日本語の面白い語源・由来(ひ-⑧)ヒヤシンス・東・柊・ピーマン・ひつまぶし・彼岸桜・引っ越し・ピンからキリまで

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ヒヤシンス

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.ヒヤシンス/hyacinth

ヒヤシンス

ヒヤシンス」とは、「地中海沿岸の原産のキジカクシ科の多年草」です。春、青・紫・紅・黄・白の花を総状につけます。風信子。錦百合。ヒアシンス。

ヒヤシンスは英語名「hyacinth」に由来しますが、これはギリシャ神話に出てくる美少年「ヒュアキントス(Hyakinthos)」の名前に由来します。

ヒュアキントスは、太陽の神アポロンにも、西風の神ゼフィロスにも愛されていました。

ヒュアキントスとアポロンが楽しそうに円盤投げをしている姿を見たゼフィロスは嫉妬し、風を吹かせたところ、アポロンの投げた円盤がヒュアキントスに命中して死んでしまいました。

このとき流れ出た血からこの花が咲いたため、彼の名にちなみ「ヒヤシンス」と名付けられたという話です。

ただし、ギリシャ時代のヒヤシンスは、植物学上「アイリス」か「ヒエンソウ」であったと考えられています。

日本にヒヤシンスが渡来したのは江戸末期で、明治時代には「ヒアシント」と呼ばれていました。

「ヒヤシンス」「風信子」は春の季語で、次のような俳句があります。

・思ひ切り 悪き女や ヒヤシンス(高澤良一)

・ヒヤシンス 紫は祖母 眠る色(入口久弥女)

・ヒヤシンス 高きを渡る 風に和す(有馬朗人)

・墨の香も 孫に磨らせつ 風信子(瀧井孝作)

2.東(ひがし)

東・富士山ご来光

」とは、「方角のひとつ。東方。太陽の出る方角。西の反対」です。

ひがしは、「ひんがし」の音変化した語です。
「ひんがし」は「ひむかし」が転じた語で、「ひむかし」「ひむがし」「ひんがし」と音変化して、「ひがし」となりました。

「ひむかし」は太陽が登る方角を意味する「日向処(日向かし)」が語源とも言われます。
しかし、「し」は「あらし(嵐)」の「し」など「風」を意味する言葉で、「日向風」の意味とする説が有力とされます。

漢字の「東」は、「木」+「日」の会意文字で、木の間から日が出る様子を表しているといわれていました。

これが現在では誤りとされ、「東」の漢字の正しい由来は、中に心棒を通し、両端をしばった袋を描いた象形文字となっています。

3.柊(ひいらぎ)

柊

ヒイラギ」とは、「葉は卵形で厚くて硬く、縁先にはトゲ状になった鋭鋸歯があるモクセイ科の常緑小高木」です。節分に鰯の頭をつけて戸口にさすと悪鬼を追い払うといわれます。ひらぎ。

ヒイラギは葉のトゲに触れるとヒリヒリ痛むことから、「ひりひり痛む」という意味の古語「ひひらく(疼く)」に由来します。

『古事記』に「比々羅木(ひひらぎ)」とあることから、「ギ」は「木」のことで、「ひひらく木」が語源と考えられます。

漢字の「柊」は、中国で「木名」という説明はあるものの植物の種類としては見られないため、日本で当てられた漢字と思われます。

「柊」が当てられた由来は、「冬」の意味もあるでしょうが、「ひひらく」の漢字「疼」と関連づけられたものと考えられます。

正月や節分にヒイラギを飾る風習は平安時代から行われていましたが、節分に鰯の頭をつけて戸口に挿す風習は近世以降から行われるようになりました。

クリスマスの飾りで使うのはこのヒイラギではなく、「西洋柊(せいようひいらぎ)」とも呼ばれるモチノキ科の「ヒイラギモチ」です。

「柊の花」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・ふれみぞれ 柊の花の 七日市(宝井其角

・柊の 花や戸板の すすけだつ(老雅)

・柊の 花一本の 香かな(高野素十)

・柊の 花のこぼれや 四十雀(しじゅうから)(浪化)

4.ピーマン

ピーマン

ピーマン」とは、「果実は辛味がなく甘味があるトウガラシの栽培変種」です。普通、緑の若い果実を食用としますが、赤や黄色のものもあります。

ピーマンの語源は、トウガラシを意味するフランス語「piment(ピマン)」です。

日本には江戸時代にポルトガル人によって伝えられましたが、当時入ったものは辛みのあるトウガラシで、甘み種が入ったのは明治初期でした。

その流れから意味がずれて、辛みのないトウガラシを「ピーマン」と呼ぶようになりました。
日本でいう「ピーマン」は、フランス語では「poivron(ポワブロン)」、英語では「green pepper(グリーンペッパー)」と言います。

