日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.泥に灸(どろにやいと)
「泥に灸」とは、「無駄なことや効き目のないことのたとえ」です。
泥に灸の「灸(やいと)」は、「お灸」のことです。
泥に灸をすえても効果がないことから、無駄なことや効果がないことのたとえとなりました。
ただし、同様の句である「石に灸」が先にあり、地面にあるものの連想から「泥に灸」が生じたと思われます。
2.トルコ石(とるこいし)
「トルコ石」とは、「銅・アルミニウムの燐酸塩を含む青または青緑色の鉱物」です。12月の誕生石。ターコイズ。トルコ玉。
トルコ石の原産は、ペルシャ(現在のイラン)です。
原産が異なるにも関わらず、「トルコの石」と呼ばれるようになったのは、ペルシャからトルコを経由していたことからか、トルコの商人によってヨーロッパへ広められたことからといわれます。
「トルコ石」の名は日本で考えられたものではなく、英名の「turquoise」が、フランス語で「トルコの石」を意味する「pierre turquoise」に由来するところにあります。
3.胴元(どうもと)
「胴元」とは、「サイコロ博打などの親。賭場を開帳して、寺銭をとる者。胴親。物事を締めくくる人。元締め」のことです。
胴元は、元々、「筒元」と書きました。
「筒元」の「筒」はサイコロを入れて振る筒のことで、「元」は元締めのことです。
「胴」の字を当てて「胴元」になったのは、腹巻きにお金を入れていたことからといわれます。
4.灯台草(とうだいぐさ)
「トウダイグサ」とは、「日当たりのよい道端や畑などに生えるトウダイグサ科の二年草」です。有毒。スズフリバナ。
トウダイグサの「トウダイ」は、岬などに建てられる航路標識の灯台ではなく、昔の屋内照明器具の燈台(燈明台)のことです。
トウダイグサは上に伸びた草の先に椀状の葉があり、その中に黄色い花が咲く様が、油火を灯した燈台に似ていることからこの名が付きました。
「灯台草」は春の季語です。
5.時(とき)
「時」とは、「過去から未来へ移り流れゆく現象。時間。時刻。時点。季節。時候。時勢。時代。好機」のことです。
時の語源には、とどまることなく流れることから「とこ(常)」の転とする説と、速く過ぎることから「とき(疾)」の意味とする説があります。
「年」の語源が「疾し(とし)」にあるとすれば、それよりも速く過ぎる「時」の語源が「とき(疾)」でも不自然ではありません。
また、「常」は「とどまることなく」の意味からとされますが、「常にあるもの」は「停滞」を意味し、「流れる」という意味が弱いことから、「とき(疾)」の方が妥当です。
漢字「時」の「寺」は、「寸(て)」と音符「之(あし)」の会意兼形声文字で、「手足を働かせて仕事すること」を意味します。
その「寺」に「日」が加わり、「日が進行すること」を表しています。
6.歳/年(とし)
「年」とは、「時の単位。1月1日から12月31日まで。年齢。よわい。老齢。老年。高齢。季節。時節」のことです。
年は、「穀物」や「稲」を意味した「とし」が語源です。
古くは「穀物」、特に「稲」を「とし」といい、稲が実ることも「とし」といいました。
『名義抄』には「年、稔、季」に「トシ」とあり、「稔」には「ミノル」と「トシ」の訓があります。
時の単位「一年」を言うようになったのは、穀物の収穫サイクルを一年として考えたことによります。
「稲」が「とし」と呼ばれるようになった由来は、「一年」を表す時の単位と同じように、収穫までの期間は早く過ぎるものであるところから、「疾し」「敏し」からと考えられます。
また、「収穫」ではなく「穀物(稲)」や「豊作」を中心に考えるならば、「と」が「富」、「し」が「食物」「収穫」の意味や、「稲」を表す「たよし(田寄)」からとも考えられます。
和語の「とし」と、漢字の「年」や「歳」は、成り立ちが似ています。
漢字の「年」は、「禾(いね)」に音符「人」で、「人」には「くっついて親しみ合う」の意味が含まれており、穀物が熟してねばりを持つ状態になるまでの期間を表しています。
