日本語の面白い語源・由来(に-③)肉・ニス・ニコチン・若気る・大蒜・庭・膠も無い・女房

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肉

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.肉(にく)

ステーキ

」とは、「動物の皮膚に覆われ骨に付着する柔らかい組織。食用にする動物の柔らかい部分。果実の皮と種子の間の柔らかい部分」のことです。

肉の漢字は、動物の筋肉の線を描いた象形文字です。読みの「にく」は呉音です。

肉を古くは、「しし(獣・鹿・猪と同源)」と言い、平安中期の『和名抄』でも「しし」としています。

食用としての肉は、牛・豚・鶏などの鳥獣類の筋肉部分を指すのが一般的ですが、脂や内臓を含めたり、魚介類の身や果物の実など、広義では柔らかい部分を指して「肉」といいます。

2.ニス

ニス

ニス」とは、「天然または合成の樹脂を溶剤に溶かした塗料」のことです。木材などの材料の表面を美化・防湿するために塗ります。ワニス。仮漆。

ニスは、英語の「varnish」、オランダ語の「vernis」からの外来語で、最初に使われたギリシャの地名に由来するといわれます。

日本では本来の発音に近い「ワニス」の呼称が用いられ、古来からある「漆(うるし)」に対するものとして、漢字では「仮漆」の字が当てられました。

やがて、「ワニス」の「ワ」を省略して「ニス」と呼ぶことが多くなりましたが、これも「漆」に対するものという認識が大きく影響しています。

その認識とは、「ワニス」という音から「漆」を「和ニス」と呼び、本来の「ワニス」は「洋ニス」と呼んで区別されるようになったことです。

「ワニス」と言うと、「和ニス(漆)」と「ワニス(洋ニス)」の二通りの解釈ができることから、日本では「ワ」を省略した「ニス」の形で呼ばれるようになりました。

3.ニコチン

ニコチン

ニコチン」とは、「タバコの葉(下の写真)に含まれるアルカロイドの一種で、無色の揮発性液体」です。

タバコの葉

ニコチンの語源は、フランスの外交官 ジャン・ニコ(J.Nicot)の名前に由来します。
ポルトガル大使であったジャン・ニコは、リスボンであらゆる病気に効くというタバコ種の植物を貰い受け、大使館の庭に植えて栽培・研究をしました。

研究の中から、タバコの葉には偏頭痛に効く成分が含まれていると確信しました。

その後、フランスの王妃 カトリーヌ・ド・メディシスが片頭痛に悩まされていたことから、ジャン・ニコは葉の粉末を献上し、頭痛薬として広めました。

その時に用いたタバコ種の草は、ジャン・ニコの名に因み「ニコチアナ」と名付けられました。

さらに成分研究が進んだ300年後、タバコに含まれるアルカロイドの中でも重要な種が分離され、「ニコチン(ニコチアニン)」と名付けられました。

4.若気る(にやける)

若気る

にやける」とは、「男が女のように色っぽい様子をしたり、なよなよしたりする様子。俗に、ニヤニヤする。薄笑いを浮かべること」です。

にやけるは「若気(にやけ)」を動詞化した言葉で、漢字では「若気る」と書きます。

「若気」とは、鎌倉・室町時代に男色を売る若衆を呼んだ言葉で、「男色を売る」の意味から「尻(特に肛門)」も意味するようになった語です。

それが動詞化され、男が色っぽい様子をすることを「にやける」と言うようになりました。

「若気」を古くは「にゃけ」と発音し、「にやける」は明治頃まで「にゃける」と言いました。

明治時代以降、「にゃける」は「ニヤニヤする」という意味でも使われ始めていることから、声を出さず薄笑いを浮かべる様子を表した「ニヤニヤ」や「にやつく」などとの類推から、「にゃける」が「にやける」になったと思われます。

現代では多くの人が「にやける」を「薄笑いを浮かべる」の意味で用いるようになったため、誤用とされなくなってきています。

また、ジェンダーレスの観点から、今後は本来の「にやける」の意味で使う場面が無くなっていくと考えられ、「薄笑いを浮かべる」の意味に定着すると思われます。

5.大蒜/葫(にんにく)

ニンニク

にんにく」とは、「全体に強い臭気があるヒガンバナ科の多年草」です。鱗茎は大きく数個の小鱗茎に分かれ、食用・強壮薬・香辛料などに用います。ガーリック。

にんにくの語源には、「匂悪・匂憎(においにくむ)」の略や、「香匂憎(かにおいにく)」の意味など諸説ありますが、仏教用語の「忍辱(にんにく)」を語源とする説が有力です。