スペイン語で「トウガラシ」を意味する「pimento(ピメント)」も、フランス語の「piment」と同源で、「顔料」「塗料」を意味するラテン語「pigmentum」に由来します。

ピーマンが日本で広く栽培されるようになったのは、第二次大戦後です。

5.ひつまぶし

ひつまぶし

ひつまぶし」とは、「うなぎの蒲焼きを細かく刻んでご飯にまぶした料理」です。名古屋名物。商標名。

ひつまぶしの語源は、細かく刻んだうなぎの蒲焼をお櫃のご飯にまぶすことからです。
漢字で書くと「櫃まぶし」もしくは「櫃塗し」になりますが、普通はひらがなで「ひつまぶし」と表記されます。

「ひつまむし」とも呼ばれるため、京阪地方で「うなぎ」や「鰻飯」をいう「まむし」を語源とする説もありますが、名古屋周辺地域では「まぶす」を「まむす」とも言うことから、京阪地方の「まむし」は関係ないと思われます。

ひつまぶしの食べ方は、お櫃から茶碗に取り分け、一杯目はそのまま、二杯目にネギやわさびなどの薬味をのせ、三杯目にお茶もしくは出汁をかける食べ方が一般的です。

明治時代から作られるようになったものですが、発祥については、まかない料理であったとする説。うなぎの皮は冬になると固くなるので、美味しく食べるための工夫であったとする説。大きなお櫃にうなぎをまぶして、お座敷で小分けして出したとする説があります。

ひつまぶし発祥の店についても、名古屋市熱田区の「あつた蓬莱軒」とする説と、名古屋市中区錦の「いば昇」とする説があり、「ひつまぶし」は1987年に「あつた蓬莱軒」が商標登録しています。

6.彼岸桜(ひがんざくら)

彼岸桜

彼岸桜」とは、「サクラ類中最も寿命が長く、大木となるバラ科の落葉高木」です。

花期が早く、他の桜よりも早く開花します。
その開花時期が、春の彼岸の頃になるため、「彼岸桜」と命名されました。

彼岸桜は「小彼岸桜(コヒガンザクラ)」とも呼ばれ、接頭語の「小」は「小さい」という意味です。それ対して、「大彼岸桜」と呼ばれる彼岸桜もあります。

「彼岸桜」は春の季語で、次のような俳句があります。

・尼寺や 彼岸桜は 散りやすき(夏目漱石

・先づ彼岸 桜に集ふ 旅となる(稲畑汀子)

・単線の 鉄橋彼岸 桜かな(秋田谷明美)

・満開の 彼岸桜に 風荒し(中村好子)

7.引っ越し(ひっこし)

引っ越し

引っ越し」とは、「住居や部屋を移ること。移転すること」です。

引っ越しは、動詞「引き越す」が「引っ越す」となり、それが名詞化された語です。
「越す」は山や川を越えて向こう側へ行く意味があり、「越す」のみでも「引っ越しする」の意味で使われます。

「引く」については、以下の通り二説あります。
ひとつは、「引退」「身を引く」などの「退く」の意味から、現在の居場所から退いて越すためとする説。
もうひとつは、「貨車を引く」の「引く」で、タンスなどの生活道具を貨車に載せ、それを引いて越していたことからとする説です。

「引っ越し(引き越す)」の語が見られるようになった時代的にも意味の面からも、両説は不自然ではなく、正確な語源は未詳です。

近世には「家移り(やうつり)」と言っており、現在でも引っ越しを「家移り」と言う地域があります。

8.ピンからキリまで

ピンからキリまで

ピンからキリまで」とは、「最初から最後まで。最上のものから最低のものまで」です。略して「ピンキリ」という。

ピンからキリまでの「ピン」は、「点」を意味するポルトガル語「pinta(ピンタ)」に由来します。

「pinta」から転じた「ピン」は、かるたやサイコロの目の「一」を意味するようになり、更に「初め」「最上」の意味となりました。

ピンからキリまでの「キリ」の語源には、二通りの説があります。
ひとつは、「十字架」を意味するポルトガル語「cruz(クルス)」が転じた語で、「十」から「終わり」「最低」の意味になったとする説。
もうひとつは、「限り」の意味の「切り」を語源とする説です。

天正年間に流行した天正かるたでは、各グループの終わりの12枚目を「キリ」と称していることから、「十字架(クルス)」の「十」が語源とは考え難いものです。

そのため、キリの語源は「限り」の意味の「切り」が有力とされています。