漢字「歳」は「戉(エツ:刃物の意味)」と「歩」からなる字で、「歩」は「としのあゆみ」、つまり「時の流れ」の意味があり、刃物で穂を刈りとるまでの時間の流れを表したのが「歳」です。
7.鯔(とど)
「トド」とは、「成長したボラ」のことです。オオボラ。
トドの語源は、ボラが最も成長したものをいうことから、「止め」の意味であります。
出世魚のボラは、稚魚から大きくなるにしたがって名前を変えていき、最後に「トド」と呼ばれるため、「とどのつまり」の「とど」や、「結局」「限度」の意味で使われる「とど」は、この「トド」に由来するといわれます。
しかし、「トド」が「止め」であるように、「とどのつまり」などの「とど」も同様に「止め」の意味と考えるのが普通で、これらの言葉が魚の「トド」に由来するという説は非常に信憑性が低いものです。
「鯔」は秋の季語です。
8.トロ
「トロ」とは、「マグロの肉のうち、脂肪の多い部分」のことです。
トロは脂肪分を多く含み、食べると舌の上でトロッとしたとろけるような感触があることから、こう呼ばれるようになりました。
この部位が「トロ」と呼ばれ始めたのは大正時代で、それ以前は「脂身」なので「アブ」と呼ばれていました。
江戸時代には赤身が上等な部位と考えられていたため、トロが好んで食べられるようになったのは、大正末以降のことです。
特に、トロが注目されるようになったのは、保存や輸送の技術が向上し、食の欧米化が進んで脂分の多い食べ物が好まれるようになった戦後からです。
「トロ」は本来、マグロの部位を指す呼称ですが、豚肉の「豚トロ」や鮭の「とろサーモン」など、脂の乗った肉(身)を表す語としても用いられるようになりました。
9.トリ
「トリ」とは、「寄席で最後に出演する人。いくつかある演目のうち最後を締めくくる人。また、その演目」のことです。
トリは、元々、寄席の用語です。
寄席の興行収入は、寄席の経営者側と芸人のギャラに分けられます。そのギャラは、最後に出る主任格の真打が全て受け取り、芸人達に分けていました。
演者の最後を取る(真を打つ)ことや、ギャラを取るところから、最後に出演する人を「トリ」と呼ぶようになりました。
上記の意味から、「トリ」を漢字表記する場合、本来は「取り」です。
しかし、トリになる人は主任格であることから、「主任」の漢字が当てられていました。
現在ではギャラの受け取りに関係なく、最後に出演する人を「トリ」と呼びます。
最初に演じる芸人は、新人で「まっさら」の意味から「サラ」、「はじめ」の意味で「ハナ(端)」などと呼ばれます。
また、ギャラは「割り振る(分配)」ところから、「ワリ」と呼ばれます。
寄席の最後を務めるトリは主役であるため、普通は自分の取り分を多くして、残りを他の芸人に分配します。しかし、入りの少ない時は、身銭を切って配る真打もいたということです。
トリの他に、「大トリ」という言葉もあります。
これは、NHK紅白歌合戦の紅組と白組のように、それぞれトリがいる場合、その一方の人は最後を締めくくるだけでなく、全出演者の最後になることから、「大」を冠して「大トリ」と呼ぶのです。
10.唐突(とうとつ)
「唐突」とは、「前ぶれもなくだしぬけであるさま。突然。不意」のことです。
唐突は、「突き当たる」を意味する漢語に由来します。
唐突の語源は、唐の国が突然何かをしたからと考えられることもありますが、原義が「突き当たる」ですから、「不意」の意味で国名と絡めて考えることは出来ません。
唐突の「突」は、原義のとおり「突く」の意味です。
「唐」は「口」に「庚(ぴんと張る)」で、口を張って大言することを表した漢字です。
その意味では「荒唐無稽」の「荒唐」に用いられますが、普通、「大きな国」の意味を含めた国名に用いられます。
「大言すること」が「突き当たる」に通じるとは考え難いため「唐の国」を表していると思われますが、「突き当たる」の意味に使われるようになった由来は未詳です。