます。ターキー。
七面鳥は、頭から首にかけて皮膚が露出し、色が赤・青・紫などに変ります。
その姿がまるで七つの顔を持っているようであることから、「七面鳥」と名付けられました。
七面鳥はアメリカで家禽され、16世紀にヨーロッパにもたらされました。
日本には明治時代前期にオランダから移入されたといわれます。
新潟県では、気持ちの変わりやすい人を「七面鳥」と呼びます。
アジサイの別称を「七花」「七色花」「七変化」というように、新潟県や佐賀県ではアジサイを「七面鳥」と呼ぶところもあります。
これらは、七面鳥の皮膚の色が変わることにたとえた呼称です。
2.癪に障る(しゃくにさわる)
「癪に障る」とは、不快で腹が立つことです。
癪とは、胸や腹のあたりが急に痙攣して激痛が走ることで、「さしこみ」のことです。
腹が立った時には胸や腹が痛むことから、「癪に障る」と言うようになりました。
「障る」と「触る」は同源ではありますが、「癪」は体の部位のように触れられるものではなく、「癪」という病気になることを表しているため、「癪に触る」と書くのは間違いです。
漢字の「癪」は、「積」に「病垂れ」からなる字で、辛苦が積もって起こる病という意味から作られた和製漢字です。
「しゃく」と読むのは、「積」を呉音で「しゃく」と読むことに由来します。
3.軍鶏(しゃも)
「軍鶏」とは、ニワトリの一品種です。丈が高くて脛が太く、大きな蹴爪を持っています。闘鶏用に飼育されるほか、食肉用・観賞用としても飼育されます。天然記念物。
軍鶏は、江戸時代にシャム国(現在のタイ)から渡来したニワトリの品種で、「シャム猫」の「シャム」と同じく原産地の「シャム」に由来します。
渡来した当時は「シャム」や、「シャム」の別称「シャムロ(暹羅)」から「シャムロケイ(暹羅鶏)」と呼ばれていましたが、明治時代から「シャモ」と呼ばれるようになりました。
漢字の「軍鶏」は、闘鶏用ニワトリの意味からの当て字で、「ぐんけい」とも言います。
軍鶏はがっしりした体で気性も荒いことから闘鶏用に飼われてきましたが、肉質も優れることから現在は主に食肉用として飼われます。
4.序ノ口/序の口(じょのくち)
「序の口」とは、相撲の番付で一番下に記される位です。序二段の下。また、その地位の力士。物事が始まったばかりのところ。
相撲では「序ノ口」と表記し、始まったばかりを意味する時は「序の口」と表記することが多いようです。
序ノ口は番付に初めて記される位なので、「上り口」という意味から古くは「上ノ口」と表記されていました。
「上ノ口」が「序ノ口」と表記されるようになったのは、「序盤」のように「序」には最初の意味があるからですが、一番下の位であるのに「上」と書かれる意味が分かりづらかったのも理由のひとつです。
物事がはじまったばかりを意味する「序の口」は、相撲の「序ノ口」に由来します。
5.時雨煮/しぐれ煮(しぐれに)
「しぐれ煮」とは、ハマグリやあさりなど貝のむき身に、生姜を加えた佃煮です。牛肉や豚肉を材料にしたものもあります。
現代では「あさりのしぐれ煮」などハマグリ以外の貝を使ったものや、「牛肉のしぐれ煮」など、生姜入りの佃煮全般を言うようになりましたが、元は、近世より桑名の名産として有名になった「時雨蛤(しぐれはまぐり)」を言いました。
その名は、芭蕉の高弟である江戸中期の俳人 各務支考(かがみしこう)が名付けたと言われます。
しぐれ煮の語源には、いろいろな風味が口の中を通り過ぎることから、一時的に降る時雨にたとえて「しぐれ煮(時雨蛤)」と名付けられたいう説や、時雨の降る時期が最もハマグリがおいしくなる季節だからといった説があります。
江戸時代の料理書には、短時間で仕上げることがしぐれ煮作り方の特徴として記されているため、むき身をたまり醤油に入れて煎る調理法が、降ってすぐに止む時雨に似ていることからとも考えられます。
6.酒池肉林(しゅちにくりん)
「酒池肉林」とは、酒や食べ物が豊富にある、非常に贅沢な酒宴のことです。「酒地肉林」と書くのは間違いです。
酒池肉林は、『史記(殷本紀)』の「以酒為池、懸肉為林(酒を以て池となし、肉を懸けて林となす)」からできた四字熟語です。
この故事は、殷の紂王(ちゆうおう)という暴君が催した宴のことで、大量の酒で池を作り、肉の塊を吊るして林にした豪奢な遊び形容したものです。
美女に囲まれた酒席を「酒池肉林」と言うことも多いですが、この四字熟語には酒と肴(肉)が贅沢に並んだ宴の意味しかないため誤用です。
このような意味が「酒池肉林」に含まれるようになったのは、「肉を懸けて林となす」の後に「男女を裸にして、その間(池や林のこと)を追いかけっこさせたりしながら、幾日も酒宴をした」という意味の話が続くことからの連想とも思えますが、後続部分を知っているならば「酒池肉林」が指す部分や意味が理解できるはずなので、単に「肉」という字の印象によるものと思われます。
7.仕舞屋/しもた屋(しもたや)
「しもた屋」とは、商店街にあって、商店でない普通の住み家のことです。
しもた屋は、「しもうたや」が音変化した語です。
「しもう」は、「終える」「片付ける」を意味する動詞「仕舞う(しまう)」に由来し、漢字では「仕舞屋」「仕舞うた屋」「仕舞た屋」などと書きます。
ここでの「しまう」は、「店をたたむ」「商売をやめる」といった意味で、江戸時代、ある程度の財産ができると店をたたんで、普通の家に住むことをいいました。
しもた屋の多くは、表向きは普通の家ですが、裏で家賃や金利などで収入を得て、裕福な暮らしをする者が多かったといわれます。
8.明明後日/明々後日(しあさって)
「しあさって」とは、あさっての翌日のことです。みょうみょうごにち。地方によっては、あさっての翌々日。
しあさっての語源には、「し」を「過ぎし」の意味とする説や、「ひ(隔)」の転訛とする説。
「し」は「さい(再)」の意味で、「再あさって」が縮まったとする説。
「明日」の重なりであることから、「し」は「しき(重・敷)」の意味など諸説ありますが未詳です。
「あさっての翌日」を表す言葉は地方によって異なり、主に西日本と東京(一部近郊地域も含む)では「しあさって」で、これが共通語となっています。
東京を除く東日本では、「やのあさって」や「やなあさって」が多く用いられます。
「やのあさって(やなあさって)」の「や」は、「いや(弥・彌)」の「や」と同じで、物事がたくさん重なることや、程度がより甚だしいさまを表す語です。
「あさっての翌々日(しあさっての翌日)」を表す言葉は、西日本では「ごあさって」と言います。
その翌日を「ろくあさって」とも言うことから、これは「しあさって」の「し」を「第四日目」と考えたものでしょう。
東京では、あさっての翌々日を「やのあさって」、その他の東日本では「しあさって」と言い、順番が逆になって使われています。
ただし、これらの分類は主なもので、「しあさって」と「やのあさって」の順番は、同じ都道府県内であっても地域によって異なるところがあります。
それに加えて、「さあさって」や「ささって」「しらさって」などの方言もあり、時差のない小さな島国とは思えないほど複雑です。