日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.海星/人手/海盤車(ひとで)
「ヒトデ」とは、「ヒトデ綱の綱棘皮動物の総称」です。すべて海産。体は扁平で、5本以上の腕を放射状に突出します。
最も一般的なヒトデは、5本の腕を放射線状に出したもので、その形が人の手に見えることから付けられた漁師語です。
漢字の「海星」は、その腕の形を星形に見立てたものです。
ヒトデを英語では「starfish(星の魚)」や「sea star(海の星)」、フランス語で「etoile de mer(海の星)」、ドイツ語で「Seesterne(海の星)」というように、「星」に見立てている国は多いようです。
また、星のマーク「☆」「★」は、ヒトデの形が元になっているといわれます。
2.人(ひと)
「人」とは、「霊長目ヒト科の哺乳類で、直立二足歩行する最も高等な動物の一種」です。言語・思考・理性・文化的創造の能力を有し、道具を使用します。人間。人類。
人は万物の霊から、「霊止」「霊者」など「霊(ひ)」を語源とする説が多くあります。
また、「日」に関連付ける説や、「秀者」の意味とする説もありますが未詳です。
「人と人が支え合ってるから人なんです」という金八先生の名言がありますが、「人」という漢字の成り立ちはそうではありません。
漢字の「人」は、立っている人間を真横から見た形を表した文字です。
これは一人で立っている姿なので、誰からの支えも受けない一人前の人間が「人」とも言い換えられますが、漢字の由来にそこまでの意味はありません。
3.冷や麦/冷麦(ひやむぎ)
「ひやむぎ」とは、「細打ちにしたうどんを茹でて冷水や氷で冷やし、汁をつけて食べるもの」です。
うどんを切って細くしたものは、「切り麦(きりむぎ)」と呼ばれていました。
切り麦を熱したものを「あつむぎ(熱麦)」と呼び、冷やしたものを「ひやむぎ(冷麦)」と呼ぶようになりました。
一般にうどんは熱して食べることから、「あつむぎ」はあまり使われなくなり、「ひやむぎ」の名は残りました。
「冷や麦」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・冷麦は 夜のものとて 月のさす(宗徳)
・酒の瀑布 冷麦の九天より 落るならむ(宝井其角)
・命惜しまむ 冷麦のうまかりし(森澄雄)
・冷麦や 看取りの喉に 心地良く(稲畑廣太郎)
4.備長炭(びんちょうずみ/びんちょうたん)
「備長炭」とは、「和歌山県熊野地方で産する良質の木炭」です。
備長炭は、元禄年間(1688~1704)に、紀州国田辺(現在の和歌山県田辺市)の備中屋(びっちゅうや)長左衛門が、ウバメガシを材料に作り販売を始めたことから、「備長炭」の名がつきました。
備長炭は炎や煙を出さず、灰も少なく、遠赤外線効果もあることから、うなぎの蒲焼きや焼き鳥などの炭火焼き料理で使われます。
本来、「備長炭」はウバメガシの炭を言いますが、広義にはカシ(樫)全般の炭を「備長炭」と呼び、外国産のものでも「備長炭」として販売されるようになったため、和歌山県産の備長炭は「紀州備長炭」と呼んで差別化を図っています。
その他の地方産には、「土佐備長炭」「日向備長炭」などがあります。
5.悲喜交々/悲喜交交/悲喜こもごも(ひきこもごも)
「悲喜こもごも」とは、「悲しみと喜びを代わる代わる味わうこと」です。
悲喜こもごもの「こもごも」は、漢字で「交交(交々)」と書き、「代わる代わる」「次々に」という意味です。
そのため、悲喜こもごもは、悲しみと喜びを代わる代わる味わうことを意味します。
古くは、漢文訓読に多く用いられ、中世までは「こもこも」と清音でした。
こもごも(こもこも)の「こ」は、「これ」「ここ」などの意味を持つ「此」で、「此も此も」からと考えられます。
「悲喜交交」という四字熟語ですが、「こもごも」はひらがな表記されることが多いようです。
6.顰蹙を買う(ひんしゅくをかう)
「顰蹙を買う」とは、「社会的良識に反する言動をして、人から嫌われ、軽蔑・非難される」ことです。
顰蹙の「顰」は「顔をしかめる」「眉をひそめる」を意味し、「蹙」は「顔や額にしわを寄せる」の意味を表します。
そこから「顰蹙」は、顔をしかめたり、眉をひそめるなどして、不快の念を示す言葉となりました。
顰蹙を買うの「買う」は、「恨みを買う」「反感を買う」と同様に、自分の言動が原因で悪感情をもたれることを意味します。
7.人熱れ(ひといきれ)
「人いきれ」とは、「人が多く集まっていて、体から出る熱気やにおいでむんむんすること」です。
人いきれの「いきれ(熱れ)」は、熱気でむっとする意味の動詞「いきれる(熱れる)」の名詞形で、蒸されるような熱気を意味します。
「いきれる(熱れる)」から生じた語には、「草いきれ」「熱り立つ(いきりたつ)」「熱る(いきる)」などがあります。
「いきれ(いきれる)」の語源は定かではありませんが、「熱くなる」「燃え立つ」を意味する朝鮮語「ikїl」と同源かといわれます。
8.柊黐(ひいらぎもち)
「ヒイラギモチ」とは、「ヨーロッパ・西アジア・北アフリカ原産のモチノキ科の常緑高木」です。秋から冬に赤い小球形の実を結びます。西洋ヒイラギ。ホーリー。
ヒイラギモチは、葉が「ヒイラギ」に似ていることからの名です。
日本在来のヒイラギはモクセイ科、ヒイラギモチはモチノキ科で、種類は異なります。
ヒイラギモチは、常緑で赤い球形の実が冬に目立つため、古くから聖木とされ、実のついた枝はクリスマスの飾りに用いられるようになりました。