忍辱は、侮辱や苦しみに耐え忍び心を動かさないことを意味し、その修行は「忍辱波羅蜜」といいます。

仏教では、「ニンニク」「ニラ」「ネギ」「ラッキョウ」「ノビル」など、臭気の強い五種の野菜を「五葷(ごぐん)」「五辛(ごしん)」と言い、これを食べると情欲・憤怒が増進する強情食品として、僧侶たちは食べることが禁じられたいました。

五葷のひとつである「にんにく」を、僧侶たちが隠し忍んで食べたことから、「忍辱」の語を隠語として用いたとされます。

にんにくの語源を「忍辱」とする中には、僧侶が修行に耐えるため、強力な匂いに耐え食したことからとする説もあります。

しかし、食べることが禁じられていたことに反するため、これは「忍辱」の説から派生した誤解釈と考えられます。

にんにくの漢字「大蒜」の本来の読みは「おおひる」で、「蒜(ひる)」は「ニンニク」「ネギ」「ノビル」など、ヒガンバナ科の多年草で食用となるものの古名です。

また、古くは「蒜」が「葫」と表記され、「にんにく」の意味として用いられていました。

「大蒜」「蒜」「葫」は春の季語で、次のような俳句があります。

・蒜や 畑の隅に たくはへる(土候)

・墓畠 蒜の花 咲きいでぬ(飯田蛇笏)

・蔵王脊に 蒜洗ふ 夕まぐれ(蓬田紀枝子)

・蒜の 臭さに馴れて 夜店見る(木下いさむ)

6.庭(にわ)

庭砂利・庭

」とは、「敷地内に設けた空間で、木や草花を植えたり、石や池などを配する場所」です。庭園。

古くは何かを行うための平らな所を指して「庭」と言い、神事・狩猟・農事などを行う場所や、波の平らな海面などのことも言いました。

「学びの庭」といった用法は、このような意味を持っていたことに由来します。

奈良時代には、草木が植えられたり池が造られたところは「園(その)」や「山斎・島(しま)」と呼ばれ、「庭(には)」と区別していましたが、平安時代頃から「には」が庭園の意味に転じました。

庭の語源は諸説ありますが、有力な説を大別すると「土間(はにま)」の略転、「土間(にま)」の意味、「土場(には)」の意味など「土」の語系とする説と、「に」が「な(滑・平)」の転、「は」が「延」の意味で広がるところに用いる接尾語とする説があります。

「赤土」は「丹(に)」と言ったことから、庭の「に」は「土」や「丹」と同根とも考えられますが、「庭」は平らな所をさす語で海面などもいったことから、「な(滑・平)」の転+「延」を意味する接尾語の説が有力と考えられます。

また、「場(ば)」は「には」よりも遅く見られる語のため、庭の語源とは考えられませんが、庭の「は」から派生したとは考えられます。

7.膠も無い/鰾膠も無い(にべもない)

ニベもない

にべもない」とは、「愛想がない。そっけない。冷たい」ことです。にべない。

にべもないの「にべ」は、スズキ目ニベ科の魚の名前です。
ニベの浮き袋は粘り気が強く、接着剤の原料として使用され、「膠(にかわ)」や「にべにかわ」と呼ばれました。

粘着力の強さの意味から、「にべ」は他人との親密関係を意味するようになり、ひどく無愛想なことを「にべもない」や「にべない」と言うようになりました。

強調語には「にべもしゃりしゃりもない」があります。

8.女房(にょうぼう)

女房

女房」とは、「妻。多く自分の妻のことをいう場合に用いられる言葉」です。にょうぼ。

「房」は「部屋」の意味で、女房は「女官の部屋」という意味でした。

平安中期以降、女房は女官の部屋の意味から、私室を与えられた高位の女官、貴人邸に仕える上級の侍女を指す言葉となり、出身の階級や身分によって、「上臈(じょうろう)」「中臈(ちゅうろう)」「下臈(げろう)」に大別されました。

女房が「妻」の意味として用いられた例は、平安時代の貴族の日記にも見られますが、この頃は単に「女性」の意味でも用いられており、妻を遠まわしに表現したものです。

「妻」の意味に定着したのは、中世後期から近世前期頃です。