日本語の面白い語源・由来(し-⑯)注連縄・地味・若干・弱冠・自画自賛・十二指腸・四面楚歌・定石

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注連縄

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.注連縄/しめ縄(しめなわ)

しめ縄

しめ縄」とは、神事の神聖な場所と下界を区別するために張る縄のことです。新年に悪気が入らないよう家の出入り口に張ったりします。

しめ縄の語源は、「占める縄」です。
万葉集』には、しめ縄を表す語として「標縄(しめなは)」の例が見られます。
一般の者の立ち入りを禁じ、皇室や貴人が占有した野の「標野(しめの)」の「標」と同じく、標縄の「標」は「占める」の意味です。

また、古代には「しめ縄」を「尻久米縄(しりくめなわ・しりくべなわ)」といいました。
「くめ」とは「出す」の意味で、藁の尻をくめ置いて垂らした縄なので、こう呼ばれました。

漢字「注連縄」の「注連(ちゅうれん)」は、中国で死霊が入り込まないよう、水を注いで清め連ね張った縄を意味します。

しめ縄は、一定の間隔で藁を三・五・七本と垂らすため、漢字で「七五三縄」とも書き、別名を「七五三(しちごさん)」とも言います。

「注連縄」「注連飾」は新年の季語で、次のような俳句があります。

・春立と わらはも知や かざり縄(松尾芭蕉

・神風や 霞に帰る かざり藁(与謝蕪村

・仰ぎ見る 大注連飾 出雲さび(杉田久女

・輪飾りや 竈(かまど)の上の 昼淋し(河東碧梧桐

2.地味(じみ)

地味

地味」とは、華やかさ・けばけばしさがないこと、態度や行動に飾り気がなく控え目なこと、また、そのさまのことです。

地味の「地」には「本来備わっている性質」の意味があり、「味」は「趣き」の意味でも用いられることから「地味」になったとする説。
落ち着いて派手でなくなることから、「大人染みる」の略「じみ」に漢字の「地味」を当てたとする説があります。

地味は作物を育てるための土壌や、その土壌に出来た作物も意味し、特に米をいいます。
これを質素な食べ物と捉え、華やかさがないことや控えめなことの意味に関連づけようとする説もありますが、土壌や作物などとは異なるところから生じたと考える方が自然です。

3.若干(じゃっかん)

若干

若干」とは、はっきりしないが、さほど多くはない数量を表します。いくらか。多少。

若干は、「干」の字を「十」と「一」に分解し、「一の若く(ごとく)、十の若し」とした語です。

つまり、「一のようであり、十のようでもある」という意味になることから、はっきりしないが、あまり多くない数を表すようになりました。

わずかな人数を表す「若干名」といった用法は、中国古代の思想書『墨子』でも「若干人」の形で見られます。

年が若いことを意味する「じゃっかん」を「若干」と誤表記されることもあります。
「若」の字がつくことからと思われますが、年が若い意味の「じゃっかん」は、「弱冠」と書くのが正しいので注意が必要です。

4.弱冠(じゃっかん)

弱冠

弱冠」とは、男子の二十歳のこと、年が若いことです。

弱冠は、中国周時代の制度に由来します。
古代中国では男子の20歳を「弱」と言い、その年齢になると元服して冠をかぶったことから、20歳の男子を「弱冠」と言うようになりました。

弱冠

日本でも初めは男子の20歳の意味で使われていましたが、「年が若い」という意味に重みが置かれるようになり、「弱冠」は女子に対しても使われる言葉となりました。

さらに現代では、「弱冠17歳で◯◯した」「弱冠28歳で△△した」というように、20歳に限らず、一般的に成し遂げられる年齢よりも若いという意味でも用いられるようになりました。

「若い」の意味が強まったことで、読みが同じで「若」の字が付く「若干」と誤表記されることも多くなりました。

5.自画自賛/自画自讃(じがじさん)

自画自賛

自画自賛」とは、自分のした行為や自分を褒めることです。手前味噌。「自我自賛」と書くのは間違いです。

自画自賛は、東洋画の詩歌・文章に由来します。
東洋画では、その絵画に関した詩文を記すこと、また詩文そのものを「画賛」や「賛」と言いました。

普通、「賛」は他人に書いてもらうものなので、自分で描いた絵に「賛」を書き入れることは「自画自賛」や「自画賛」と言いました。

自画自賛の絵画の中には、他人からも立派な作品と評価されているものがあり、悪い意味で使われているとは限りませんでした。

それは、東洋画でいう「賛」には「褒める」の意味が含まれていないためです。

自画自賛とは

しかし、「賛」の漢字自体には「褒め称える」の意味があるため、自分の描いた絵を自分で褒めることと捉えられ、一般には自分自身を褒める意味で「自画自賛」が使われるようになりました。

6.十二指腸(じゅうにしちょう)

十二指腸

十二指腸」とは、胃の幽門に続く小腸の最初の部分です。

十二指腸は、指を12本横に並べたくらいの長さという意味で命名されました。

日本初の西洋医学の翻訳書である『解体新書』(1774年)には、「十二指腸は其の長さ十二の指の横径の如くして、胃の下口に接す」と書かれています。

ただし、十二指腸の実際の長さは、指12本分の長さよりもやや長い25~30cmです。

7.四面楚歌(しめんそか)

四面楚歌

四面楚歌」とは、周りを敵や反対者に囲まれて孤立し、助けのない状態のたとえです。孤立無援。

四面楚歌は、中国前漢時代の史書『史記(項羽本紀)』の故事によります。
その故事とは、「楚国の項羽が垓下(がいか)に追い詰められ、漢軍に周囲を取り囲まれた。
項羽は夜更けに四面を囲む漢軍が楚の国の歌をうたうのを聞き、楚の兵たちが漢に降伏したと思い絶望した。」というものです。

そこから、敵や反対者に囲まれて孤立した状態を「四面楚歌」と言うようになりました。

8.定石/定跡(じょうせき)

定石

定石(定跡)」とは、物事を行うとき、一般に最善とされる方法や手順のことです。

定石は囲碁の言葉で、ある局面で最善とされる一定の打ち方をいい、現代ではオセロでも同様の意味で用いられます。

定跡は将棋で、最善とされる一定の指し方のことで、将棋は石ではなく駒を用いるため「定石」を「定跡」と表記するようになりました。

これら囲碁や将棋で用いる意味から、物事を行う際に最も良いとされる決まったやり方を「定石(定跡)」と言うようになりました。